283:第二回スキル『ドレスパワー』検証会-後編
「「申し訳ありませんでした」」
頭を冷やして戻って来たスズと巴の二人は開口一番そう言って頭を下げた。
だがしかしだ。
「いや、誰が悪いかで言えば、悪いのは『ドレスパワー』を行使した俺の方だから。魔力の有無による影響力を考えたら、スズと巴の二人は何も悪くないって」
『他に責任を追及するなら、スキルの開発者であり、あの衣装を準備した吾輩もだろう』
誰が悪いかと言えば、まずは俺だろう。
次点で本人も認めている通りに燃詩先輩だろう。
「ナル君……」
「ナル様……」
「……」
スズも巴もなんだか感動したような目を俺に向けて来ている。
その瞳の色合いに、俺は先ほどまで使っていた闇堕ちシスター服とスキル『ドレスパワー』の効果が残っているのではないかと少し不安になるが……。
うん、確認した。
今の俺はマスカレイドを解除しているし、デバイスも身に着けていないし、魔力についても把握できている限りでは何の異常も起きていない。
うん、正常なはずだ。
「それで燃詩先輩。結局のところ、先ほどの『ドレスパワー』では何があったので?」
『そうだな……』
さて、スズが離脱したことで、マイクを通じて声をこちらに届けるようにした燃詩先輩が、先ほどの現象の解析結果を口にしてくれる。
『『ドレスパワー』については恐らくは魅力の大幅強化。『ドレスエレメンタル』については闇と光属性のバフのようだが、こちらも恐らくは魅力関係に大きく偏っていると思われるな』
「魅力関係?」
『そうだ。貴様たちの挙動を見た限り、元からナルキッソスに対して抱いている好意を増幅させるようなバフだったようだな。とは言え、天石の様子からして、透かす事も可能なようだが』
「なるほど……」
魅力の大幅強化か。
俺の元の美しさが圧倒的だから、それを強化すれば……確かにスズと巴のように正気を失ってしまうような事もあるのかもしれない。
しかし……。
「使えない奴ですね」
『少なくとも決闘では使えない奴だな。味方が居るなら、そちらの方がより大きな被害を受ける事だろう。敵と味方では術者に対して抱いている好意の量と方向に差があり過ぎる』
決闘では断じて使えないものだろう。
そして、日常的にも使えないものだ。
美しさによって他人の目を惹きつけるのは望むところであるが、思考を塗り潰すのは俺の望むところではない。
そんなのは美しさの欠片もない。
崇める、信じる、魅了されると言う行動と感情は、自身の意思で行われるからこそ、美しく、受け取るに値するのだ。
「魅力バフなぁ……」
「影響があったのは……」
「ナンノコトデスカネー」
なお、大漁さんと瓶井さんがマリーに視線を向けているが、特に気にする必要は無さそうだ。
「ところで燃詩先輩。一つ疑問ですが、今回のこれって自分にかかったバフが周囲へと勝手にばら撒かれているように見えるのですが、俺の魔力性質でそれは有り得るのですか?」
『別にそうおかしな事でもないだろう。例えばだが、自分の体を火達磨のようにするバフがあったとしよう。このバフの使用者の周囲には熱と光が放たれていて、その熱と光は使用者以外にも伝わっている。これは感覚的にも分かるな?』
「それはまあ、そうですね」
『今回ナルキッソスがばら撒いた魅了の力も、この熱と光のようなものだ。一度バフとして変換された後、副産物として周囲に放たれている。だから、貴様の魔力性質に関係なくばら撒かれる。よって、今回の現象も何もおかしな事ではないな』
「なるほど」
燃詩先輩の知識の上では、先ほどのスキルに伴う諸々は異常ではないらしい。
なるほど、副次的な物だったら、俺の魔力性質を無視して遠くにも飛ばせるのか。
うーん、知っておけば、何処かで使えるかもしれないな。
「さて、残りの衣装の『ドレスパワー』と『ドレスエレメンタル』についても、調べられるだけ調べるか」
「うん、分かったよ、ナル君」
「見守らせていただきます。ナル様」
その後、俺たちは時間が許す限り、俺の手持ちの衣装の『ドレスパワー』と『ドレスエレメンタル』の効果を調べていった。
こうして地道に調査をしていけば、必要な時に適した衣装を身に纏う事も出来るだろう。
で、そうして調べていった事で一つ思うのならばだ。
「うーん、やっぱり汎用的な衣装と物理的な防御に特化した衣装が欲しくはなるな」
この二種類の衣装は準備しておきたいところだ。
「確かに汎用的な衣装は欲しいよね。とりあえずで出して、動き回れる衣装って事で」
「普通の衣服ではバフの数値が低めですからネ。確かに必要そうでス」
汎用的な衣装は言ってしまえば普段着だ。
正式な俺の決闘衣装と言い換えてもいいかもしれない。
これは俺のトレードマークを作るためにも、準備するべきだろう。
「防御特化……ナル様がそれを持ったら、どうにもならなくなりそうですね」
「そうですね。対峙する人にとっては絶望的かもしれません」
物理防御に特化した衣装は言ってしまえば切り札だ。
他の要素は全て捨ててもいい。
これさえあれば、どんな相手の攻撃でも正面から受け止められる。
そんな衣装であり、これもまた準備するべきだろう。
「なるほど~これまでの調査結果から~傾向を見て~こういう衣装なら~と言うのを割り出し~作ってもらうわけですね~」
「ナルキッソスだからなんだろうけど、凄く大変そうな話になって来たな」
「本当だね。どれぐらいの費用と時間がかかるのやら」
方向性は見えている。
デザインは……まあ、このデータを作ってもらう相手に渡して、その相手と相談してだな。
で、誰に作ってもらうかと言えば……汎用的な方は『シルクラウド』社に、特化の方は『パンキッシュクリエイト』かな?
まあ、後でスズたちと相談して決めるとしよう。
「ま、先に文化祭で出す写真集の為に編集をしよう」
「だね」
「ですネ」
「はい」
「頑張ってください。ナル様」
とりあえず、今日の検証会は無事に終わったのだった。