268:自供するハクレン
「それで? 俺から何を聞きたいんだ? 決闘の結果に従って、今回ばかりはタダで知っている事は何だって話してやるぞ」
警察の取り調べ室。
そこにはハクレンを名乗る男と複数の警察の人間が居た。
そして、手錠をかけられた状態で椅子に座るハクレンに対して、机を挟んで向かい側に座る取り調べ役の警官は口を開く。
「まずは何処の誰に対して、どのような情報を流したか。これからだ」
「長くなるぞ」
「構わん。時間ならたっぷりとあるからな」
「じゃあ遠慮なく。とりあえず分かり易いところで外国の人間からだな。俺が判別出来た限り、中国、ロシア、アメリカ、韓国、フィリピン、タイ、ベトナム、マレーシア、インド、オーストラリア、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、中東にアフリカに南米の国や出身ぽい奴らも少なからず……」
「待て。随分と口が軽くないか?」
警官は思わず制止してしまっていた。
想像よりもはるかに多くの国名が出てきたからである。
「女神の制約で黙れないんだから、そりゃあ口も軽くなるだろ」
「そう言う意味ではなく、あまりにも客の範囲が広いと言う意味でだ」
「ああそう言う事か。そりゃあ俺の口は軽いぞ。俺はパチンコ代さえくれれば、ホイホイと喋ったからな。ああでも、安心しろよ。俺がこういう人間だってのは裏社会じゃ有名で、『ノマト産業』の同僚たちも分かってた。だから本当にマズい情報は俺の見えないところで取り扱ってたはずだ」
「……」
「ぶっちゃけた話、俺は裏社会で共有したい情報があった場合のハブみたいな物なのさ。俺が知っていれば大した事が無い情報か、嘘情報として広めたいか、俺を見つけ出した程度で喜んでいる馬鹿を炙り出したいか……まあ、そんなところだな。そんなレベルの情報しか取り扱っていないおかげで俺は命を狙われた事もないぜ」
「そうか……では、知っている情報は?」
「そうだな……」
ハクレンは自身が知っている情報を話し始める。
その情報を聞いて、一部の警官は青褪めたり、明らかにイラついたり、呆然としたり、反応は様々だ。
「その反応。もしかしなくても、俺が知っているのと同じレベルの情報を、鬼の首を取ったみたいに持ってきた奴が居た?」
「黙秘させてもらう」
「はははははっ! ウケるなぁ! 新人でないなら、そいつの今後は冷や飯確定だ! 自称、情報のプロでそれはアウトだろ! 何処の誰かは知らないけどよぉ!!」
「……」
そんな彼らの反応にハクレンは大笑いする。
恐らくは諜報に関わる部署に居る誰かの今後が真っ暗になったのだから。
他人の不幸は蜜の味とは正にこの事だろう。
「話を続けるぞ。国内の客はどうだ?」
「へいへいっと。一応言っておくが、俺には相手が偽名を名乗ったかどうかや、何処の誰だったのかの証拠は持ってないからな」
笑うのを止めたハクレンは再び名前を挙げ始める。
そうして一通りの名前を挙げ終わったところで、取り調べ役の警官は数枚の写真を見せる。
「この中に顔見知りは?」
「コイツに覚えはあるな。金払いが微妙で、持って行った情報は……」
ハクレンは一枚の写真に写る男を指さすと共にどんな情報を得たのかを話す。
そうして話し終えたところで、ハクレンは別の写真に写る男に目を向ける。
「いやしかし、この写真の面子……尾狩家じゃねえか」
「流石に知っているか。ついでだ。お前の知っている尾狩家の情報を出せ」
「大したことは知らねえぞ。護国家に並ぶ、国の守りを担う家の一つ。それが尾狩家だ。当主、本妻、本妻の息子である長男と次男。他に内縁上の妻とその子供たちが合わせて数人。ここまでは問題ないそうだが……内縁上の妻が産んだ子供の一人がヤバいって話は聞くな」
「ほう……」
「何だったかな……。魔力量甲判定で、決闘学園卒業者、歳は20代前半。決闘者としての実力も高い。だが、その魔力量に合わせたような横暴な振る舞いもする生粋の魔力量至上主義者。そのせいなのか、未だに結婚をせず、そこら中に種撒いて、後始末と尻拭いは家任せ、だったか。まあ、絵に描いたようなクズ野郎だな」
「なるほど。裏でもそう言う認識か」
「ああそうだ。こっちの男が話してたな。十月にどうこうだそうだ。俺の前で堂々と電話をして、そんな事を言っていた」
「……」
ハクレンは話し続ける。
十月と言う言葉に取り調べ役の警官は少し考え……心当たりは心のメモに書き留めておく。
ハクレンが僅かな言動からでも情報を得られ、覚えていられるのを、今正に証明したところであるからだ。
「最後だ。四月に起きたタンカー襲撃事件で知っている事は?」
「それについては俺は被害者側だぞ。俺は『コトンコーム』社の貨物船に警備として乗り込んでいた。そこに仮面体を利用して航行中の貨物船に乗り込んできた銃持ちの連中が居たから、マスカレイドを使って排除しただけだ。この件については女神だって正当防衛を認めている」
「それは分かっている。聞いているのは犯人の正体や動機に心当たりがないかだ」
「んー……確定情報ではなく推測になるな。いいか?」
「構わない」
「じゃあ言うが、犯人は国外の犯罪組織だな。動きが正規の軍人っぽくなかった。動機については……なんか怪しいものでも運んでいたんじゃねえの? ガタゴト言ってたコンテナもあったし、気が付いたら無くなってたコンテナも幾つか覚えがあるからな」
「女神が罰しないマスカレイドの利用法を悪用したものか……」
「さあね。俺は知らない」
ハクレンは笑みを浮かべる。
推測ではあるものの、確信はしていると言わんばかりに。
「なるほど分かった。今日の所はこれくらいにしておこう」
「どうもー」
「そして明日からは、お前が犯した罪についてだ。暴行と恐喝と脅迫なら幾つも上がってきているぞ」
「おお怖い怖い。お手柔らかにおねがいしますよっと」
そうしてこの日のハクレンに対する取り調べは終わった。