25:学園内のショッピングモール
「ナル君こっちこっちー」
「あ、ああ……」
三年生の決闘を見た翌日は土曜日という事で休みである。
しかし、休みであっても学園の生徒が学園の外にまで出かける事は滅多にない。
それは安全面を考えての事でもあるが……それ以上に、出る意味がないからだ。
「此処がショッピングモールイン決闘学園でース!」
そう、決闘学園内に存在しているショッピングモール。
ここでだいたいのものが揃ってしまうため、出る必要がないのである。
「広いしデカい……」
「地元のスーパーとは大違いだね」
「それは当然でしょう。此処は国と企業が提携したショッピングモールで、学生生活に必要なものが何時でも何でも揃えられるようになっている場所です。仮にここに無くても、大手ネット通販とも提携していますので、取り寄せも可能。手に入らないのは違法な品くらいとまで言われています」
「ちょっとした観覧車すらありますヨ! 凄いですネ!」
と言うわけで、本日の俺はスズ、イチ、マリーのいつもの三人と一緒にショッピングモールへとやってきた。
見える範囲でも、俺でも知っているカフェ、レストラン、スーパー、衣料品、ブランド品を扱っている店がある。
マリーの言う通り、遠くの方には、観覧車もあるようだ。
そして、スマホに入っている地図アプリで確認する限り、少し奥の方と言うか、進入に制限がある範囲にまで行けば、宝石店、芸術品としての刀剣類を扱う店、ガンショップと呼ばれるような店などもあるらしい。
「え、何でガンショップ……?」
日本には銃刀法と言うものがあって、一般人が許可なく銃を所持できるような社会ではない。
国立の学園内にあるのだから、違法な店舗ではないのだろうけど、何故銃の専門店があるのだろうか?
「銃使いは多いですかラ。彼らが自分の仮面体のディテールを上げるためニ、本物を参考にする事は良くある事でス。なので購入ではなク、お金を払って見学させてもらう感じですネ。短機関銃くらいまでならあるはずですヨ」
「恐らくですが、麻留田風紀委員長はこのお店の常連客だと思います。あの仮面体に仕込む以上、そのままではないでしょうが、魔力で再現するものはよく理解しているものの方が、様々な面で有用ですから」
「な、なるほど……」
「ナル君行ってみる? ナル君なら事前に許可を求めれば、通してもらえると思うけど」
「いや止めておく。銃にはそこまで興味は無いし、複雑な造形物は俺には荷が重いし……たぶん合わない」
と、疑問に思っていたところ、どうやら意味は大いにあるらしい。
理由や実例を出されれば、非常に納得がいくものだった。
「それよりもまず行くべきは工具店や防犯や警備関係の道具がある場所だ。行こう」
さて、此処で改めて、今日の目的について。
俺は昨日の決闘観覧で、今の俺の仮面体では周囲に見せられるような戦いが出来ない事を悟った。
それを解決する手段として有力なのは、何かしらの武器を持つことだと、俺自身は判断した。
実際、武器を持てば、麻留田さんのような全身金属の塊な仮面体が相手でもない限りは、最低限戦いになるだろうし、見ていて歯ごたえがあるものになる事だろう。
また、今日は学園に入学して最初の休みでもある。
と言うわけで、これまでの五日間の生活で足りないと感じたものを買うための日でもあり、今後の休日を過ごすメインの場所の下見も兼ねているのが、実情である。
「はーい」
「分かりました」
「付いていきますネ」
ちなみにだが。
スズたちとは示し合わせて一緒に居るわけではない。
俺は普通に朝一番に寮を出て、軽く他の場所を見て回ってから、ショッピングモールまでやってきたのだが……ショッピングモールに着いたら、スズたちが隣に居たのである。
本当に気配も何もなく、気が付いたら隣に居たので、軽くでも何でもなく、ただのホラーだった。
待ち伏せだとか潜伏だとか、そんなものでは言い表しきれない、純粋な恐怖であった。
とりあえず次からは勘弁してほしいと力説した。
さて、そんな事があった上にガンショップの存在に驚かされたりもしたが、それでも俺がスズたち三人と一緒にショッピングモールに入ると言う事実に変わりはなく。
また、スズたちの見た目が美少女と言うに相応しいものである事も確かである。
なので、俺と同じような考えでやってきたであろう周囲の新入生たちからの視線は……一部が非常に痛い。
うん、嫉妬だな。
なので無視しよう。
「それデ。ナルのお望みはどんな物でス?」
「長物? 短いもの? 素人は振り回せばそれで済むものがオススメ」
「あー、二人は慣れているんだな。こう言うの」
「そうだね。マリーとイチはこう言うのに慣れているから、頼ってあげていいと思うよ。ナル君」
俺たちはショッピングモールに入ると、とりあえず防犯グッズの類が置かれている場所に入る。
置かれている防犯グッズは大きく分けて二種類。
一つは催涙スプレーやアラームのような一般的なもので、購入可能な代物。
もう一つは警棒や刺又と言った少々専門的なもので、マスカレイドの資料にするべくレンタルするものだ。
なおどちらも決闘にそのまま持ち込むことも可能ではあるが、よほどの特効性を持たない限り、仮面体にはどちらも通用しない。
詳しくはまた授業でやる事になるようだが、マスカレイドを発動している人間には、マスカレイドを発動していない人間の攻撃……より正確には魔力を含まない攻撃はほぼ通じないそうだ。
なんでも、一般人のマスカレイドですら、核爆発とやらの直撃を受けても問題ないらしい。
なので、ここが学園内という事もあって、専門的なものはそのまま使うのではなく、構造などを理解して仮面体で再現するための資料として用いられるらしい。
「長いか短いかで言えば、長いものがいいんだろうな。ただ、扱えないほど長いのは困るし……この辺か?」
俺は適当な刺又を手に取ってみる。
「……。なんか違うな」
そして戻す。
うん、直感的なものだが、俺は違うと感じた。
「違うんだ。なら変えた方がいいね」
「インスピレーションは大事ですヨ」
「そうですね。思い入れなどによる相性がありますから」
「そうなのか」
どうやら、この感覚は大切にした方がいいものであるらしい。
「となると……まずは目に付くものがないか歩き回った方がいいか?」
「じゃあ一緒に見て回ろうか。ナル君」
「デートですネ。ふふふふフ」
「ではご一緒させていただきます」
そうして俺たちがショッピングモールの中を歩き回ること暫く。
「あ、これだな。これがいい」
「ナル君それは……」
「これはまた大物ですネ」
「使い方によっては武器かもしれませんね」
俺の目に留まったのは、上下の高さが160センチメートル程度で、左右は俺の肩幅程度かつ歪曲している、強化プラスチック製の大きな盾。
縁と持ち手がある部分には黒いプラスチックによる強化が行われ、下半分は塗料で見えないようになっているが、上半分は透明であり、向こう側が透けて見えている。
近いものだと……警察が持っている防護盾、ライオットシールドだろうか。
あるいは中世の騎士が持つようなタワーシールドでもいいかもしれない。
一般的には武器扱いされない物であるし、武器らしい鋭利な部分も硬い部分も碌に無いのだが、どうしてか俺の目にはこれが留まって離れなかった。
持ってみても、異常なほどにしっくりする感じがある。
これこそが俺の待ち望んでいたもので間違いはないだろう。
うん、気に行った。
「店員さん、これでお願いします」
「かしこまりました。ではこちらにサインを」
そして俺は特殊プラスチック製の大型盾をレンタルしたのだった。