244:製作『パンキッシュクリエイト』の衣装
「改めてお邪魔します。安藤先輩」
「おう。ゆっくりしていけ」
『パンキッシュクリエイト』の部室はかつての栄華の名残なのか、活動内容の都合なのか、六人と言うメンバー数の割には広めの部屋を貰っている。
そう、六人である。
「さて、まずは俺たち『パンキッシュクリエイト』に新たに加わったメンバーの紹介だな。翠川たちと同じ一年だし、顔見知りかもしれないが、まあ一応な」
『パンキッシュクリエイト』は夏季休暇に入る前に行われた俺たちとの決闘で名前と存在が知られた結果、新しいメンバーが二人加入していた。
その二人が加入したおかげで、少なくとも今年度いっぱいで『パンキッシュクリエイト』が無くなる事は防げたからだろう、部長である安藤先輩は嬉しそうにしている。
それで肝心の新しいメンバーだが……。
「僕は初めてですね。翠川さんの事を一方的に知っている形です。そんなわけで改めまして。初めまして、僕は申酉寮一年の汐見です。これからよろしくお願いします。翠川さん、天石さん」
「こちらこそ初めまして。そしてよろしくお願いしますだ。汐見……さん?」
「呼び捨てでいいですよ。同学年で性別も一緒ですし」
「分かった。じゃあ呼び捨てで」
片方は見た目だけなら可愛らしい美少女と言っていい男子生徒。
下の名前は名乗らなかったので分からないが、苗字は汐見と言うらしい。
本人は男性として扱って欲しいのだろうけど……勘違いする奴も居そうなくらいには女子の顔をしているな。
ちなみに後でイチに確認したところ、生物学上、間違いなく男性であるとの事。
「私は寮内でちょくちょく顔を会わせているわね。でも改めて名乗らせてもらうわ。私は戌亥寮一年の風鈴照華。今後どれぐらい付き合いがあるかは分からないけど、よろしくね」
「そうだな。その王冠には見覚えがある」
「ですね。これからよろしくお願いします」
もう片方は頭にトゲトゲドクロの王冠を被った女子生徒。
王冠が非常に目立つおかげで、俺も戌亥寮の中で何度か見覚えのある生徒だ。
なお、この王冠くらいはファッションの範疇として認められているのが、決闘学園の校則である。
安藤先輩のトゲトゲ頭、遠坂のトサカのように、魔力影響で独特な髪型になっている生徒も居るので、この程度はと言うわけである。
「よし、新入りとの顔合わせも終わったところで本題だな」
「ああ。それの事だよな?」
「勿論だとも」
俺と安藤先輩の視線がマネキンの方へと向けられる。
マネキンが身に付けているのは、革で出来たジャケット、丈夫なデニム生地で作られたジーンズ、ネックレスや腕輪と言ったシルバーチェーンのアクセサリー。
ジャケットの背中には『パンキッシュクリエイト』のロゴが堂々と刻まれているし、ジャケットやジーンズには金属パーツもそれなりに多い。
うん、『パンキッシュクリエイト』制作の衣装一式だな。
「頼むぞ。翠川」
「ああ。マスカレイド発動。魅せろ、ナルキッソス」
そしてこれは俺の為に作られたものではあるが、俺は俺でも、こっちの俺の為に作られたものでは無い。
と言うわけで、俺は『シルクラウド・クラウン』を着用して、マスカレイドを発動。
白ビキニ姿のナルキッソスになった。
で、マネキンから衣装を外し、白ビキニの上から身に着けていく。
「流石は『パンキッシュクリエイト』。とても着心地がいいな」
「おう。俺たちとしても会心の力作だ。いやしかし、よく似合っているな……こう、アメリカンな感じで」
「そうですね。アメリカンな感じです。俺の手持ちの衣装にテンガロンハットは無いですけど。被ったらよく合うでしょうね」
「だろうな。試しに被るか。うん、よく合ってるな」
お着替え完了、早速鏡を見てみる。
えーと、ジャケットの前は閉められないので開けたままなのだが、開かれたジャケットの間から見える白ビキニと胸の谷間が実に扇情的だ。
また、ジーンズも腰ギリギリなので、白ビキニの下部分がチラ見えしている。
シルバーアクセサリーたちもアクセントとして、良い感じに働いている。
自前のブーツも合わせて、実に美しく、カッコイイ。
「うん、美しくてかっこいい。そして、周囲の者を魅了してやまない感じだな」
「同感だ。くっくっく、人によっては目を離せなくなるかもな」
「おー……痛っぁ!? 天草!?」
「うーん、流石はナルキッソス」
「写真、僕の方で撮らせてもらいますね」
「うーん、こんな衣装を私も早く作れるようになりたい」
うん、素晴らしいな。
と言うわけで、俺は衣装に魔力を通して『ドレッサールーム』に取り込む準備をしつつ、鏡の前でポージングをし、その光景を汐見に撮ってもらう。
なお、帽子については、俺の顔が隠れてしまうので、取り込み対象外である。
「さて天石」
「分かっています、道嵐先輩。今回の衣装ともう一着の衣装をナルさんに着ていただき、スキル『ドレスパワー』の比較検証をする。でしたね」
「その通り。片方は私たち『パンキッシュクリエイト』の力作、もう片方はほぼ同じ作りの市販品。これで差が出るのなら……色々と面白いことになるだろうな」
「そうですね。プラスの方向に出るのならなおの事だと思います」
なお、俺がポージングをしている間、イチと道嵐先輩は色々と細かいやり取りをしているようだった。
今回の『パンキッシュクリエイト』が制作した衣装を俺に与える件は、決して無償の施しではないし、色々とやる事もあると聞いているので、その件について改めて確認し合っているのだろう。
「では安藤先輩」
「ああ。結果が出たら教えてくれ」
「勿論です」
と言うわけで、俺たちは新しい衣装を手に入れると、『パンキッシュクリエイト』の部室を後にした。
なお、『ドレッサールーム』への取り込みを急ぐために、俺はマスカレイドを発動したまま、今日はこのまま過ごす予定である。