258:特殊衣料品店
「なんか賑わってるな」
本屋の次に俺とスズがやってきたのは、ファッションエリアの一角だ。
ただし、この辺りに並んでいるものは普段着るような衣服ではなく、下着や靴と言ったものでもない。
一般的にはコスプレと呼ばれるような行為に用いられるものであり、レンタル主体のエリアである。
「スキル『ドレスパワー』が発表された関係で賑わうようになったみたい。だから、ある意味ではナル君のおかげだね」
さて、このエリアだが、夏季休暇が始まる前に比べると、だいぶ人が増えている。
前は閑古鳥が鳴いていそうなぐらいだったのに、今は男女問わず何グループかやって来ていて、店内を見て回ったり、衣装の前で何かを話し合っていたりする。
「あー、なるほど。元の衣装に拘りとかがないなら、自分の戦い方に適したバフを『ドレスパワー』で得られる衣装に変えた方が良いことになったもんな。でもまだ『ドレスパワー』の詳細は明かされていないんじゃなかったか?」
「明かされていなくても、決闘学園の生徒なら、仲間内で使い合っておおよその傾向は掴めるから。それだけ分かっていれば、探すには十分でしょ?」
「それもそうか」
どうやら、今ここに集まっている生徒たちは、積極的に決闘の能力を高めようとしているようだ。
「それでどうして俺たちは此処に?」
「また今度ナル君による『ドレスパワー』検証会をやろうとは思ってるの」
「それは確かに必要だな」
スズの言葉に俺は頷く。
うん、『ドレスパワー』検証会は俺の戦闘の幅にも関わってくるので、時間があるうちにやっておいた方が良い。
「そこでは私、燃詩先輩、『シルクラウド』社、その他外部の集団から、検証して欲しいと言う要望があった衣装を着てもらおうと思っているんだけど」
「ふむふむ」
これも分かる。
それぞれに求めるものは別だろうけど、俺より頭がいい人たちが、これは確かめておいた方が良いと判断して出してきた衣装なら、有意義な検証に繋がる可能性は高い。
そして、有意義な検証は、そのまま俺の戦闘能力向上に繋がるのだから、断る理由もない。
「でもそれだけだと、ナル君のモチベーションが上がらないかもしれないじゃない? だから、ナル君が着てみたい衣装を今日この場で決めておいてもらおうかなって」
「なるほどな。俺と『シルクラウド』社たちの嗜好が一致するとは限らないし、その方が良さそうか」
そう言う事なら、このエリアにやってくるのは分かる。
俺が好きな衣装と、検証して欲しい衣装が一致するとは限らないと言うか、ほぼ間違いなくズレるだろう。
と言うか、ズレるだけならまだ良くて、下手をすればデフォルトで顔を隠すような、俺にとっては耐えがたい衣装が選ばれるかもしれないもんな。
うん、モチベーション維持のためにも、確かにご褒美になるような衣装は準備しておいた方が良いかもしれない。
「そういう訳だから見て回ろうか、ナル君」
「分かった」
と言うわけで確認開始。
そうだな……。
「あー、これは有名どころだな」
「分かり易いね」
エントリーナンバー1、チャイナドレス。
より正確に言えばチーパオ。
もっと正確に……と言うより、近くするなら、その服を着た格闘ゲームのキャラの衣装。
装飾は細かくて美しく、サイドのスリットが高いのでハイキックも繰り出しやすく、格闘ゲームキャラ由来と考えると、『ドレスパワー』の方も期待できそうではある。
「うーん、ゴツい。まあ、付けるにしてもヘルメットはなしだな」
「それは当然だね」
エントリーナンバー2、アメフトの防具一式。
要するに、現代スポーツの中でも特に激しい、タックルなどが交わされる環境で使われるユニフォームだ。
パッドやプロテクターの関係で、色々な部位が膨らんでいる。
とてもゴツく、防御力もありそうだが、俺の嗜好的に凄く脱ぎたくなりそうな気がする。
「前から思っていたが、魔力が関わらないなら、防具としての意味がないよな」
「よくある設定だと、魔法の力場がどうこうって奴だよね」
エントリーナンバー3、ビキニアーマー。
つまりは両胸と股間と両肩だけ守る、実用性があるのかちょっと悩むような防具だ。
とは言え、俺と言うかナルキッソスが着用するのなら、肌でも十分な防御力を確保できるので、実用性については問題ないだろう。
個人的には普通の白ビキニとビキニアーマーでは、『ドレスパワー』にどういう影響が出るのかは気になるところではある。
「これをシスター服と言ったら怒られそうな気がする」
「ナル君。これはまだマトモな方だよ。後、シスター風であって、シスターじゃないからセーフセーフ」
エントリーナンバー4、シスター服風の衣装。
通常のシスター服との差は胸元が大きく開かれていて、谷間が見えるようになっている。
他にもチーパオのようにスリットが入っていたりして、動きやすさは確保されている。
たぶん、何処かのゲームのシスターが着ている衣装なんだろうな、これは。
「うーん、一つか二つくらいにしておいた方が良いよな」
「そうだね。『ドレッサールーム』の取り込みにも時間がかかるだろうし、それくらいにしておいてもらった方が助かるかな。でも決めるのはまた今度でいいよ」
とりあえず目に付いたところではこの四つだろうか。
うーん、スキル『ドレスパワー』の効果を優先するか、シンプルに強そうなものを優先するか、検証を優先するか、俺が単純に気になった物を優先するか……さてどうしたものだろうか。
まあ、また後で決めるとしよう。
「ちなみにマトモじゃないシスター服は?」
「あちらをどうぞ、ナル君」
なお、シスター服の時にスズが気になる事を言っていたので尋ねたところ、返ってきたのは実に目のやり場に困るものだった。
ボンテージ? ビニール? ラバー? とりあえず光をよく反射する素材で作られた、エグイ角度のハイレグがあるシスター服っぽいナニカだった。
うん、ナルキッソスなら着こなして見せるだろうし、恥ずかしさなど感じもしないだろう。
けれど、今の俺の視点から見ると……本当に目のやり場に困る衣装になっている。
いやこれを参考にして、仮面体に着せられるのは、俺以外だと誰だよ……。
「……。アレ、こんな所に飾っておいていいのか? こう、青少年の健全な成長云々的な意味で」
「さあ? とりあえず着用するには、覚悟が必要だよね」
俺がそんな事を言っている間に、スズは何かを注文していた。
どうやら、後日『ナルキッソスクラブ』へと送られてくるようだ。
最後のアレは、某誤解されやすい方の「覚悟」の格好です。