286:オークション結果・アビスの宝石
「ナル君、イチ、マリー。ちょっといいかな?」
『ドレスパワー』と『ドレスエレメンタル』の検証会を行った翌日。
『ナルキッソスクラブ』でデータの整理をしたり、決闘の準備をしたりしていたところに、スズが紙の資料を持って声をかけてきた。
どうやら何かあったらしい。
「何があったんだ? スズ」
「羊歌さんから連絡があったの。昨日、闇のオークションがあったみたい」
闇のオークションとはまた物騒だな。
そんな事を思いつつ、俺はスズから資料を貰うと、椅子に腰かける。
イチとマリーも同様で、早速資料を読み込み始める。
「羊歌さんは風紀委員会だったよな。と言う事は結構な大捕物が……合法なのか。闇のオークションなのに」
「合法だよ。とは言え、資金と主催者から考えて、事前に知っていても私たちが参加することは無かっただろうけど」
えーと、スズから貰った資料によればだ。
闇のオークションと言う名称ではあるものの、学園にも開催申請を出している合法的な物。
今回の主催者は尾狩家と言う、護国家に並ぶくらいには有名で、国防の要になっている家らしい。
参加者は家が富裕層に属している極一部の生徒か、その生徒が連れて来た友人だそうで、羊歌さんは前者のようだ。
「こういうオークションってありなのか? こう、機会の均等性とか、そう言った観点的に」
「有りだよ。こういうオークションがあると知る事が出来るかどうかも決闘者としての能力の一部だし、此処で自分に必要な物を購入できる資金力もそう。負けられない決闘なら、違法でなければなんだって有りだよ」
「それは……そうだな」
まあ、スズの言う通りではあるか。
命あるいはそれ以上のものを賭けて決闘する場合に、このオークションで得たもの一つあれば勝てると言うのなら、誰だってそうする。
そして、こういうオークションがあると言う情報を収集したり、出席できるように縁を紡ぐのも、それはそれで決闘者として必要な能力と言われたら、それ以上は何も言えないな。
「ん? ああ、イチの叔父さんが司会だったのか」
「そうそう」
「はい、そのようです」
「なるほド。これは確かニ、事前に知っていてモ、行くのは迷いますネ」
で、内心ではなんでオークション前に情報は来なかったのに、オークション後なら情報を渡してもらえたのかが気になったのだが……。
どうやら司会が天石夜来……イチの叔父さんだったらしい。
面識こそないが、イチの叔父さんは魔力量至上主義者であり、イチと反目していて、俺たちとも相容れないと言ってもいい相手である。
そんな相手が司会をしているオークションには……確かに行けないな。
邪魔するなとも言われていて、俺たちも邪魔をする意味が無いと放置を決めたしな。
と言うか、イチの叔父さんが仕えている相手も魔力量至上主義者だったはず。
となれば、この尾狩家と言うのが、魔力量至上主義者の本丸っぽいな。
うーん、まあ、悩んだところで出来る事なんて何もないわけだが。
ただこうなってくるとだ。
「もしかしなくてもアビスの力を借りる手段がオークションに出品されたのか?」
綿櫛たちが使っていた力。
ハモと言う男の『仲介』によって作られる何か。
それがオークションに出ていた事になるだろう。
「うん、その通りだよ。羊歌さんが百万円ちょっとで落札したみたい。次のページに競り落とした品の外見と付随していたマニュアルが書いてあるから、みんな読んでおいて」
「あ、羊歌さんが……ちょっと安心だな。えーと、どれどれ……」
俺は次のページを見る。
そこに載せられていたのは、深藍色の宝石と機械を組み合わせたような、デバイスに付けるチャームだ。
付随するマニュアルによれば、これを付けた状態でマスカレイドを発動する事で自動発動するらしい。
メリット効果は所有魔力のおよそ倍化。
デメリット効果はデバイスの破損、数日程度の魔力回復停止、全能感からの暴走可能性。
「このメリットで、この程度のデメリットとか、凄い安いな」
「そうですね。この程度なら危険とすら言えません」
「よく作り上げたものだよね。明記してない何かもあるかもだけど、これは流行ってもおかしくないと私は思うよ」
「むしろ流行らない方がおかしいですネ。少なくとモ、負けられない決闘ならバ、標準装備になってもおかしくないかト」
うん、安い。
羊歌さんは百万円ちょっとで落札したそうだが、その程度の金銭とこれらのデメリット程度で、本来なら勝てない相手にも勝てるようになるのなら、お買い得なんてレベルじゃない。
なんなら、俺だっていざと言う時のために一つくらい欲しいところだ。
俺はアビスに嫌われているらしいので、使いたくても使えないかもだが。
「ぶっちゃけ、なんでハモが表立ってこれを売らなかったのかが不思議でならない」
「あー、そこは色々と事情があるんだと思うよ。アビス関係で、その、色々とね」
「影響力が大きすぎるのデ、個人で扱おうとしなかったのハ、英断だとマリーからは言わせてもらいますネ」
「少なくとも生産性の問題はあったと思います。現状ではハモ以外には作れないでしょうから」
しかし、これほどの品となれば、確かに上手くばら撒いて、その後に供給量を絞れば、権力の掌握にも繋がりそうだ。
まあ、俺の場合は相手に使われた時を警戒するべきなんだろうけど。
「まあ、このアビスの宝石については、今回は羊歌さんが落札したから大丈夫。こうして伝えて来たって事は、ナル君相手に使う気もないんじゃないかな」
「ですネ。使うなら不意打ちのような形で使うべきでス」
「イチも同意します」
「それはそうだな」
「それよりも問題なのは次のページ以降かな。私たちが警戒しないといけないのは、こっちの品々だと思う」
俺たちは次のページを見る。
そこには、今回のオークションで出品された、他の物について記されていた。