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マスカレイド・ナルキッソス  作者: 栗木下
1:入学式編
29/499

29:誰が決闘をするに相応しいのか

「縁紅。これは学園、引いては日本国の決定だ。お前の一存でどうにかなるような事ではない」

 味鳥先生が威圧感を露わにしつつ、縁紅へと話をする。


「だとしても納得がいきません。いや、理不尽ですらある! そもそもアイツの仮面体は人前に出せるような代物じゃない! お披露目会での放送事故を忘れたとは言わせませんよ!」

 だが縁紅は怯む事無く口を開いて、味鳥先生を説得しようとする。


「それはそう。アレは公共の場に出せない」

「あれは眼福だったけど、目のやり場にな……」

「ポヨンポヨンと揺れていたっすからねぇ」

「君たち、翠川の友達じゃなかったのかい?」

「でも、事故があった事は俺自身否定できないし」

 なお、そんな二人の空気に対して、俺の周囲は実に緩いし、落ち着いている。

 いやだって、放送事故を起こしたことはもう変えようのない過去だし。

 その後の俺の改善を知っているのは、この場だとたぶん俺含めても三人だけだぞ。


「まだ一か月もある! 既に樽井先生から改善の見込みもあると聞いているから、問題にはならん!」

 訂正、この場に居る全員、改善されたことは知りました。

 まあ、十分ちょっとでライダースーツは爆散するので、根本的な解決はしていないわけだが。


「アイツはマスカレイドの授業もマトモに受けていない! 自分が何を出来るのかすら分かっていないはずだ! それなら、何が出来るのかもう既に掴み始めている俺の方が相応しい!」

「それはお前も……いや、一年生全員同じことだ! そして、それもこれからの一か月で掴む事だ! お前の出来る事を勝手に定めるな!」

「アイツよりも俺の方が単純に強い! 勉強の成績だって上だ! 国益だなんだと言うのなら、あんなのと戦わせる方がよほど国益を損ねるに決まっている!」

「実力はまだ分からん! それを見せるための場がデビュー戦だ! そして、決闘は学業成績だけで勝敗が決まるようなものでは無い! そんな事も分からんのに国益を語るな!」

 しかし、うーん、ヒートアップしているな。

 いやこれ、本当にどうやって収めればいいんだ?

 正直、俺としては面倒になって来たから、もう縁紅に対戦相手の座を譲ってやってもいいんじゃないかと思ってきているんだが……あ、樽井先生と目が合った。

 口に指でバツ印、喋るなって事ですね、はい、分かりました。


「実力が分からないと言うのなら、証明の場を設けるべきだ! 今ここで対戦相手を決めようと言うこと自体が間違っている!」

「この件に関してはスポンサーと言うものもあるのだ! 最初にも言ったが、我々の意見ではもう覆らん!」

「アイツはズルをしている! 以前の授業で授業の場に居なかったのに、成績を得ていたのを知っているぞ! 他にも幾つものズルをしているんじゃないか!!」

「ズルをしているのなら、それこそデビュー戦は最初からお前に譲ってる! 成績の件は別室で計っただけだ!!」

「アイツは……」

 再び縁紅が俺の方を指さしてくる。


「存在そのものが不純だ! 害悪だ! 学園にとっての害になる! アイツの取り巻きの女共々追い出されるべきだ!! あんなのが居ても百害あって一利なしだ!!」

 そして、看過できない言葉を言った。


「あ゛ん゛?」

 その言葉を聞いた瞬間、俺は思わず声が漏れた。


「縁紅! その……」

「今なんて言った? スズたちを追い出す?」

 味鳥先生の言葉を遮るように声を出す。

 喉に魔力を纏わせて、震えに魔力に乗せて、意識せざるを得ない言葉として紡ぎ、黙らせる。


「お前に何の権限があって、そんな事が許されると思っている」

 徳徒たちが自然に俺の周囲から離れていく。

 味鳥先生が無意識に一歩引きつつ、拳を握り締めている。

 縁紅が目を見開いて、こちらを向いている。


「ふ、不正は正されるべきだ! お前のような卑怯者も! それにおもねる連中も排除されるべきだ! この決闘学園は国の行く末を賭けて戦う決闘者の為の学園! お前のような不埒な連中が居るべき場所じゃないと言っているんだ!!」

「ああそうかい。だったら賭けるか?」

「賭ける……だと?」

 俺は縁紅の眼前にまで歩み寄り、目と目を至近距離で突き合わせる。


「……!? 翠川君! それは……っ!?」

 樽井先生の事は手だけで止める。

 そして思い出す。

 麻留田さんから教わった正式な決闘のやり方と言うものを。

 確か、こうだったな。


「俺、翠川鳴輝は縁紅慶雄に対して水園涼美たちへの暴言の撤回と謝罪、並びにお前の改心を要求する。これが受け入れられない場合、俺は決闘の勝利を以って、女神の名の下に契約の履行を要求する」

 俺は堂々と、正面から、決闘を要求した。


 それを聞いた縁紅は一瞬驚いた顔をして……それから直ぐに笑みを浮かべた。


「ははっ! いいさ乗ってやる! 俺、縁紅慶雄は翠川鳴輝の退学及び決闘者としての活動停止を要求する! これが受け入れられない場合、俺は決闘の勝利を以って、女神の名の下に契約の履行を要求する!」

 そして、俺と同じように決闘の要求をした。


 とは言え、今この場ではまだ口約束の段階だ。

 この後にはお互いの要求物が釣り合うかを責任者……この場合は国か学園が確認して、了承をすれば、正式な書類が出されてと面倒な手続きがある。

 だが止められることは無い。

 決闘とは、お互いに譲れない正義がある時に、どちらの我を通すかを決めるべく、女神が人類に与えた手段なのだから。

 これを邪魔する事は女神に逆らうのと同義であり、世界を敵に回すと言っても過言ではない。


「お前たちは何と言う事を、仮面体の名前も定まらない内に……は?」

 だから、不承不承と味鳥先生が動き出し……なぜか間抜けな声を上げた。


「「「……」」」

 他の生徒たちも口を開いて止まっていた。

 なんなら、これまでずっと落ち着き払っていた護国さんすらも。

 そして、俺と縁紅も気づき、縁紅は思わず口を開け、俺はそれを睨みつける。

 それ……教室内にいつの間にか居た人の形をしたものを。


『決闘の申請を確認しました。天秤も釣り合っていますので問題はありません』

 それは天に輝く太陽のような、橙色に輝く肌をしていた。

 それは太陽の黒点のような、黒だけの瞳を俺たちに向けていた。

 それは虹のような、輝く髪を伸ばして漂わせていた。

 それは黄金をそのまま織ったような衣服を身に着けて、手には同じく黄金で出来た天秤が均衡を保った状態で乗っていた。

 それの名を人は知らないが、突然人の世に現れて、授けたものからこう呼ばれている。


 女神


 と。

 そしてそれは、俺が初めてのマスカレイドを行う際に、俺の深層心理らしい場所で出会った相手でもあった。


『所用で偶々訪ねたところだったのですが、思いもよらぬ場に出くわすことが出来ましたね。では、実際に決闘を行いましょう。場所は……ホールの舞台が一つ開いていますね。時間は一時間後としましょうか。私との邂逅で衝撃を受けた心が落ち着くには、その程度の時間は必要でしょう。では、楽しみにしていますね』

 女神は濃密な魔力を込めた言葉を紡ぐ。

 その状態のまま淡々と、けれど楽しそうに予定を決めると、何もない空中から二組の書類を取り出して、俺と縁紅の手にそれを乗せる。

 それでこの場でやる事は終わったのだろう。

 女神は前触れもなく、姿を消した。


 だが、女神がこの場に現れていたことは、俺たちの手にある黄金で作られたかのような紙が証明していた。


「いいだろう! もはやこうなれば決闘を行う他なし! 好きにしろ!! 先生にはもうどうしようもない!」

 味鳥先生が叫ぶ。


「吠え面をかかせてやる。露出狂」

 縁紅が悪態を吐きながら、去っていく。


「さて、ぶっ飛ばすための準備をするか」

 そして俺も決闘の場所として選ばれたらしいホールへと向かった。

女神「女神です。名前はこの世界の方々が付けてくれたものも、本名も、二つ名やあだ名もございますが、基本的には女神とだけ呼ばれます。つまり、私の由来はこの世界の外側にありますので、本名当てゲームは成立しません。これははっきりと伝えておくべき事でしょう」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます! わぁ、フッ軽な女神様だぁ!! (白目) スズといいナルさんといい、なんでデバイス無しで魔力放てるんですかねぇ… [気になる点] …もしやデバイス無しでもマス…
[一言] これが若さか、それとも何かの影響を受けているのか。
[一言] 基本的に冷静なナルもスズのこととなるとキレるのですね。 これは良い夫婦。 女神様、カジュアルに降臨w >所用 「ウ=ス異本を買いに」
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