250:ゴールド一族のコイン
「事前知識も必要になる話なのデ、順に説明いたしましょウ」
そう言うとマリーはユニークスキル『蓄財』で作った金貨を一枚取り出して、俺に見せる。
金貨の絵柄は……片方はマリーゴールドの花、もう片方はキャンディケインと呼ばれているものによく似た形の杖だ。
「これがマリーの金貨でス。この絵柄は『蓄財』を使えるゴールド一族の中デ、マリーだけが使う事を許されていまス」
「なるほど。まあ、誰が作ったのか確認できるようにしておくのは必要な事だよな」
「ですネ。そうでないト、混ざった時などに非常に困った事になりまス」
金貨の絵柄が個人ごとに固有のものになっているのは、当然と言えば当然の事である。
マリーたちゴールド一族が『蓄財』で作った金貨は研究資料として買い取られ、利用されていた。
その研究の成果がどんなものであったのかは分からないけれど、研究に当たって製作者が不明では、間違いなく不都合が起きるのだから。
うーん、もしかしたら、部外者には分からないように製造年月日とかも記載されているかもな。
それくらいはしていそうな気もする。
「となると、ゴールドケイン家以外の金貨が流通しているってのは……別の絵柄の金貨が流通している事になるのか」
「そうなりまス。たダ、その流通している金貨の絵柄ハ、あの事件で亡くなった親戚の絵柄なのでス」
「それは……」
マリーの言う事件とは、十年ほど前に起きた、魔力暴走による事故の話だ。
確か、まだ魔力制御もおぼつかない子供にまで無理やり『蓄財』による金貨を作らせようとした結果、魔力が暴走し、大爆発を起こしたんだったか。
その事故で亡くなった親戚の金貨か……。
「外で保管されていた金貨を所有者が売りに出した、と言う話では済まないんだよな?」
「済まないですネ。量が不自然に多いのデ」
なるほど、これは確かに面倒な事になりそうな気配がしているな。
前の所有者が『蓄財』の研究を諦めて、少しでも損失を補填するために金貨を売りに出すと言うのなら、話は簡単に終わるし、マリーたちも問題視しなかっただろう。
だが、それにしては金貨の量が多すぎるし、金貨の絵柄も既に亡くなった人が使っていたものとなると……うん、どう考えても面倒事だな。
「シンプルに考えるなら偽造品か」
「ですネ。とは言エ、中身まで完全に真似した偽造品なラ、むしろ嬉しいくらいでス。ゴールドの一族以外で魔力を安定した物質に変換できた事になりますのデ」
「あるいは世界中に散ったゴールドの一族の誰かが自分の正体を隠すために敢えてその絵柄を使った?」
「それもあり得まス。ですガ、その流れも悪くはないでス。どうして絵柄を変えたのかは問うべきでしょうけド」
「最悪は……見た目だけ真似た粗悪品による詐欺か」
「ですネ。なのデ、裏の方では事実確認のために騒がしくなっているようでス」
「なるほどなぁ」
うーん、最悪のパターンだった場合、ゴールドケイン家への信用失墜を狙った攻撃とかも考える事になりそうだ。
なんにしても面倒事なのは確実だな。
ただこの状況から俺に出来る事が何かあるとするならば……。
「俺の役目は、決闘沙汰にまでなった時に、マリーの味方をする事。と言うところか?」
マリーの味方をする事を確約する事くらいだろうか。
「そうなりまス。とは言エ、今はまだ事実確認をしている状態なのデ、当分の間は動きなんて無いと思いますけどネ」
「まあ、犯罪性があるかも不明で、犯罪性があるなら、まずは警察や国が動く話だろうからな。でもそうだな。知っておけてよかった。何かあった時の対処がしやすくなる」
「ありがとうございまス。ナル」
まあ、俺たちが関わるかもまだ不明で、関わるにしてもまだ先の話か。
今は警戒しておくだけだな。
「そろそろ観覧車が終わるな。さて次は何処へ行く?」
「そうですネェ……」
ゴンドラが昇降口に到着する。
俺はマリーと手を繋いで、滞りなく降りると、次は何処へ向かうかを尋ねる。
「まだ行っていませんシ、ホラーハウスへ行きましょうカ」
そうしてマリーが指した先にあったのは夏季休暇中限定で特設されているらしいホラーハウスだった。
「ホラーハウスか……」
「おヤ? ナルはホラーが苦手な感じですカ?」
「いや全く問題ない。と言うより、ホラーが駄目だったら、『パンキッシュクリエイト』の時とか、どうしようもなくなってだろ」
「それもそうでしたネ。クリーチャーや殺人鬼モ、決闘者にとってはある意味で慣れ親しんだものですシ」
「人によっては自分がクリーチャーや殺人鬼をモチーフにした仮面体になるのが決闘者だからな」
まあ、俺はホラー耐性はあるので問題は無いな。
マリーも……『パンキッシュクリエイト』の仮面体が大丈夫で、サメ映画を見れるのだから、たぶん大丈夫だろう。
「ちなみにマリー。マリーは和風のしっとりと言うか湿度が高めのホラーは?」
「まったく問題ありませんネ。ナルはどうですカ?」
「俺も問題ないな」
うん、問題はなさそうだな。
と言うわけで、中から時折叫び声が聞こえてくるホラーハウスの前に俺たちは並ぶ。
そして、列はあっという間に捌かれていき……俺たちの番となった。
「じゃあ行くか」
「行きましょウ!」
そうして俺たちは、大型のペンション風の外見を持ったホラーハウスの中へと、手を繋いで二人で入った。
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