272:これからしばらくの予定確認
「意外とかかったなー」
「本当だねー」
「とは言エ、必要な事ですけどネ」
「そうですね。知っておいて損になることは無いでしょう」
本日の授業終了後。
俺、スズ、マリー、イチの四人は『ナルキッソスクラブ』に集まった。
理由は九月中……と言うより、十月の文化祭までの日程を改めて確認し、必要な物をまとめるためである。
「さて、まずは決闘の予定からだな。えーと、俺の決闘は九月の末だな」
「私も同じだね。この人なら……改めての対策は不要かな」
「マリーは一週早いですね。ふむふむ」
「む……。イチは二年生が相手になっていますね」
俺の決闘相手は……聞き覚えがない名前だな。
とは言え、今更俺と当てて意味がある一年生は、トモエのような実力者か、ボーダーライフのような特殊な能力持ちのどちらか、そう考えると、たぶん二年生か三年生だな。
「イチの相手が二年生なのは夏季合宿が原因か?」
「そうだろうね。あそこで二日連続トップ5で、一学期の正式な決闘でも負けなし。となれば、一年生の甲判定組か二年生の乙判定組か、このどちらかが相手になるのはそこまでおかしくないと思うよ」
「でモ、イチなら相性次第では普通に勝ちそうですよネ」
「イチはやれる事をやるだけです。ワザと負ける意味もありませんし」
まあ、イチが評価されるのは当然と言えば当然だな。
スズと違って運に左右される要素もないし、マリーのように決闘の外で貯めるリソースがあるわけでもない、ある意味では真っ当な決闘者でありながら、その強さを示したのだから。
きっと学園側も楽に評価を上げて、組み合わせを決められたことだろう。
「後は……今週の金曜日にトモエとグレイブサテライトが決闘する事になっているみたいだな」
「それはまた……」
「あからさまですネ……」
「どういう事情が裏にあろうと、イチたちには関係のない事です」
さて、残る俺と関わりが深い相手の予定と言う事で、巴の決闘予定も調べてみたのだが、まさかの今週だった。
しかも相手が綿櫛の取り巻きの一人で、唯一学園に残ったグレイヴサテライト。
この組み合わせには色々と感じるものがあったのか、スズもマリーも微妙な顔をしている。
うん、俺としても、この決闘にはちょっと思うところがある。
結果が見えているとか、八つ当たりとか、ケジメとか、折角だからとか、そんな感じの言葉が思い浮かぶ。
イチがスルー出来ているのは、慣れとか性格の差なのだろう、たぶん。
とりあえず見には行こう。
「決闘についてはとりあえずこんな所か」
「だね」
「ですネ」
「はい」
ま、決闘については各自頑張りましょう、必要なら協力を頼みましょう、ってお話で終わりだな。
普通の決闘なんだし。
「えーと、次に確認するべきは……」
「あ、ナル君に良い知らせと悪い知らせがあります」
と、ここでスズが声を上げる。
どうやら何かあるらしい。
「どっちから聞く?」
「じゃあ、悪い知らせからで」
「分かった。まあ、悪いと言ってもそこまで悪い話じゃないから、安心していいよ」
まあ、本当に悪い知らせなら、もっと早くに緊急で言っているはずだからな。
それは分かる。
「燃詩先輩ですが、文化祭で何かを出すらしく、その何かの開発と調整で手一杯らしいの。よって、ナル君の『ドレスパワー』検証会に顔を出すくらいは出来るけど、新規のスキル開発や既存のスキルのアレンジと言ったリクエストは、少なくとも文化祭が終わるまでは受けられないってさ」
「あー……それは何というか、頑張ってくださいとしか言えない奴だな。俺たちは元々燃詩先輩の善意に縋っていた形なわけだし。むしろ、何か協力できることがあれば声をかけてくださいと返す場面だな」
「ですネ。ナルに同意でス」
燃詩先輩に新しいスキルを作ってもらう事は出来ないのか。
『ドレスパワー』も『P・敵視固定』も大活躍しているので、燃詩先輩に新しいスキルを作ってもらえたのなら、それだけで心強くはあったのだけど……うん、やるべき事が別にあると言っているのだから仕方がない。
と言うか、こうしてリクエストは受けられないと言ってくださるだけでも、相当優しいと言うか、何と言うか……。
「スズ。あの燃詩先輩が手一杯なのですか?」
「うん。あの燃詩先輩が手一杯らしいよ」
「一日あれば、スキル一つとその応用系の中でも簡単な物なら五つくらいは作ってくることもある燃詩先輩がですか?」
「そう、その燃詩先輩が、なんだよ」
「これだけでも特ダネの情報なのでは?」
「文化祭で何をやる気なのかは誰も探れないだろうけどね。電脳も物理も情報統制は万全だろうし」
なお、諜報の分野に携わる人間にとっては、燃詩先輩が手一杯になっている時点で、何かとんでもないことが行われる兆候扱いらしい。
いやまあ、燃詩先輩の技術力がずば抜けているのは俺でも知っているので、そんな人が一月以上専念して作り出す代物ともなれば、騒ぎになるのは分かるのだけど。
「あー、それでだ。いい知らせの方は?」
「『シルクラウド』社から色々と連絡が来てるの。『シルクラウド・クラウン』Ver.1.00が出来上がったとか。スキル『ドレスパワー』のアレンジに近いもので新規スキルを作ったとか。あ、第二回撮影会の詳しい日時も来てるよ」
「なるほど。それは確かにいい知らせだな。それら次第じゃ、ナルキッソスVer.1.10くらいにはなれるかもしれない」
「ふふふ。そうだね、ナル君」
話を戻していい知らせについて。
うん、シンプルにいい知らせだった。
期待が膨らむな。
「後は……イチの誕生日もかな?」
「そうだな。9月23日だ」
「はい、その通りです」
「休日ですシ、盛大に祝いましょウ!」
9月中にはイチの誕生日もある。
うん、祝うのは当然の事だな。
「他に見えている範囲だと、文化祭の『ナルキッソスクラブ』での出し物関係で色々と調整が必要なぐらいかな」
「ナルの写真集ですネ」
「撮影と編集を終えてから印刷をかけてとなると、中々に忙しそうですね」
「そうそう。おまけに写真集本体だけじゃなくて、学園との話し合いとか、共同者との都合合わせとかも、その内に入ってくるはずなの。まあ、この辺は文化祭の準備が本格化してからだろうけどね」
「なるほど。色々とあるんだな」
さて、分かってはいた事だけど、9月も中々に忙しそうだ。
しかし、順番に丁寧にこなしていけば、何とかはなるはずだ。
「それじゃあ全員、無理をしない程度に頑張っていこう」
「うん!」
「はイ!」
「そうですね」
こうして俺たちの二学期は本格的に幕を上げる事となった。
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