299:陽は理解する
「ナルさん、スズ、マリー、護国さん。この度は叔父さんが迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ありません」
ペインテイルから決闘を売られ、その対処のために俺たちはカフェから『ナルキッソスクラブ』へと移動。
そして、『ナルキッソスクラブ』でしばらく待っていると、俺の連絡を聞いた巴がやって来て、巴への事情説明が終わったところでイチも帰還。
で、開口一番に俺たちに対して頭を下げて来た。
「イチがそう言うって事は、やっぱりそう言う事なのか」
ぶっちゃけ、今回の件はイチには責任はない。
ペインテイルの上に居るのがイチの叔父さんと言うだけで、謝る必要なんて欠片も無いと思うのだけれど……イチ自身が憤りの類を感じているからこその謝罪なんだろうな、これは。
「はい。その通りです。帰り道の途中で情報を受け取りましたので報告させていただきますと……」
それはそれとして、イチの報告によればだ。
ペインテイルは尾狩参竜に仕えている決闘者の一人であり、魔力量至上主義者。
かつては此処、決闘学園にも通っていた人間であり、無数にいる俺たちの先輩の一人でもある。
で、先日の学園内で行われた闇のオークションで、何か大きな失敗と言うか、してはならない事をしたらしく、そこでイチの叔父さんに叱責された上に干される事になったらしい。
「そこで一発逆転を賭けて、俺に決闘を仕掛けて来た?」
「そう言う事だと思います。ただ、ペインテイルがナルさんに決闘を仕掛けるに当たって、叔父さんはペインテイルに対して指示を全くしていないでしょう。自発的に決闘を挑ませれば、自分たちとペインテイルは全くの無関係であるとして、負けた際の自分たちへの被害は最小限に抑えられますから」
「そして勝てれば自分たちが総取りってわけか。嫌らしい手だな」
「同意します」
なるほど。
つまり、今回の決闘で、俺が勝った時に得るものとしてペインテイルの財産を望んだとしよう。
で、俺が求めるものをペインテイルだけでは支払いきれなかったとしよう。
だが、その時に尾狩家やイチの叔父さんに支払いを求める事が出来ない。
だって、ペインテイルが勝手に俺に挑んだのであって、尾狩家やイチの叔父さんは無関係なのだから。
と言う理屈であるらしい。
うん、理解はするけれど、納得はしがたい手法だな。
「まあ、勝った時にペインテイルから何を得るかは後で考えよう。正直に言って、何を差し出されても、イチたちの身柄に見合うとは思えないけどな」
「はい」
「こういうところがナル君だよね」
「ですネ」
「それがナル様のいいところです」
「それよりもだ。ペインテイルがどういう決闘者なのかを知って、どうやって勝つかを考えないといけない。今回の決闘は絶対に負けられないが、決闘が成立したって事はペインテイルに勝ち目があるって事だろうしな」
「「「……」」」
俺の言葉にスズたちが微妙な表情を見せている。
いったいどうしたのだろうか?
「勝ち目……どうなんだろうね? アビスの宝石で魔力量を倍にした程度でナル君に勝てる実力者なら、もっと名前が知られていると思うんだよね」
「ですネ。ちょっと気になっテ、イチたちが来るまでにペインテイルの名前で調べていたんですけド……調べた限りでは普通の魔力量乙判定決闘者デ、よくても二流止まりな感じなんですよネ」
「加えて情報通りなら、叔父さんとペインテイルでは、ペインテイルの方が魔力量が上のはずです。魔力量至上主義者と言う派閥にあってなお、そのような扱いの差があるとなりますと……」
「これは女神のアレが出ている可能性がありますね。いえ、魔力量が倍になった上で、闇のオークションで出されるような品々を使えば、勝てる可能性はあるのかもしれませんが」
「んー?」
もしかしなくてもペインテイルって弱いのだろうか?
それも俺相手だと勝ち目が見えないレベルで。
でもペインテイルが俺に決闘を挑むのを、女神は止めなかったよな。
「あー、ナル君に一つ教えておくとね。女神って自発的に勝ち目がないほどに強い相手に挑む時に限っては、止めない場合があるの」
「えっ」
「彼我の実力差を理解せずに挑んだお前が悪イ。と言うスタンスらしいですヨ。馬鹿に付ける薬はないとも言いますネ」
「えー……」
「勿論止めて貰える場合もありますが、叔父さんたちは明らかに決闘の制度を悪用していますので、女神からの好感度は最悪。こうなれば、止めない可能性のが高いかと」
「おおう……」
「そういう訳ですので、女神の態度では相手の勝ち目がどの程度あるかは判断が出来ません。もちろん、ナル様が油断出来る状況でもありませんので、ナル様の考え方でも問題はありませんが」
「なるほど……」
どうやらペインテイルのような人物だと、勝ち目が無くても女神が止めてくれることは無いらしい。
と言うか、弱者の側から強者に挑んだ場合には、先日のハクレンとの決闘のように、決闘のルールを調整してくれるような事もないらしい。
うん、これはこれで悪用されている制度だと思う。
「あー、うん。とりあえずペインテイルについての情報をくれ。まずはそっちだ」
「分かりました」
俺はとりあえずイチから情報を貰う。
で、情報によれば……。
ペインテイルの魔力量はギリギリ1000に届かない程度の魔力量乙判定。
見た目は武装したリザードマンとでも言うべきもので、尻尾は自切と遠隔操作が可能なのだとか。
使ってくるスキルの情報で特徴的なものは見られない。
性格は傲慢でありつつも、自分より強い相手にはゴマをする、典型的な小悪党。
ただ、後ろに尾狩家が居る以上、魔力を含む物質で作られた道具類の持ち込みはあり得る……特にアビスの宝石についてはほぼ確実と見ていいらしい。
「これ以上の情報については、少し時間をください」
「分かった」
「うーん……。相手に隠し玉があるか否かだな」
結論。
アビスの宝石込みでも、ペインテイルが秘匿している何かと言うか、ぶっ飛んだ何かが無い限りは、十中八九、俺が圧勝できる。
うん、これは何かあると考えて、油断せずに行くべきだな。
だって今回の決闘は間違っても負けられないのだから。
「さて、後は決闘で勝った時に何を求めるかだな」
では、ペインテイルに勝った時に俺が何を求めるかを考えるとしよう。