282:第二回スキル『ドレスパワー』検証会-中編
「ナ、ナル様……その恰好は……」
「スズが選んだものです」
「私が比較検証のために選びました」
俺は『ドレッサールーム』を使って、スズが選んだシスター風の衣装に着替えた。
そう、シスター風の衣装だ。
間違ってもシスター服ではない。
と言うのもだ。
「幾ら何でも破廉恥では!?」
胸の谷間は見えているし、腰から下の前側が切り取られていて中のホットパンツが見えるし、ベルトと装飾品も各所に付いていて清貧とは無縁な見た目をしているからだ。
これでシスターは無理がある。
「大漁、風紀委員会としてはどう判断する?」
「一応セーフだな。元ネタを調べたが、一般向けソシャゲのシスターキャラだ」
「つまり~着ている人の問題と言う事ですね~」
「まあ、ナルさんの外見が原因の一端ではありますね」
「ですネ。その点については否定できませン」
ちなみに、元ネタらしいソシャゲのキャラはこの服装で二丁拳銃をガンガン撃ちまくる、正義を標榜するエクソシストシスターとの事。
だが、俺のコスプレ衣装には二丁拳銃は存在しない。
これは俺の『ドレッサールーム』が二丁拳銃の取り込みは見た目を真似ただけの物でも拒否したからだ。
どうやら俺の『ドレッサールーム』は装飾品や飾りまでなら取り込んでくれるようだが、手に持って使うものは盾以外はほぼ拒否であるらしい。
別衣装の話になるが、剣や槍、斧と言ったものも拒否された。
「はいはい。話を戻すぞ。今は『ドレスパワー』の検証会、その真っ最中だ」
「だね」
「……。そうですね」
閑話休題。
写真集の為に既に何枚か写真を撮ってもらっているが、検証に戻ろう。
「まずは『ドレスパワー』……発動!」
「……。燃詩先輩曰く、特効系のバフが発生しているのは間違いない。だが、アンデッド特効も含んだ別の何かが発動している。だって」
「正義を標榜しているキャラなラ、悪魔とかにも強い感じですかネ?」
「悪魔ですか……そう見える仮面体に心当たりがない訳でもないですね」
『ドレスパワー』の効果はシスター服よりも幅広い分だけ効果が下がった特効バフらしい。
まあ、悪いものでは無いな。
「続けて『ドレスエレメンタル』発動!」
「えーと、今度は光属性の固定ダメージ攻撃バフ。防御面はなしだって」
「先ほどのシスター服とはだいぶ違いますね」
「攻撃特化と言う事でしょうか~」
『ドレスエレメンタル』の効果は攻撃面のみだが、代わりに効果が大幅に高まっているようだ。
オーラ的にも、シスター服よりも色もオーラそのものも刺々しく荒々しいものになっている。
正に攻撃特化と言う感じだ。
しかし、別に俺自身の防御能力が下がったわけでもないので……。
あ、うん、さては普通に強いな、この衣装の『ドレスエレメンタル』。
「えーと、じゃあ次の衣装に行くぞ」
「うん」
「分かりました」
では、次の衣装に行こう。
と言うわけで、再度『ドレッサールーム』で服装チェンジ。
「今度のは『シルクラウド』社が全力で仕立て上げてくれたシスター服だな」
次のは『シルクラウド』社が作ってくれたシスター服だ。
見るからに上質なものであり、よく見なければ分からないが、色々と装飾も施されている。
しかし、その上で清廉さを失っていないので……うん、本当に上質なシスター服と言う奴だな。
「『ドレスパワー』と『ドレスエレメンタル』発動」
「ふむふむ。これはまた極端だね」
「そうですね。守りと癒しに特化、と言うところでしょうか」
そんな上質なシスター服だが。
『ドレスパワー』については、防御限定でのアンデッド特効。
『ドレスエレメンタル』については、緑色と白色の光と共に、光属性以外全般……特に闇属性に対して強力な固定減算防御バフと触れた相手を治療するバフ。
これらが発生しているようだ。
つまりは強力な守りと回復が出来、特にアンデッドについてはとてつもない防御性能を持つようだ。
「やはり意匠が少し異なるだけでも、大きく効果が変わるようですね」
「ですネ。やっぱり本格的な調査は国に任せる必要がありそうでス」
「ボクたちが使う分には自分の『ドレスパワー』だけ気にすればいいんだけどね」
「だな。アタシも夏季休暇中に一度使って把握はした」
イチたちが何か話をしているが……アレは夏季休暇中に『ドレスパワー』を生徒全員に使わせた件だな。
色々と発見があったらしい。
ちなみに全国の決闘者を相手にした調査は、十一月の全国魔力量検査の際に合わせて行うそうだ。
「次行くぞー」
再びの閑話休題。
次の衣装だ。
「すぅ……はぁ……」
そう、次の衣装なのだが……燃詩先輩が用意してくれた衣装なのだが……うん、ちょっと気合いを入れないとな。
よし、やろう。
「『ドレッサールーム』発動!」
「「「!?」」」
俺は『ドレッサールーム』を発動して、次の衣装に着替える。
そうして現れたのは、異常に薄い生地、谷間を見せたり、鼠径部のラインがはっきりと見えたり、扇情的としか言いようのない作りのシスター服風衣装であった。
うん、間違ってもシスターではない。
少なくとも、頭に闇堕ちとか悪堕ちとか、そう言う言葉を付けるべき服である。
「続けて『ドレスパワー』と『ドレスエレメンタル』発動!」
『ドレスエレメンタル』の発動と共に、白と紫が入り混じった怪しい雰囲気を放つオーラを放つ。
「あ、これは……」
「ナル様……」
「ん?」
そして『ドレスパワー』の発動と共にスズと巴の二人に異変が生じる。
上気した顔、フラフラとした足取りで、手を伸ばしながら俺の方へと近づいてくる。
「ナルくぅん……」
「フラフラしますぅ……」
「二人ともどうし……のわぁ!?」
そうして二人が力強く抱き着いてきた。
仮面体と生身では膂力差が圧倒的なので押し倒されるようなことは無いが、明らかに異様な雰囲気を二人は纏っていた。
「これはいったい……」
「どれどれ~……『ドレスパワー』部分は魅力強化バフ~あるいは~理性蒸発とでも言うべきデバフのばら撒き~? とにかく~奇妙な事になっているようですね~」
「ちょ、待て!? スズ、巴、落ち着け!?」
スズと巴の手が俺の様々な場所に触れて来て、撫でて、揉んで、擦りつけてくる。
いや、手だけではない。
制服越しではあるが、胸や太ももなども、俺にこすりつけて、少しでも接触面積を増やそうとして来ている!?
これはなんだ!? 何が起きている!?
待って!? 触れてはいけない部分にまで触れているような気がしてきた!?
「『ドレスエレメンタル』についても~何かおかしな事が起きているようですね~光と闇の攻撃バフとの事ですが~普通のものとはちょっと違うようですね~」
「い、いいから助けてくれー!」
「いや、助けてくれと言ってもどうすりゃあいいんだよ、これ」
「迂闊に手を出したら噛みつかれるじゃ済まないよね、これ」
「ナルくぅん~~~~~」
「ナルさまぁ~~~~~」
顔が、二人の顔が近づいてきている。
これはキスか!? キスを狙っているのか!?
くっ、こんな訳の分からん状況でキスをするだなんて、俺は良くてもスズと巴にとっては最悪だろうが!?
早く、早くこの状況から脱出しなければ!
しかし、スズと巴を傷つけるわけには……!?
「……はっ!? ナル! 『ドレッサールーム』です! 衣装を変えてバフをリセットするんですよ!!」
「そ、その手があったか! 『ドレッサールーム』」
と、ここでスズたちほどではないがフラフラとしていたマリーがハッとした様子と同時に叫び声を上げ、俺はマリーの言葉通りに『ドレッサールーム』を発動して、通常のシスター服に着替える。
『ドレスパワー』も『ドレスエレメンタル』も自分の衣装に依存する特殊なスキルであるため、こうして着替える事によって強制中断する事が出来るのだ。
「ふえっ……?」
「あれ……?」
「ふう……二人とも戻ったか……」
そうしてスキルを強制中断する事によって、二人に影響を与えていた何かも無くなり、二人は動きを止めた。
「「……」」
で、スズも巴も何秒か停止し続けて、周囲を見て、何かを思い出すように上の方を見て、最後に俺の顔と自分たちの手の位置を見て……。
「「ーーーーー~~~~~!?」」
二人は聞いた事が無いほどに大きな声を上げつつ、スタジオの隅に向かって走り去った。
TS側が受けなのは当然の事だと思いませんか?