254:ゲームセンター
ーーーーー~~~~~!!
「おー、相変わらずの騒がしさですネ」
「だなぁ」
この場所について一言で述べるのならば、音の洪水だろうか。
多少控えめな照明の影響で、周囲を探るのに使う感覚の内、聴覚が占める割合が増えている事もあるだろうが、この場では様々な音が間断なく鳴り響いていて、慣れるまでは耳が痛くなりそうなほどに騒がしい。
メダルゲームやガチャポンのエリアについてはそうでもないのだけれど、アーケードゲームのエリアからは正に音が洪水のように流れている。
「ナルはこういう場所の経験はどうですカ?」
「ぶっちゃけ無い。地元でこの手のゲームエリアと言われると、スーパーに併設されている子供が時間を潰すための小規模な物くらいしか経験が無くてな」
「なるほド」
俺はアーケードゲームの方へと目を向けている。
えーと、一番目立つところにあるのは、俺でも知っているような音楽ゲームたちだな。
太鼓を叩く奴とか、踊るように手を動かす奴とか、色々なボタンを押す奴だ。
その奥にはオンラインネットワークで学園の外にも繋がっている各種対戦ゲームが並んでいて、さらに奥にはシューティングゲームが並んでいるようだ。
何人かの生徒が遊んでいる姿が見える。
興味はあるが……安易に手を出せそうな空気ではないな。
「ではこちらに行きましょウ。デートなラ、こういう物の方が一般的だとマリーは思いますしネ」
「クレーンゲーか」
そういうマリーに腕を引かれて連れてこられたのは、クレーンゲームが集まっているエリアだ。
一口にクレーンゲームと言っても、地元にもあったような上から降りて来て、景品を直接掴むスタンダードなものから、棒で台を押すものや、輪っかにひっかけるものもあって、多彩だ。
そして、多彩なのは景品についても同様。
俺も知っている国民的アニメやブームになっているゆるキャラのグッズも当然のようにあるし、あまり見かけた覚えのない作品のグッズも少ないながらにある。
個人的に珍しいと思うのは……有名決闘者の仮面体をモチーフにして作られたフィギュアとかだろうか。
「……。ナルも何時かはフィギュアになったりするんですかネェ」
「なれるだけの決闘者には成りたいな。成りたいが……マリーの懸念はこの方向じゃないよな」
「ですネ。そノ、センシティブ的な意味でアウトラインに引っ掛かりそうな気がして仕方がないものデ」
「うーん、それについては俺の美しさを思うと否定できない」
なお、決闘者のフィギュアに関しては、写真で撮った姿をそのまま縮めたかのような出来の物よりも、若干のデフォルメを加えたフィギュアの方が売れ行きがいいらしい。
また、男性決闘者のフィギュアよりも、女性決闘者のフィギュアの方が売れるようだ。
それが窺えてしまう程度には、クレーンゲームの筐体内に設置されているフィギュアの箱の数に差があると言うか、置き方に難易度の差がある。
「まあ、話があるにしても卒業後だろ。それよりも今は何が欲しいかだ。マリー、何か欲しい景品とかあるか?」
「そうですネェ……。ア、これとかいいですネ」
マリーが指し示した先には、メンダコモチーフと思しきぬいぐるみがあった。
どうやら海洋生物をデフォルメしたぬいぐるみが入っているクレーンゲームのようで、メンダコの他には、クラゲ、クリオネ、カニ、サメ、マグロ、イカ、シャコガイなどのぬいぐるみが入っている。
「よし、じゃあ、チャレンジしてみるか」
「ですネ。ただ予算は決めておきましょウ。沼ったら悲惨な事になりますかラ」
「それはまあ、そうだな」
と言うわけで、クレーンゲームにチャレンジ。
百円で一回遊べるようなので、適当に遊んでみる。
「もう少し、もう少し……」
「行けますカ? 行けますよネ?」
「あー……惜しい」
「後もう一回、もう一回でス!」
遊んで、上手く持ち上げてくれるかどうかでドキドキして、上手くいかなくて一緒に声を上げて、それでも何とか、予算内でメンダコのぬいぐるみは獲得できた。
「ではマリー」
「はイ。ありがとうございまス。ありがたく受け取っておきますネ」
そうして無事に入手できたメンダコのぬいぐるみはマリーに渡す。
受け取ったマリーは嬉しそうに笑顔を浮かべると、付属のチェーンを自身の金貨を入れている袋の紐に通すことで身に着ける。
ちなみにだが、ぬいぐるみのサイズは10センチにも満たない小さなものであるので、邪魔になる事も無いだろう。
「さテ、そろそろいい感じの時間ですシ、デートの時間も終わりですネ」
「ああ本当だ。気が付けば結構な時間だな」
夏なのでまだ日は高い。
とは言え、マリーの言う通り、切り上げるには程よい時間でもあった。
だが、帰り道もまだデートの途中と言えば途中なので、時間はまだあるとも言える。
「マリー」
「ナル、今日は途中で迷惑をかけてしまって申し訳ありませんでしタ。このお詫びはまた今度に必ズ」
俺の言葉に被せるようにマリーが声を発する。
どうやら、ホラーハウスの件を申し訳なく思っているらしい。
「必要ない。俺は気にしてない。アレはマリーのトラウマだから仕方がないだろ」
「しかシ……」
「本当に気にしなくていい。マリーの好きにすればいい。俺は求められたら、マリーの事を助けるとは言っておくけどな」
「はイ……ありがとうございまス。ナル」
それに俺は出来る限り言葉を選んで返す。
俺は素人だから、下手な事は言えない。
言えないが、求められたら助ける、これくらいは口にしたっていいはずだ。
マリーは何時も俺の事を助けてくれているのだから、それくらいはするべきだ。
「じゃ、一緒に寮まで帰ろうか」
「はイ! エスコートお願いしますネ」
俺とマリーは手を繋ぐと、一緒に戌亥寮まで歩いて行った。