281:第二回スキル『ドレスパワー』検証会-前編
「えー、それでは準備も整いましたので、第二回スキル『ドレスパワー』検証会を始めたいと思います」
昼食を挟んで午後。
スタジオに各種設備を整え、燃詩先輩との通信も準備したところで、第二回スキル『ドレスパワー』検証会が始まる事となった。
ちなみに、ここまで俺たち『ナルキッソスクラブ』のメンバーに、『シルクラウド』社の方々しか居なかったが、ここからはリモートで参加している燃詩先輩だけでなく、巴、大漁さん、瓶井さん、羊歌さんの四人もスタジオの中に入ってきている。
「なお、今回の検証会ではスキル『ドレスパワー』を参考に『シルクラウド』社の方が作ってくださったスキル『ドレスエレメンタル』の記録と検証も同時に行っていきます。と言うわけでナル君」
「ああ、分かってる。普通のシスター服からだったな」
スキル『ドレスエレメンタル』はスズの言う通り、『シルクラウド』社が俺のために用意してくれたスキルである。
俺との相性が悪ければ『ライブラリ』行きとなるが、そうでなければ俺が許可した範囲にしか使用を許さないスキルにするつもりであるらしい。
ありがたい話である。
なお、仕様書を読んだ限りでは、着ている服に応じた特定種類のバフを自分にかけるスキルなので、誰かに見られても特に問題のないスキルである。
「『ドレッサールーム』発動」
では始めていこう。
まず着用するのは、『パンキッシュクリエイト』との決闘でも使ったシスター服である。
この服の『ドレスパワー』は既にアンデッド特効と確定しているが、あの時とは使っているデバイスが違うので、デバイスの差による影響ない事を確かめるためにも、最初に試すのである。
まあ、他にも理由はあるが。
「『ドレスパワー』発動」
「ふむふむ。燃詩先輩曰く、効果量に変化はなしだって」
「分かった」
結果、影響はなし。
じゃあ、このまま先に進んでいいな。
「では続けて『ドレスエレメンタル』発動」
「光が……美しいですね」
「シスターと言うより聖女ですかネ?」
俺はスキル『ドレスエレメンタル』を発動する。
するとシスター服から光が溢れ出して、黄色と白が入り混じった柔らかい光のようなオーラとなり、周囲に輝きを放つ。
これがスキル『ドレスエレメンタル』。
着用している衣装に合わせた属性のバフを発生させるスキルである。
今回は……光属性かな?
「えーと、燃詩先輩曰く、光属性の固定ダメージ攻撃バフ、対光と対闇の固定減算防御バフが発生しているって」
「今、ナルキッソスに持たせたら一番駄目な効果が聞こえた気がしたんだが……」
「でも確かにそう言ってたね……」
「これは~困りましたね~……」
「思っていた以上にとんでもない物が来てしまいましたね」
なんか、スズの言葉に合わせて、大漁さん、瓶井さん、羊歌さん、イチが本気で困ったような声を漏らしていた気がする。
それはさておき、スズの言葉には気になる点があった。
「スズ。これが光属性だってのは分かるが、固定ダメージ攻撃とか、固定減算防御とかってなんだ?」
「うーん……簡単に言えば足し算と引き算かな。普通のスキルなら掛け算のが近いんだけどね」
「?」
スズの言葉に俺はさらに首を傾げる。
すると、そんな俺を見かねたのか、巴が口を挟んでくれる。
「ナル様。簡単に言えば、仮に同じ火属性であっても、私がよく使っている『エンチャントフレイム』の炎とナル様が今使った『ドレスエレメンタル』で発生する炎は全くの別物と言う事です」
「そうなのか?」
「はい」
その後にしてもらった、巴、スズ、燃詩先輩の三者の説明をまとめるならばだ。
『エンチャントフレイム』で発生する炎によるダメージは、宿らせたもの……トモエなら薙刀や矢になるが、それをより速く、より力強く振り回せば、それだけ与えるダメージも増すようになっているらしい。
だからこそ、スキル『バーティカルダウン』なども合わせて使うと、威力が跳ね上がるのだとか。
対して『ドレスエレメンタル』によって発生する属性バフによるダメージは、宿らせたものの動きに依存しないらしい。
相手に当てたのがジャブであっても、渾身の右ストレートであっても、それこそスキル『バーティカルダウン』であったとしても、属性分のダメージについては固定値になるそうだ。
「つまり、俺が使っても決まったダメージを与えられるようになる?」
「そう言う事だね」
「そう言う事ですね」
「なるほど。それは強い」
うん、これは確かに俺に合っている。
どの程度の威力があるかは分からないが、一撃の威力が低い俺にとっては、固定で強くなる方がよっぽど強化されるに違いない。
「ちなみに固定減算防御は……シスター服の場合だと、光属性または闇属性の攻撃に限っては、ナル君に触れる前に決まった分だけ威力が削られる事になるね。どの程度威力が落ちるかは試してみないと分からないみたいだけど……効果量によっては、傷一つ付けられなくなるかも」
「へー」
あ、もしかしなくても俺以外にとっては固定減算防御の方が問題かもしれないな。
相手が使ってくる属性に合わせて防御を張っておけば、掠り傷を負わせる程度の攻撃は無効化されてしまうのだろうし。
「そう言えばナルキッソスも、属性については分かっているんだね。ちょっと意外」
「流石にマスカレイドの授業でやったんだよ。物理法則ではなく魔力法則の方の話で、大まかに六つだか七つだかあるんだったかな。ただ、細かく分けていくと、幾らでも出て来るヤバい分野だって聞いたな」
「燃詩先輩が明らかに沼だから手を出すのを止めたくらいには色々とある分野らしいね」
俺は瓶井さんの言葉にそう返しておく。
余談だが、属性については正確に分析すると、本当にとんでもない数があるらしい。
単純に光と言っても、陽光、月光、星光、生物光、火の光、雷光あるいは電光、宝石の煌めき、金属光沢、聖光あるいは神光、浄化特化の光、その他無数の発光現象、これら全部が魔力法則的には別の光であり、秘めている力などが微妙にあるいは大きく違うそうだ。
分かり易いところだと、陽光や浄化特化の光はアンデッド特性を持つ仮面体に対して著しい効果を発揮するが、そうでない光はそこまで強烈ではないし、月光に至っては回復する可能性だってあるのだとか。
うん、『ドレスエレメンタル』で発生させている属性バフも細かい区分を受けていそうなので、気を付けておこう。
燃詩先輩も手を着けていない範囲なので、肌感覚で覚えるしかないだろうけど。
「さて、次に移るか」
「分かったよナル君」
それでは、そろそろ次の服に移るとしよう。
俺は一度深呼吸をし、覚悟を決めてから、着ている服を『ドレッサールーム』で入れ替える。
そうして着たのは……スズが選んだシスター服風の衣装だった。
属性について。
大まかな属性として、火、水、風、地、光、闇までは存在が確定してる。
でも、詳しく分けていくと、概念一つにつき属性一つと言うレベルで細分化されているんじゃないかと言う疑惑がある分野。
そして、大まかな属性についてもまだまだあるんじゃないかと思われている分野。
つまりは底なし沼である。
分かり易く言うと、
水属性、海水属性、純水属性は基本的には同じ水属性として振る舞うけれど、対雷系統の属性の時の振る舞いは全くの別物になるので、詳細まで見る場合には別の属性として扱わないといけなくなる。
と言う話ですね。