245:サークル巡り
「どーもこんにちは! 『ナルキッソスクラブ』です!」
「失礼いたします」
さて、『パンキッシュクリエイト』の部室を後にした俺とイチは、そのまま他のサークルの部屋へと向かう。
と言うわけで、まずはお隣の軽音楽部にお邪魔をして……。
「ミューズが降りて来た! うおおおおっ!!」
「えーっと?」
「今のナルキッソスの姿を見たおかげで、インスピレーションが湧いてきたようです。お気になさらず」
「そうですか。そう言う事もありますよね。今のナルさんなら」
部長と思しき生徒がいきなり何かを叫び、紙に何かを書き込み始め、代わりに副部長と思しき生徒と挨拶を交わすことになった。
えーと、ミューズと言うと、ギリシャ神話の芸術に関わる女神だったか。
なるほど、分からなくはない。
俺の美しさが人間離れしている事についてはただの事実だからな。
そんな事を思いつつ、さらに次のサークルへ向かい、顔合わせをしていく。
その顔合わせの様子を一部抜粋するとだ。
「ナルキッソス、どうしてマスカレイドをしているんすか」
「この衣装を取り込むためだな」
「『パンキッシュクリエイト』製の衣装か。流石の出来の良さだね」
「着ていても違和感とか、引っ掛かりがまるでないんだよな。凄いと思わないか?」
例えば曲家と諏訪が居る工作サークル。
その分派であるテラリウム専門サークルでは、曲家からツッコミを受けたり、諏訪が衣装の丁寧さに感心したりしつつも、普通に挨拶が出来た。
うん、本当に普通だった。
「写真を撮らせてください!」
「これは……これは何という物を……!?」
「くっ、流石はナルキッソスと『パンキッシュクリエイト』!」
例えば撮影サークルでは、写真を何枚も撮られたが、終始歓迎されていた。
例えば服飾サークルでは、俺自身よりも服の方へと明らかに関心が寄っていた。
この辺も、そのサークルの方向性を考えれば、普通の反応の範囲と言えるだろう。
「ナルキッソス! 実験を! 実験をさせてくれ!!」
「あ、今日は顔合わせだけです。要望があるなら、また後日お願いしますね」
「此処は次回以降、先生方か風紀委員会の同席が必須ですね」
少々怖い感じがしたのは『スキル開発部』だった。
彼らは……なんか目に嫌な感じにギラギラとした光を宿しながら迫って来たので、挨拶だけしたら、イチに警戒をしてもらいつつ、直ぐに撤退した。
まあ、若良瀬島で遭遇したサークル所属の生徒っぽい人も、味方を巻き込むように改造された『フルバースト』を使っていたもんなぁ。
そう言うちょっと危ない人が、サークル『スキル開発部』には多いのかもしれない。
「コケッコー! 一曲歌っていけ! ナルキッソス!」
「ようし! 歌っていくぞ!」
「ん? 男性パートと女性パートのどっちを……」
「声の高さからして女性パートかと」
遠坂と徳徒が居るカラオケサークルでは普通に挨拶をした後、一曲歌った。
当たり前の事だが、この姿だと女性歌手の歌の方が歌いやすいように感じたな。
「ナ、ナル様!? どうしてこちらに!?」
「ただの顔合わせだな」
「そ、そうですか。その恰好は……とてもお似合いですが……」
「こっちは『ドレッサールーム』のためだな。巴の弓道着もよく似合ってる」
「あ、ありがとうございます」
巴の居る弓道サークルにも行った。
弓道の為の衣装を身に付けている巴は、とてもよく似合っていたので、素直に褒めさせてもらった。
歓迎もされていたと思う。
「マジでナルキッソスのままうろついているのか、お前……」
「『ドレッサールーム』への取り込みは移動しながらでも出来るからな」
「そうか。此処についてはあまりうろつくなよ。多くはないが、部外者に触らせたくないものも多い」
「分かってる。だから入り口から先に行く気はない」
歓迎されていなかったのは、縁紅が居る射撃サークルか。
とは言え、これについては当然だろうな。
射撃サークルには仮面体で作る銃器の参考にするために、本物の銃や銃弾が置かれているらしい。
それが万が一にも部外者の手に触れたりしないようにするためにも、相応の警戒はして当然。
むしろ、していなかったら問題なくらいだ。
それよりもだ。
「ところでだ。もしかしなくても、俺がこの姿で学園内にあるサークルを回っているとか、そんな感じの話が出回っている感じか?」
「その通りだ。と言うか、そんだけ目立つ姿をしていて、写真や動画も撮られているんだ。出回って当然だろ」
「そりゃあそうか」
今の俺の姿については、既に色々なところに話が行っているらしい。
段々と訪れたサークルの反応が淡白になっているように感じたのは、先に話が行っていたからなんだろうな、なるほど。
とまあ、そんな情報を得たところで、俺たちは次のサークルへ向かうべく、射撃サークルを後にする。
「ナルさん。一つお聞きしていいですか?」
「なんだ?」
その道中でイチが話しかけてくる。
「既にナルさんは三時間以上マスカレイドを維持している訳ですが、喉の渇きなどは大丈夫なのでしょうか?」
「ああその事か。理論上は問題はないみたいだな。マスカレイドを維持できている限りは、飢えと渇きも問題はないそうだ。とは言え、あくまでも理論上で、しかもこんな事出来るのは俺くらいだから、誰かが確かめたわけでもない。よって、念のためにマスカレイドを解除する際には近くに飲み物を用意したり、トイレの近くで解除するようにとは、樽井先生から言われているな」
「なるほどそうでしたか」
言われてみれば確かに、既にそれくらいの時間はマスカレイドし続けている。
が、理論上は問題ないらしい。
マスカレイド解除時には、発動時と同じくらいの体調で元の体になるようだ。
ちなみに、イチはきちんと水分を摂取している横で、俺も普通に水は飲んでいるが……こうしてマスカレイド発動中に摂取した水分や栄養が何処に行くかは、現在の解析では分からないらしい。
仮面体のまま、食事や水分補給をするのが俺ぐらいしか居ないので、仕方が無いことであるが。
「一回解除しておくか」
「そうですね。次の美術サークルの前に一度確かめておきましょう」
なお、結果から言えば、理論通りだった。
これはこれで、何かに利用できそうな仕様である。
そして俺は再びマスカレイドを発動してから、美術サークルの部屋へと向かった。




