276:観客視点での考察
「危なげなく勝ったな」
「そうだね。問題なく勝ったと思う」
「圧倒的と言う奴でしたネ」
トモエとグレイヴサテライトの決闘はトモエの勝利で無事に終わった。
そして、トモエがマスカレイドを保ったまま舞台を降り、歓声を受けながら舞台裏に移動すると、見るべきものは見たと言わんばかりに観客は少なくなっていく。
だが俺はスマホで巴に勝利祝いのメッセージを送ると、敢えて席に座り続けて、話をする。
「で、アレはどう思う?」
「二回目の攻撃だね。普通のスキルで無かったことは確実だと思うよ。明らかに火の勢いが違ったし」
「マリーも同意しまス。何かしらのプラス要素があった事は確かですネ」
話題は当然ながらトモエの二度目の攻撃。
一度目の攻撃の際に使ったものよりも明らかに威力を増していたスキルについてだ。
「トモエが今回の決闘で使っていたスキルは『エンチャントフレイム』『ハイストレングス』『クイックステップ』『バーティカルダウン』の四つだったな。『P・魔術詠唱』のようなものを入れる枠……つまりは五つ目の枠、あると思うか?」
「うーん、一応トッププロが使うデバイスなら、スキルを五つ登録する事は可能だね。けれど、基本的な性能との兼ね合いに、護国家の財力と事情、巴の立ち位置、今回の決闘に対する気合いの入り具合を考えると……スキルの登録数は四つでいいと思う」
「普段から『P・魔術詠唱』を使っている身として言わせてもらうのなラ、そう言うスキルを強化するスキルの挙動は見られませんでしたネ。なのデ、デバイス以外のスキルによって強化が為されたと考えていいと思いまス」
デバイスの性能的に五つ目のスキルはほぼ無い。
挙動的にもスキルを強化するスキルを用いた形式はない。
しかし、スキルと言うのは、デバイスが使用者から魔力を吸い上げて発動するものであり、同じスキルを同じ条件下で百回使ったのなら、百回同じ効果を発揮するものである。
だが現実として、トモエの使ったスキルは目に見えて強化されていた。
つまり、この矛盾が解消されるような何かがあったと言う事だ。
矛盾解消の候補は……まあ幾つかある。
俺が知らないだけで、何かしらの条件達成で強化されるスキルがあったのかもしれないし。
スキルに干渉する仮面体の機能によって強化がされたのかもしれないし。
ただ一番可能性として高そうなのは……。
「ユニークスキル、なんだろうな」
「そうですネ。可能性としてはそれが一番あると思いまス」
「まあ、巴なら分からなくはないよね。魔力量も実力も十分なんだから、何かは得てもおかしくない」
巴がユニークスキルに目覚めた。
これだろう。
ユニークスキルはデバイスを介さずに魔力を操作して、何かしらの現象を引き起こす技術の事を指すので、巴が今回の決闘でした何かも、確立されたのならユニークスキルとして扱われるはずだ。
「うーん、スキルを強化するユニークスキルか……。今まででも十分に強力な一撃だったことを考えると、使いこなされたら、受ける側としてはキツいものになりそうだ」
「同感ですネ。マリーの『P・魔術詠唱』と違っテ、普通にスキルを使うだけで強化されるのですかラ、使いこなしたラ、敵対する場合には脅威になると思いまス」
何が厳しいって、ユニークスキルだと分かったところで、対抗手段がないところなんだよなぁ……。
極めてシンプルなバフだから、弱点とかも無いだろうし。
いやまあ、『恒常性』と『ドレッサールーム』、二つのユニークスキルを持っているお前が言うな、とか言われたら、それはそうとしかお返しできない話なんですけどね。
「……」
「スズ? 何か言いたいのか?」
と、ここでスズの方を見たら、何か言いたそうにしていた。
「大したことじゃないんだけどね。巴がユニークスキルを使えるようになったなら……」
「なったなら?」
「ナル君の周りにいる女の子で私だけがユニークスキルなしになっちゃうなって……」
確かに俺には『恒常性』と『ドレッサールーム』が。
マリーは『蓄財』が。
この場には居ないイチには『同化』がある。
そして、今回、巴がユニークスキルの萌芽を見せたのなら……確かにスズだけはユニークスキルなしになるな。
「あー……それはそうだな。そうなんだが……」
「そうですネ。それは確かにそうですガ……」
とは言えだ。
俺もマリーも同じように、何とも言えない視線をスズに向ける。
「スズの仮面体の機能はユニークスキルなんて可愛く思えるレベルで独自性が高いと思うんだが」
「ですよネ。スズの仮面体の機能は何でもありと言ってもいいレベルじゃないですカ」
スズの仮面体の機能はユニークスキルのユニークと言う文字が霞むレベルで唯一性が高い。
この前のハクレンとの決闘では、ダメージの押し付けなんて離れ業までこなしていたからな。
アレ、よくよく考えてみれば、スキルでも仮面体の機能でもユニークスキルでも早々使えたら駄目な奴だろ。
「それはそれ、これはこれって奴だよ。ナル君、マリー」
「まあ、そうかもだが」
「仲間外れみたいって気持ちは理解しますヨ」
もしもスズがユニークスキルを身に着けたのなら……それがどんな内容であったとしても、これまで以上にスズが強化され、理不尽さが増すんだろうな。
これだけは間違いないだろう。
うん、ちょっと怖くなってきたな。
「しかしイチは帰ってこないな」
「メッセージは入っていないね」
「何もないといいんですけどネ」
俺は話題を変えるようにイチのことを尋ねる。
既に次の決闘も始まっているのだが、まだイチが帰ってこない。
そもそもイチは巴の決闘が始まった直後に、確認したいことがあると言って席を立った。
決闘が始まる前に、今回の決闘の観客には諜報員が何人も居たと言っていたので、それ関係で何かをしに行ったと思うのだが……。
「もう数分待っても連絡が無ければ、まずはイチのスマホに連絡か」
「そうだね。そうしよっか」
「ですネ」
「ご心配をおかけしました。今戻りました」
「イチ」
と、そんな事を言っている間にイチが帰って来た。
ただ、その表情は多少険しいものだ。
「何があった?」
「お話します。ただこの場ではなく、『ナルキッソスクラブ』へ行きましょう」
「分かった」
どうやら報告をする必要があるほどの何かがあったらしい。
俺たちは四人揃って『ナルキッソスクラブ』へと向かった。