287:オークション結果・注意するべきもの
「こっちの品々なぁ……」
俺はアビスの宝石以外にオークションに出品された物についても見ていく。
とは言え、羊歌さんが落札したわけではないからだろう、記されているのは、見た目、主催者側が発表したカタログスペック、落札額、この程度であり、それ以上の情報は存在しない。
中には別にコメントが付けられているものもあるが……だいたい辛辣であると同時に、見た目から読み取れる程度の情報なので、気にする価値無しの物にコメントを付けているようだ。
いや、十分に詳しいな、これ。
落札した品を使われる側としては、これだけあれば、十分に対処できるぞ。
うーん、これが縁の力か……。
「とりあえずデバイス開発部とスキル開発部はボロクソに言われているな」
「ですネ。この分なラ、マリーたちは気にしないといけませんガ、ナルは気にしなくてもいいと思いまス」
「同意します。そして、この内容では肥えた目を持つ羊歌さんなら貶して当然かと」
「実際、落札すらされなかった酷い出来のものもあるからね……妥当な評価なんじゃないかな?」
好意的に表現をするならば、デバイス開発部は意欲的なデバイスを、スキル開発部は特定状況に特化したスキルをお出ししている。
裏を返せば……まあ、色々と粗があるな。
例えばスキル開発部が独占使用権を売り出したスキルの一つは、自分の腕や足を爆弾に変える『チェンジ・ボディトゥボム』と言うスキルである。
威力については麻留田さんも使っている『フルバースト』と同等かそれ以上、なのに燃費は『フルバースト』より安いと言う、素晴らしいものである。
が、腕や足を爆弾に変えて、木っ端微塵にしてしまうと言う時点でなぁ……。
要するに自爆スキルの類なのだ、これは。
使い道が無いとは言わないが、幾ら何でも尖り過ぎている。
「この辺りはナル君も注意が必要かな」
「魔力含有素材を使った使い捨ての銃か……むしろ俺が欲しい」
「使えるなラ、ナルの遠距離攻撃が出来ないと言う問題が一発で解決しますからネェ」
次に見たのは魔力含有素材を作った武器の類。
今回のオークションでは、フリントロック式と呼ばれる形の単発銃、職人が鍛え上げたらしき刀、投げやすいように重心が調整されたハンマー、フラググレネードと呼ばれる爆発物と言った品々が競売に掛けられて、全て売れたようだ。
これらは魔力を含んでいるため、仮面体相手であっても有効な品だ。
その威力は俺であっても、使われ方次第ではタダでは済まない可能性がある……と、思う。
なお、これらの品々を決闘に使う最大のメリットは、自分の魔力を使わずに有効打を与えられる事。
デメリットとしては、とにかく高価だし、多くの物は使い捨てだし、マスカレイド発動前から身に着ける必要があるので、基本的に存在がバレバレ、などがある。
だとしても、金だけで火力を確保できるのだから、有用である事は間違いないだろう。
「無いものねだりをしても仕方がないかと。それよりもナルさん、スズ、マリー。その先に問題があるものがあります」
「その先? あー……」
「これは確かに問題だね……」
「……」
続けて読んでいくと、今度は効果不明だが魔力を含んでいる品々が並べられていく。
アビスの宝石も本来のカテゴリーでは、此処に入るようだ。
そして、少々問題がある物も並んでいる。
「見るからに呪われてそうな人形って、駄目な奴じゃないか? これ……」
例えば西洋風人形だが、誰も見てない夜中に、目から血を流すらしい。
シンプルに呪われてないか? これ。
「大漁さんが不穏なものを感じた紐。大漁さんの仮面体は糸を使っていたはずだから、それで不穏なものを感じたとなると……」
例えば十分な長さを持つ緑色の紐。
見た目は特に怪しい点などないが、羊歌さんに同行していた大漁さんは、この紐から嫌な気配を感じたらしい。
「それらも問題があるものですが、一番はこれでしょう」
「柄はペチュニア・ゴールドマインの物ですネ。例の事件で爆発を起こした当人とも言われていル、既に亡くなったマリーの従姉妹でス」
「「……」」
ペチュニア・ゴールドマイン。
名前は初めて聞いたが、マリーの従姉妹であり、無理やり『蓄財』で金貨を作らされていた最中に魔力操作を誤った結果、爆発して死亡した少女、だったか。
そして、明らかに当人が作り出したよりも多くの金貨が、世界中で最近、流通しているらしい。
「偽物か?」
「流石にこの解像度の写真では分かりませんネ。出来れバ、現物が欲しいところでス。たダ……」
「落札者は不明になっているね。出品者は主催者でもある尾狩家。となると、本物の可能性も十分にあるのかな?」
「調べてみる価値はありますが……難しいですね。五枚組であったのに、落札額もそこまで高くなかったようですし、富裕層の付き添いで来た普通の生徒が落札した可能性もぬぐえません」
うーん、詳しく調べたいところではある。
だが調べる方法がない。
いっそのこと、ここで尾狩家の人間が俺たちに決闘の一つでも仕掛けてくれないだろうか?
そうすれば、探れる情報もありそうなのだが。
「ん?」
そんな事を思いつつ、俺は次のページをめくる。
そこには、オークション中に起きたらしいトラブルについて記載されていた。
どうやら、品の一つの落札を巡って、ちょっとしたトラブルがあり、決闘による解決が図られたらしい。
それはまあいい、決闘者だし、決闘学園だし、お互いに譲れなかっただけだろうから。
気になったのは……その裏でオークション側のスタッフと思しき男性がイチの叔父さんから怒られていたと言う点だ。
完全なる偏見であると自覚した上で言うのだが、魔力量至上主義者のような攻撃的な連中は失敗した身内に対して過剰なまでの叱責や罰を与えると言うイメージがある。
それを思うと……この男性には、今後何かあるかもしれない。
まあ、何かあったとしても、俺たちに関わるようなことは無いのだろうけど。
「とりあえずだ。使われる可能性は低いけれど、決闘でこれらの品が使われる可能性を警戒。運よくペチュニア・ゴールドマインの金貨を持つ生徒を見つけたら、交渉して、調べさせてもらう。こんな所か?」
「そうだね。そんなところだと思う」
「そうですね。それでいいと思います」
「ありがとうございまス、ナル、スズ、イチ」
とりあえず情報は得られたので良しとしよう。
俺たちの今日の結論はこんな所だった。
そして月曜日、そんな俺たちの度肝を抜くかのように、恒例のミーティングでとんでもない情報が流れて来たのだった。