31:決闘開始 VS縁紅慶雄
本日は四話更新となっております。ご注意ください。
こちらは一話目です。
「それでは時間となりましたので、只今より決闘を開始させていただきます!」
「「「ーーーーー~~~~~!!」」」
司会を務める三年生の先輩の声に合わせて、ホールに歓声が響き渡る。
「今回はどちらもまだ仮面体に名前を付けていないため、本名での紹介とさせていただきます。では、東! 今年の新入生、魔力量第一位! 翠川鳴輝!!」
「行ってこい」
「はい」
俺はマスカレイドを使用するためのデバイスと、発動を補助するためのフードを着けた上で、大型盾を背負ったまま舞台の上へと上がる。
「西! 今年の新入生、魔力量第三位! 縁紅慶雄!!」
縁紅の名前が呼ばれ、それに合わせて縁紅が舞台の上へと上がってくる。
その顔には嗜虐的な笑みが浮かんでいて、まるでこれから起きる事に対して舌なめずりをしているかのようだ。
「さて、皆さま知っての通り、今回の決闘はかの女神様が主催され、審判を務められます。よって、何人たりとも、その結果と過程に口出しする事は許されないものとお思いください」
司会の先輩の言葉は、どんな振る舞いであっても女神が止めない限りは合法である、という事を無難な形に言い換えているようなものである。
尤も、俺にはそんな振る舞いをする気はないが。
「それではカウントダウンを始めさせていただきます! 3……2……1……」
司会の先輩が舞台の外へと避難すると共に、舞台の外まで攻撃が飛んで行かないようにする不可視の膜……結界が展開される。
それを見た上で、俺は自分が付けているデバイスに右手を当てる。
縁紅は左手をデバイスに添えて、右手を何もない腰の辺りへと持っていく。
「0!」
「「マスカレイド発動!」」
そして、カウント0と共に俺と縁紅はマスカレイドを発動して、光に包まれた。
■■■■■
ナルの全身が光に包まれる。
本来の肉体は安全な異相空間へと送られて、代わりに魔力で構築された仮面体が、光の塊が形を変えていくと言う形式で以って現れていく。
ナルの場合、それは髪の毛が伸び、胸部が張り、全体的な体つきが丸みを帯びると言うものであり、その形だけ見ても理想的な女性の肉体と言えるものでもある。
そうして、完全に形が変わった光の塊から光が剥がれていき、仮面体が見えてくる。
足には無骨な黒のブーツを履いて。
脚から首、そして腕の先までは、ファスナーが全開となっていて露出度が高めではあるけれど、大事な部分はきちんと隠れているライダースーツを纏って。
背中にはマスカレイド発動前からあったのと同じ盾を背負って。
そして顔は……基本的な造りは変わらず、けれど女性的になったものに、鮮やかなターコイズブルーの瞳と腿にまで及ぶ長さの銀髪を携えたものになる。
「マスカレイド完了」
通常の仮面体は、仮面体と言う名の通りに何かしらの物体で顔を隠す。
けれど、ナルの仮面体は一切隠さない。
見るものが見れば、極めて特異性の高い仮面体が、美しい花のような女性の声と共に姿を現した。
同時に、縁紅の仮面体も姿を現す。
体つきは変わらないが、黒地の全身タイツの上に、黄金色のベストを身に着け、プロテクターを各所に張り付けたことで、そのシルエットは膨らんで見える。
顔を隠しているのは黄金色のマスクであり、鼻より上の部分を奇麗に覆い隠している。
そして腰のホルスターに収められているのは、ベストなどに合わせた黄金色のリボルバー。
体に付けた全ての黄金が舞台を照らす照明の光を反射し、縁紅の存在を、自尊心を、その全てを誇示するかのように光り輝く。
その輝きが虚飾であるか真であるかはまだ誰にも分からない。
けれど、縁紅の仮面体は主をしっかりと守り、誇示するように、舞台へと姿を現した。
「マスカレイド完了……からの!」
「!?」
そうして、二人のマスカレイドが完了し、お互いがお互いの仮面体を認識した刹那だった。
縁紅は腰からリボルバーを抜くと、そのまま腰だめに発射する。
ホール中に火薬の爆発による発砲音が響くと共に、リボルバーの銃口から黄金色の弾丸が放たれる。
その弾丸は真っすぐにナルの腹に向かって行き……。
「ちっ」
「ま、それくらいはしてくると思ってた」
開始と同時に横に向かって跳んでいたナルの脇腹を掠め、そのまま直進。
舞台を囲う結界に衝突すると、魔力に分解されて消滅する。
「それで? まさか不意打ち一発で限界ですなんて言わないよな?」
ナルは背中の盾を右手で持ち、腰を落とし、盾の陰へと完全に姿を隠す。
「言うわけねえだろ」
対する縁紅は片手でリボルバーを持つことに変わりはないが、腕を適度に伸ばして、出来るだけ目線に近づけた、狙いをつけやすい姿勢で構える。
「くくっ、はははははっ、あははははははっ!」
そして不意に笑いだすと共に、ナルに向かってとんでもない愚か者を見るような視線を向ける。
「何がおかしい?」
「何が? 何がと言ったか!? はははははっ! 笑いたくもなる! どれだけ魔力量があっても、それだけでは駄目だという事が今正に証明されているんだぞ! これが笑わずにいられるか!」
観客席を見れば、縁紅と同じように笑っているものは少なからず居る。
笑わなくても、呆れているものや、理解できないと言っているような顔のものも多い。
そして、そのいずれもが、縁紅ではなくナルに向けて……より正確に言えばナルの持つ盾に視線を向けている。
「決闘どころかマスカレイドの基本的なお話だ! 魔力に関わる特別な処置を施していない物体は、マスカレイドにとっては何の害にもならない! だからこそ、それまでの兵器は無意味と化した! そしてその盾はマスカレイド発動前から持っていたのと同じデザインであり、ただの市販品だ! つまり、俺の弾丸にとっては紙切れ以下なんだよ!! 馬ああぁぁ鹿っ!!」
縁紅がリボルバーを発射する。
放たれた弾丸は真っすぐにナルが構える盾に向かって行き、衝突。
そして、ヒビが入り……そこまでだった。
「なっ!?」
「とりあえずどっちが馬鹿なのかは証明されたみたいだな?」
弾丸はナルの盾を貫けずに止まり、大きな弾痕を残して止まった。
「仮面体の一部だと!? ふざけるな! 服については仮面体の調整で緊急に張り付けたとしても、その盾は週末に手に入れたのを見たぞ! それから今までに調整する機会なんてなかったはずだ!」
「お生憎様。服も盾も自前だよ。俺の仮面体は調整を受け付けないそうなんでな」
「調整を受け付けないから自前だと……ふざけるなぁ! そんな簡単に仮面体を変えられて堪るか!!」
縁紅が再びリボルバーを放つ。
今度は単射ではなく四連射であり、その全ては狙い違わずにナルの盾へと向かっていく。
「くっ……」
ナルの盾は弾丸を一発目は受け流し、二発目は正面から受けてヒビが入り、三発目も命中してヒビが広がり、四発目によって盾は完全に砕かれた。
「は? ははっ! そうだ! 急造だっていうなら、そりゃあ強度だって急造に相応しい……もの……」
その光景を見て縁紅は笑い出し、しかし、その笑いは直ぐに止まり、笑みは唖然と変化した。
「もう一度言うぞ。俺の盾は自前だ。だから、壊されたって作り直せばいい。当たり前の話だな」
ナルの手には砕かれたはずの強化プラスチック製の大型盾が、傷一つない状態で握られていたからである。
「ふ、ふざけるなぁ!!」
「ああそれとだ」
縁紅は素早くリボルバーに弾を込めると、込めた弾全てをナルに向かって放つ。
縁紅は激高しつつも冷静に判断してもいた。
先ほどの攻撃の結果から、ナルの盾が防げる弾丸は五発までであり、六発一気に叩き込めば、盾を直す暇もなく一発は直撃する。
そして、その一発さえ直撃すれば、盾以外は見るからに守りの薄い仮面体なのだから、致命傷になる事は間違いないと。
その判断が正しい事を証明するように、六つの弾丸はナルの盾に真正面から向かって行き……。
六発全て受け止めても、ナルの盾はヒビが入るだけで壊れなかった。
「さっきよりも盾は頑丈に作った。上手くいくかは賭けだったんだが、問題なかったな」
「は?」
「それと、作り直すよりは、傷を魔力で埋めて直した方が安上がりなんでな。直させてもらう」
それどころか縁紅の弾丸が消え去ると共にヒビも消えて、新品同様の状態へと戻ってしまった。
「はああああああああっ!?」
縁紅の絶叫がホールに響いたのは、盾が直った事を理解した次の瞬間だった。
07/20誤字訂正