28:甲判定者限定ミーティング
「俺たちが一番乗りみたいだな」
日曜日は、ひたすらに戌亥寮の自室でマスカレイドを使用して、ライダースーツ、スズが選んでくれたブーツ、レンタルした大型盾を俺の仮面体に馴染ませるための訓練をしていた。
結果、スーツの寿命は大して延びなかったが、ブーツと盾は俺も納得し、受け入れた上で持っていたからだろうか、驚くほどあっさり形になったし、キャストオフの対象にもならなかった。
我ながら自分の仮面体の基準がよく分からない。
いや、裸の方が魅せると言う意味で良いのは諸手を挙げて賛成するのだけど。
「そうみたいだな。誰も居ない」
「早めに来たかいがあったって奴だな」
「じゃ、適当に座っておくっすかね」
明けて月曜日。
本日は魔力量甲判定者限定のミーティングがあるとかで、昼食を取った俺、徳徒、遠坂、曲家の四人は指定された教室へとやってきた。
念のためにマスッターで確認しておくが、時間や教室を間違えたりはしていない。
「よいしょっと」
俺は盾を壁に立てかけて、その近くの席に座る。
「しかし翠川、お前の盾は目立つな。重くないのか?」
「案外重くないぞ。なんか最新の特殊強化プラスチックとかで、軽くて硬くて丈夫らしい」
「へー、そうなんすか。ウチと同じくらい大きいのに凄いっすね」
「ふーん。不思議なもんだな。そう言うのもあるなら、ワイも今度、武装のエリアを覗いてみるか」
俺たちは適当に雑談をして、時間が過ぎるのを待つ。
ちなみにだが、スズたち乙判定者たちも、この時間は別室でマスカレイド関係のミーティングをやるらしいが、俺たちとは色々と違う内容になるらしい。
これもまた甲判定と乙判定の差と言う奴だな。
「こんにちは、徳徒、遠坂、曲家。そして、こうしてきちんと顔を会わせるのは初めてかな。翠川君。僕の名前は吉備津陽呼。一応今年の魔力量第四位だ」
「こんにちは。えーと、苗字呼び捨てでいいか?」
「構わないよ。僕もそれで?」
「ああ、構わない」
と、ここで桃色の髪をした、顔に覚えがある男子がやってくる。
うん、甲判定者の一人で吉備津と言うらしい。
物腰穏やかな感じで、何と言うか落ち着いているな。
「あ、吉備津。午前中の授業で分からなかったところがあるんだけど」
「はいはい。何処だい、徳徒」
「ワイが土日で試した整髪剤よかったぞ」
「そうなんだ。遠坂」
「さっきまで翠川の盾の話をしていたんすけど、今度吉備津も一緒に見に行くっすか?」
「今度の土曜日だったらいいかな。曲家。僕も欲しいものがあるし」
ふむふむ。
徳徒の動きから見て、学力は当然ながら俺たちより上。
遠坂の話から見て、色々とアンテナは張っていそう。
曲家への対応から見て、付き合いも良さそう。
顔も俺とは別方向でイケている感じだし……総合的に見れば俺よりもハイスペックな男子と言う感じがするな。
俺はぶっちゃけ見た目だけだし。
「君は意外と他人を見る方なんだね。翠川」
「ん? そうか? これくらいは普通だと思うが。と、残りのメンバーも集まって来たな」
迷惑はかけたくないが、人の良さも滲み出ているし、とりあえず、吉備津の事は困った時に相談する相手の一人として見ておいていい気はする。
「ええ、そうですね。今度の土日でも……」
さて、そうやって話していると、残りの甲判定者もやってくる。
女子四人は昼食が一緒だったのか、一緒に入ってきて、静かに席へ着く。
「……」
「ん?」
そして、縁紅もやって来て……なんか俺の方を睨んできているな。
まあ、睨んでくるだけならスルーするが。
「ふむ。全員揃っているようだな。感心感心」
「……。そうですね。いい事です」
そうして最後に味鳥先生と樽井先生がやって来て、授業開始のベルが鳴り響いた。
「さて、まずは簡単な説明からしていくぞ。このミーティングは現状では甲判定者たちだけが集められるものであるが、いずれはマスカレイド及び決闘の成績優秀者が集められる場となる。そして、この場で通達され、話し合われるのは、この学年全体にある意味では関わるものとなる。よって、全員真剣に話を聞くように」
味鳥先生の言う通りなら、甲判定者限定ミーティングと言う名前ではあるが、いずれは甲判定でないけれど優秀な人間が集まる場になるという事か。
裏を返せば、魔力量甲判定だけだと、いずれはこのミーティングに呼ばれなくなるとも言っていそうな気がするな。
大丈夫か?
この時間でついでにマスカレイド関係の座学もやると聞いているけど、正直に言って、俺と座学の相性は悪いぞ。
「では、今回のミーティング目的についてだ。今回のミーティングでは、来月行われる諸君らのデビュー戦について話し合う」
「デビュー戦……」
と、話を聞かないとな。
相性が悪いと自覚しているのだから、話ぐらいは真面目に聞かないと。
「順を追って説明しよう。知っての通り、この学園では決闘の専門家を育てるために魔力量に優れた諸君らを入学させた。そして、決闘の専門家にするべく、様々な教育を施しているわけだが……決闘とは何処まで行っても、実戦で活躍できなければ意味がない舞台だ。となれば、教育の過程にも実戦またはそれに準ずる機会を設けなければならない。その第一弾となるのがデビュー戦だ」
「……。加えて、これは入学式後のお披露目会に続く、国内外へのアピールを行う場でもあります。私たちの国には将来有望な決闘者の卵がこれだけ居るのだぞと知らしめるわけですね。また、この場をきっかけにスポンサーなどが付けば、それだけ卒業後の進路の安定に繋がりますので、国の安寧に興味が無くても頑張るべき場になるでしょう」
つまり、デビュー戦は非常に目立つ場所なので、出場する俺たちも気合いを入れろよ、と言う話であるらしい。
「そんな場であるから、こちらとしても出来るだけ実力伯仲の見ていて興奮するような決闘の組み合わせにしたいのだ。だから、今日のミーティングではデビュー戦の組み合わせを決めることになる」
「……。幸いにして、今年の甲判定者の人数は偶数です。余った誰かが乙判定者や二年と戦わされるような事にはなりません。後はどのように組むかですが……」
で、今これから、誰と決闘するかが決められる訳か。
ただこれ、スズたちの話通りなら……。
「一組は確定ですね。今年の魔力量第一位と第二位、つまりは翠川君と護国君です。ここは例年通りと言うか、定番ですので」
うん、俺と護国さんが決闘するのは確定のようだ。
これで残りは八人だな。
そう思った俺が頷きつつ、決闘相手となる護国さんの方へと視線をやろうとした時だった。
「待ってください! 異議があります!」
縁紅が手を挙げ、大きな声を出した。
「縁紅。今はまだお前たちの意見を聞く時間ではないんだが?」
「すみません。だがそれでも言わなければなりません! 護国巴、彼女の決闘相手に相応しいのは、そこの露出狂ではなく俺だ!」
そして、俺の事を指さしながら、堂々と自分の方が決闘相手に相応しいと名乗りを上げたのだった。
「……」
さて、どうしたものだろうなぁ、これ。




