275:トモエVSグレイヴサテライト -後編
「来いっ!」
「っ!?」
グレイヴサテライトの文様が持つ輝きが増す。
その意味を知っていたトモエは即座に横へ飛ぶ。
そして、その直後にトモエが居た場所を落ちていくような勢いで通り過ぎて行ったのは、先ほどトモエが破壊した『ロックウォール』の破片たちだった。
「えへ、へへへ。やっぱり知られてますよね。でもこれは決闘者として生きていて、あんな事があったのなら当然の事だから、私は悪くないですよね。うん、私は悪くない」
「……」
スキル『ロックウォール』。
自身の目の前に岩で出来た壁を出現させるスキルである。
だが、このスキルで生み出される岩には、例え破壊されたとしても、破片のそれぞれが有する魔力が尽きるまでは消滅しないと言う特徴を持っている。
そしてグレイヴサテライトと言う仮面体が持つ機能は、抑えるものが居ない魔力で出来た物質や、他の仮面体が放った遠距離攻撃を重力によって捻じ曲げ、自分の周囲で衛星のように漂わせると言うもの。
相手の仮面体自身や仮面体が手に持っている物は引き寄せる事は出来ないが、そうでないものなら幾らでも引き寄せられると言う便利なものである。
そんなスキルと仮面体の機能を組み合わせる事によって、グレイヴサテライトは『ロックウォール』の破片を自分の周囲に漂わせ、周回させ始める。
そうして周回する岩の破片は、まるでプロペラのローターのように高速で回転を始めていく。
「すぅ……いっけぇ!」
やがて、十分に加速した岩の破片はグレイヴサテライトの意思で、その機能から外され、慣性の法則に従って放たれる。
その速さは正に砲弾のようであり、狙いも正確だった。
放たれた岩の破片はトモエの頭部に向かって真っすぐに飛んで行く。
「はっ!」
対するトモエは薙刀を振り下ろし、飛んできた岩を真正面から打ち砕く。
砕かれた岩は形を保てるだけの魔力を失って消滅し、砂粒一つ残さずに消える。
「ふへ、へへへ。うん、これも知ってる。でも大丈夫。だって……弾はまだまだ沢山あるんだから!」
だが、この程度の事はグレイヴサテライトにも分かっていた事である。
だからグレイヴサテライトは次々に岩の破片にかかっている自身の仮面体の機能を解除して、岩を射出していく。
その勢いと物量はまるで複数の大砲を撃ち込んでいるかのようであり、何十と言う岩がトモエに向かって飛んで行く。
「この程度で……私をどうにか出来るとでも!」
「!?」
それをトモエは真正面から打ち砕いていく。
薙刀を振り回し、舞い踊るような動きで以って、刃と柄を岩に的確に当てて砕き、消滅させていく。
その動きは美しくもあったが、それ以上にグレイヴサテライトに対する敵意がこれでもかと言うほどに込められた恐ろしいものでもあった。
「ロ、『ロックウォール』! 『ロックウォール』! 『ロックウォール』!!」
「増やしたところで!」
そんなトモエの動きに恐怖したのだろう。
グレイヴサテライトは弾の補給のために『ロックウォール』を発動すると、まだ撃ち出していなかった岩と『ロックウォール』をぶつけ合って、岩の破片の数を一気に増やす。
そうして増えた岩の破片を乱回転させ、十分な速度を得たところでトモエに向かって放つ。
が、そんなグレイヴサテライトの動きなど大した事は無いと言わんばかりに、トモエは自身に向かってくる岩の破片を的確に打ち砕きつつ、ステップを刻むように、一歩ずつ距離を詰めていく。
「さて……」
「あ、あわわ……」
トモエは再びグレイヴサテライトの前に立ち、薙刀を振り下ろす構えを見せる。
既にグレイヴサテライトの周囲に岩はない。
全てトモエに砕かれてしまったからだ。
「今度は逃がしません。『エンチャントフレイム』『ハイストレングス』」
トモエがスキルを使う。
薙刀の刃が炎を纏い、鎧の下の筋力が増強される。
だが、一撃目の時よりも、明らかに火勢は増し、筋肉は膨らんでいた。
それはまるで、トモエがグレイヴサテライトに対して抱く感情を映し出したかのようであった。
スキルとは百回使って百回同じ効果を発揮するように作られているにも関わらず、起きるはずのない変化が起きていた。
「ク……『クイックステップ』ぅ!!」
恐怖に耐えきれなかったグレイヴサテライトが跳ねる。
窮鼠が猫を噛むように、鉄球の体でトモエを押し潰そうと、真正面からぶつかってくる。
「何か?」
「!?」
トモエはそんなグレイヴサテライトの悪あがきを意にも介さず、薙刀をジャンプ台のように構えると、グレイヴサテライトを宙に向かって跳ね飛ばす。
そうして跳ね飛ばされたグレイヴサテライトは重力のままに減速し、止まり、やがて落ち始める。
薙刀を構えるトモエの真正面へと。
「『バーティカルダウン』」
落ちて来たグレイヴサテライトを宙で捉えるように薙刀が振り下ろされる。
薙刀はグレイヴサテライトの鉄球を半ばまで切り裂くと吹き飛ばす。
「ーーーーー~~~~~!?」
吹き飛ばされたグレイヴサテライトは結界に叩きつけられると……その衝撃で以って中身ごと爆散。
会場中に鳴り響くような轟音が鳴り止む頃には、舞台の何処にもグレイヴサテライトの姿は無かった。
『勝者、トモエ! 圧勝です!!』
「「「ーーーーー~~~~~!!」」」
そしてトモエの勝利が告げられると共に、会場は歓声で満ち溢れた。
「……。先ほどのは……もっと研ぎ澄ます必要がありそうですね」
そんな中でトモエは考える。
何故、スキルが普段よりも高い性能を示したのかを。
自分の指先が触れた何かを。
忘れる事が無いようにと、心に刻み付けていった。