263:国からの緊急決闘依頼 VSハクレン -前編
「おらぁ!」
「……!? おっとぉ!」
デバイスの性能差による初動に移るまでの差を生かしたナルのシールドチャージがハクレンへと向かう。
対するハクレンはナルのスキル『P・敵視固定』による顔と眼球の向きを固定される感覚に驚きつつも、回避行動を取る。
その回避の先は……上。
ハクレンは少しだけ膝を屈めて跳躍すると、ナルの頭上を前方宙返りのような動きで以って跳び越していく。
「妙なスキルを使っていやがるな!」
そうしてナルの後頭部が見える位置にまで跳んだハクレンは、天地がさかさまの状態でナルの後頭部に狙いをつけると、右手に生み出した銀色の球体を勢いよく弾き飛ばし、銃弾のような速さで以って射出する。
「上! からの背後!」
そんなハクレンの動きにナルも即座に応じる。
一瞬だけ盾を消して素早く振り向くと、自身とハクレンの間に割り込めるように『ドレッサールーム』で盾を再生成。
再生成された盾はハクレンが放った球体を真正面から受け止めると……。
「っ!」
「ヒャア! 当たりだぁ! あ?」
当たった場所を中心にひび割れて貫かれる。
その上でハクレンの放った球体はそのままナルの顔面に向かって直進、直撃。
が、ハクレンの球体はナルの顔面を貫くことは出来ず、互いに衝撃を分け合いつつ弾かれて、舞台に転がる。
これは盾によって球体が減速しただけでなく、咄嗟に被弾想定箇所へとナルが魔力を集中させたことによって、ナルの防御力がハクレンの攻撃力を上回れたと言う事である。
「マジ……」
「!」
「おっと! こっちはこっちで無言で投げてくるとか殺意が高いねぇ!」
舞台に着地したハクレンは驚きの言葉を述べようとする。
だがその前に、スズが何かしらの液体が入ったフラスコを投擲。
風切り音によってそれを察知したハクレンは再び跳躍する事によって回避すると、今度はスズに向かって銀色の球体を放つ。
「『マナシールド』!」
対するスズは『マナシールド』を発動。
スキル『マナシールド』は、自分の左手の手の平を向けた場所に、魔力で出来た透明の盾を構築するスキルである。
盾の大きさは体の半分も隠せればいい程度で、強度ははっきり言えば心もとないレベルであるが、防御に用いられるスキルの中では燃費、展開速度、維持時間と言ったものが良好なために、取り回しが良いスキルとされているものである。
その『マナシールド』とハクレンの球体が接触。
『マナシールド』の強度はナルの盾と比べる意味がないほどに低いにも関わらず、ハクレンの球体は普通に弾かれて、舞台に転がる。
「なるほど。オメーら、俺の仮面体の機能を知ってるな。でなけりゃあ、もうちょっと困惑するはずだもんな」
何故このような結果になるのか。
それは、先ほどから攻撃に用いている銀色の球体が、ハクレンの仮面体の機能によって生み出された特殊な物だからである。
「そうだな。よくは知らないが、一応は知ってる。卑怯だと思うか?」
「いいや、むしろよく調べたって褒めてやりたいところだ。くくく……燃えて来たぜぇ」
ハクレンの仮面体の機能は手から銀色の球体……パチンコ玉を生み出す事である。
このパチンコ玉の外見と重量、その他基本的な性質は、遊技に用いられるような市販の物と変わらない。
だが、おおよそ十発に一発の割合で、ハクレン自身にすら見分けがつかない形で、ハクレン以外の魔力に接触すると一度だけ何かしらの特異現象を引き起こす、特別なパチンコ玉が生成される。
しかし、発生する特異現象の内容はハクレン自身にも分からない。
ナルの盾すら容易に貫くほどに貫通力が強化される事もあれば、大爆発を起こす事もあるし、とてつもない悪臭をまき散らすだけの事もある。
「俺は決闘者だ! だがそれ以前にギャンブラーだ! 俺の運一つで勝つか負けるかが決まる! 学園と言う名の温室育ちの嬢ちゃんたちが膝を着く! ああ、この想像だけでも堪らねぇぜ!!」
そう、ハクレンと言う決闘者は、ギャンブル中毒者なのだ。
だからこそ、仮面体にまでギャンブルのような機能を付けてしまった。
「さあ、改めて名乗らせてもらおうか! 俺はハクレン! 嬢ちゃんたちの運がどんなものなのか、比べ合おうぜ!」
会話をしている間に生成された十を超える数のパチンコ玉がスズに向かって投擲される。
「スズ!」
「お願いナル君!」
それを見たナルは咄嗟にスズとハクレンの間に割り込むと、盾を構える。
ハクレンのパチンコ玉で特異な現象を発揮するのは十に一つで、しかもどんな効果が出るかはハクレン自身も分からないし、見分けも付かない。
それは効果が安定しないと言う意味で、決闘には不向きな能力であるように思われる。
だがそれはあまりにも甘い想像である。
ハクレンの仮面体の機能は逆に言えば、何時何処で全力で防御しなければいけない攻撃が来るか分からない能力とも言えるのだから。
それを理解しているからこそナルは、腰を僅かに落とし、盾の底面を舞台に付けると言う、大技に備える形でしっかりと盾を構えた。
「なるほど。ナルキッソス、スズ・ミカガミ、お前らそんなに運は良くないな」
ナルの盾とハクレンのパチンコ玉たちがぶつかり合う。
そして、ぶつかったパチンコ玉の一つが……。
膨らみ、割れて、中から百を超す数のパチンコ玉が現れると、弾けて飛び散る。
「「!?」」
「大当たりだ!」
飛び散ったパチンコ玉たち、その大半はナルの盾を激しく叩くか、ただ舞台上に叩きつけられて飛び散るだけだ。
だが一部は、爆発を起こし、電撃を放ち、軌道を不自然に変えて、弾性によって超高速で飛び跳ね、巨大化し、シンプルに加速し、異常な衝撃力を蓄えて、酸を纏って、磁力を放って、赤熱しながら、舞台上を飛び跳ねる、あるいはナルたちに向かって襲い掛かる。
舞台の上は銀色に輝くパチンコ玉が縦横無尽に跳ね回り、結界と舞台を激しく叩く。
その輝きと騒音は、慣れていないものならば思わず耳を塞ぎ、目を背けてしまうほどに激しい。
そう、ハクレンの仮面体の機能によって増殖したパチンコ玉もまた、ハクレン自身の手で生成されたパチンコ玉と同じように、十に一つ程度の割合で特異現象を引き起こすのだ。
「うーん、残念。二連鎖ってところか。さて、学園の嬢ちゃんたちは生きていますかね?」
やがてパチンコ玉の嵐とでも言うべき現象は終わり、舞台上に立ち込めた砂煙も晴れる。
砂煙の向こうから現れるのはハクレン、舞台の上に転がっているのは無数のパチンコ玉。
それから……。
「生きているに決まっているだろうが」
「うん、当然だよね」
多少負った打ち身を治しつつあるナルに、ナルの陰に隠れる事で傷一つなく凌いだスズの姿もあった。
「くくっ、そりゃあそうだ。この程度で終わったらつまらねぇ。それじゃあ、もう一発……いや、もう二十発か? くくっ、さて今度はどうなるだろうな?」
ナルとスズの姿を認めたハクレンは、先ほどの攻撃の間に作っておいたパチンコ玉たちを両手に持ち、ナルたちへと見せる。
「さあ、次行く……」
「『カーブスロー』」
そして、ハクレンがパチンコ玉を投げようとした瞬間。
ナルの陰に隠れたままのスズの手元から、緑色の物体が放たれ、宙に大きく弧を描いたそれは、ハクレンの左手を直撃し……爆発した。
パチンカスとも言う。
(ハクレンは貰った給料の全額をパチンコに注ぎ込んでしまうため、家賃天引き、生活費先引きの上で現物支給されるレベル。なお、そんな生活スタイルなので……まあ、『ノマト産業』の仕事以外にも色々とやっている)