253:時間潰しの決闘観戦 ゴールドバレットVSバラニー
「さて決闘は……ん?」
俺の膝枕でマリーが寝ている中、俺は時間潰しの為にスマホで適当に決闘を見る事にした。
そして、どの決闘を見るかと、一覧を眺めていたのだが……珍しい名前を見つけたので、それを見る事にした。
「縁紅は分かるが、羊歌さんが出て来るとは珍しい」
決闘の組み合わせはゴールドバレット対バラニー。
場所は俺が巴と一緒に曲家たちと決闘した大ホール。
縁紅……ゴールドバレットが自主的に決闘をする事は珍しい事ではない。
俺が見に行ったり、気にしたりしていないだけで、ゴールドバレットは結構積極的に授業外の成績が関わらない決闘をしているらしいからな。
対して羊歌さん……バラニーが自主的に決闘をしているのは非常に珍しい。
バラニーは巴や風紀委員会の後ろで色々とサポートしている姿は見かけた覚えがあるけども、授業外の決闘については名前を見かけた覚えもないくらいだ。
うん、折角の機会だから、見てみよう。
『マスカレイド発動! 撃ち抜け! ゴールドバレット!』
『マスカレイド発動。緩く行きましょうか~バラニー~』
さて決闘が始まったな。
初手は……バラニーが取ったようだ。
スキル『スリープミストボール』と言う、当たった相手を眠らせる霧の玉を幾つも出すと、ゴールドバレットに向かって射出している。
対するゴールドバレットは……なんだか動きが悪いな。
リボルバーを撃っているのだけど、霧の玉は問題なく撃ち抜いて破壊しているのに、バラニーに向かって撃つ時だけは明らかに狙いが悪くなっている。
何かあったのか?
「や、こんにちは。翠川……あー、デート中かい?」
と、ここで吉備津が声をかけてくる。
背後には徳徒、遠坂、曲家の三人も揃っている。
そして、俺の太ももを枕に寝ているマリーの姿を見て、吉備津は直ぐに声量を絞ってくれた。
「デート中。そして休憩中だ。悪いが、少し静かにしてくれると助かる」
「分かった。気を付けておく」
この辺の対処の速さは流石は吉備津って感じだよな。
空気を読んでくれる。
まあ、徳徒たちも空気を読んで、会釈だけして、自分の席へと向かってくれているのだけど。
「ん? あー……二人とも、今日やっていたのか。後で見ておかないと」
テーブルに置いた俺のスマホに映っている物を見たらしい吉備津が声を漏らす。
その口ぶりは明らかに何かしらの事情を知っている人間のそれだ。
何故知っているのかは……心当たりはあった。
「ん? ああそうか。吉備津とこの二人って子牛寮で一緒だったか」
「そうそう」
「で、事情は?」
「詳しくは僕も知らない。けれど縁紅と羊歌さんの二人の間には、夏季合宿中に何かあったみたいでね。周りがうざったいと感じる程度にはギクシャクしてたから……」
「決闘でもして、はっきりスッキリさせて来い、と?」
「そう言う事だね。ただ、決闘の様子を見る限り、羊歌さんは割り切れたけど、縁紅は迷っているみたいだね。動きがそうだ」
マスカレイドを発動している間は隠し事が難しくなる。
それは嘘を吐けない、言う必要のない事を言ってしまう、と言う形で現れる事が多いけれど、行動に迷いと言う形で現れる事もある、だったか。
確かに今のゴールドバレットは、攻撃も防御も中途半端で、銃の狙いは甘いし、バラニーの鎖を放つスキルももろに喰らっていたりと、動きに精彩を欠いている。
うん、何が原因かは分からないが、大いに迷っているようだ。
『……。舐めているのですか! ゴールドバレット!』
「あ、キレた」
「怒ったね」
そんな不甲斐ないゴールドバレットに対してバラニーが吠える。
攻撃の手を止めて、決闘者なら自分の決闘中くらいはしゃんとしろだとか、あの件は無かったことにしたんだからそのように振る舞えだとか、見惚れるのもいい加減にしろだとか、言いたい放題だ。
それに対してゴールドバレットも覇気が無い感じに言い返しているわけだけど……。
ここで外から二人の様子を見た感想を言わせていただきたい。
「痴話喧嘩かな?」
「翠川でもそう思うよね。これは」
本心を言い表したくないツンデレ二人が、意中の相手に対してツンツンしつつデレているようにしか見えません。
なお、俺の言葉に賛同しているのは吉備津だけでなく、徳徒たちもである。
俺たちの方を見た上で、うんうんと頷いている。
『……。悪い、腑抜け過ぎてた。そうだな。俺は俺の為に強くならなくちゃいけねえんだ。決闘している間は決闘にだけ集中する。そんな当たり前のことを忘れてた』
『……。分かればいいんですよ~』
「おー……」
「吹っ切れたね」
と、ここでゴールドバレットが自分の左腕に銃口を押し当てて発砲。
その衝撃と痛みでもって何かが吹っ切れたらしい。
動きが目に見えて変わると共に、バラニーに対しても普通に攻撃を始める。
いや、それどころか、バラニーに接近して、格闘技とリボルバーによる銃撃を組み合わせたガン=カタのような攻撃を始めている。
対するバラニーは手にした杖とスキルの組み合わせで対処しようとしているが……手数が足りてないな。
「じゃあ、翠川。僕はこれで」
「ああ」
吉備津が俺から離れて、徳徒たちの方へと向かう。
ゴールドバレットとバラニーの決闘の決着も……もう直ぐだな。
『行くぞ! 『スプレッドショット』!』
『きゃあああぁぁぁっ~!?』
勝ったのはゴールドバレット。
最終的には至近距離でリボルバーからスキルを放って、戦闘不能に追い込んだようだ。
うん、終わってみれば、ゴールドバレットが圧倒したような形だったな。
「ん……」
「起きたかマリー。調子はどうだ?」
「調子は……スッキリはしましたネ。大丈夫そうでス」
「なら良かった」
そして、ちょうどよくマリーも目覚めたようだった。
では、休憩も切り上げるとしよう。