259:『パンキッシュクリエイト』の衣装
「そう言えばナル君。『パンキッシュクリエイト』が作った衣装はどうだったの? イチから受け取ったと言うのは聞いているけど」
「アレか。とりあえず両方の衣装を『ドレッサールーム』に取り込んで、スキル『ドレスパワー』を発動してみた事はある」
ファッションエリアを出た俺たちは、昼食を食べるために適当なカフェに入る。
注文したのはコーヒーにサンドイッチと軽めなものだ。
そして、話題に出たのは『パンキッシュクリエイト』が作り、検証用の衣装と合わせて、俺たちに渡してきた件についてだ。
「そうだな……」
受け取った当日は長時間のマスカレイド発動のせいで色々とアレな事になってしまった件であるが、その後もきちんと『ドレッサールーム』を使って、二種類の衣装は取り込んだ。
で、空いている時間を使って『ドレスパワー』を試してみたわけだが……。
「詳細については燃詩先輩に解析をしてもらう必要はあると思う。けど、俺の個人的な感性に従うのなら、『パンキッシュクリエイト』が作った衣装の方が色々な意味で優秀だと思う」
「それは『ドレスパワー』のバフ効果が高いと言う事?」
「それもある」
『ドレスパワー』で得られるステータス上昇効果については、『パンキッシュクリエイト』が作った衣装の方が僅かながらに強力だと思う。
だがそれだけではなく、特殊なバフもたぶん発生している。
感覚的なもので、燃詩先輩に解析してもらわなければ、正確なところは分からないが。
「なるほどね。そうなると、出来なのか、作り手の影響なのか、正確なところは分からないけれど、誰が作ったのかは『ドレスパワー』に影響する可能性が少なからずありそうだね」
「ああ。そんなわけだから、これが明らかになれば……『パンキッシュクリエイト』は忙しくなるだろうな」
「忙しくなるだろうね。服飾サークルもそうだし、『シルクラウド』社もそう、各国のブランド物を取り扱っている企業もかな」
「だな」
まあなんにせよだ。
『パンキッシュクリエイト』製と量販品では、同じデザインであっても、発揮される『ドレスパワー』の効果に差がある事だけは現時点でも間違いない。
この事実だけでも、十分だろう。
後、当然の事なのだけれど、こうなってくると俺一人では検証することなど不可能である。
なので、詳細な検証は、やっぱり国に頑張ってもらうしかないだろう。
「ところでスズ。これで今日の予定は終わりか?」
「うーん……」
さて、俺たちが頼んだ品は順調に減っていっている。
もうすぐ食べ終わる事だろう。
そうなると、次は何をするかと言う話にもなってくる。
さて何をしようか。
マリーとの時のように遊園地に行ってもいいし、巴との時のように決闘会場へ行ってもいいし、イチとの時のように適当なサークルに顔を出してもいい。
しかし、今日はスズとのデートだ。
となると、俺の要望よりも、まずはスズが求めるものを目指して動くべきだろう。
だから俺は、スズに尋ねた。
「……」
尋ねたのだが……スズは何かを迷っている様子を見せる。
いや、怯えているのか?
話すか、話すまいか、具体的な内容は分からないけれど、そんな姿をしている。
やがて覚悟を決めたのだろう。
スズはゆっくりと口を開く。
「ナル君。ちょっと人目の付かないところで話したいことがあるんだけど……いいかな?」
「分かった」
どうやらスズには話したいことがあるようだ。
それも、スズの真剣で、覚悟を決めた表情からして、相当の重大事。
ここ最近のスズが抱えていそうで、これほどの覚悟を伴う必要がありそうな事柄と言うと……若良瀬島の一件で、ツインミーティアたちが使っていた黒い魔力についての話になるだろう。
あの時のツインミーティアたちが使っていた黒い魔力は、体育祭でスズが使った黒い魔力に酷似していた。
根っこは同じだろうと、スズ自身も事件直後に言っている。
だがその時は、色々と厄介な話があるから、と言う事で、それ以上は話したくても話せない状況だったはず。
それが話せるようになったと言う事は……状況の整理が多少なりともついたと言う事だろうか。
まあ、その辺も含めて、話を聞けばわかる事だな。
「さて、そうなると何処へ向かうべきだろうな……」
「うーん……」
となると問題は人目の付かないところとやらだが……決闘学園の敷地内はなんだかんだで何処も人の目か、監視カメラはあるイメージなんだよな。
正規のものなのか、何処かの誰かが勝手に仕掛けたものなのかはともかく、とにかく色んなところに目がある。
「『ナルキッソスクラブ』にしておこうか」
「まあ、それが無難か」
と言うわけで、ある意味では俺たちの本拠地とでも言うべき『ナルキッソスクラブ』に移動する。
まあ、秘密にしておきたい話なら、あそこで話をするのが無難だよな。
いきなり部外者が飛び込んでくるような事もないし。
「……」
そうして無事に移動して、話が長引きそうだからとお茶も入れて。
お互いに自分の席へと座り、目線を合わせて……。
「ナル君。アビスって神様の話は聞いたことがある?」
スズは語り出した。