24:決闘を見終えての感想
本日は二話更新となっております。
こちらは二話目です。
「「「ーーーーー~~~~~!!」」」
「っ!?」
「凄い歓声」
「Fooooo!! あ、乗らない感じでス?」
「別に乗っても問題はないと思う」
大ホールが歓声で沸き上がり、その声が響き渡る。
突然の事だったので、ちょっと耳が痛いし、驚いた。
「……」
「ナル君、どうしたの?」
興奮が止まない中、マスカレイドを解除した麻留田さんと生徒会長は舞台上で握手を交わし、観客たちに礼をしてから、分かれて、舞台の外へと降りていく。
その姿は堂々としたものだった。
だが、麻留田さんの強く握りしめられた拳を見れば、負けたことについてどう思っているのかは明らかだろう。
しかし、敗者であっても、客の目が届かない部分までは気丈に振る舞うというのが、決闘者としてあるべき姿なのだろう、たぶん。
「……」
「ナルくーん? あ、これ、聞いてない奴だ。二人とも邪魔しないであげて」
「分かりました」
「分かりましタ」
俺は観客席に居る他の甲判定者の一年生へと目を向けてみる。
虎卯寮にいる四人……護国さん、短髪、スケバン、ゆるふわの女子四人は、真剣な表情で麻留田さんの姿を見ている。
そして、ゆるふわが何か大きめのスマホ端末を出して、何かを確認し合っているように見える。
きっと、今の決闘を振り返って、自分ならどうするかを真剣に検討しあっているのだろう。
申酉寮に居る三人……徳徒たちは素直な歓声を生徒会長へと向けていて、喜んでいるようだった。
スズ曰く生徒会長は申酉寮の所属だそうなので、そう言う縁もあっての事だろう。
単純に何も考えていないだけかもしれないが。
残る子牛寮の二人は……対照的だ。
桃色髪の方は周囲の同級生や先輩と真剣に何かを話し合っているように見える。
縁紅は……嫌なものが見えた、蔑みの顔だ。
ああ言う顔をした、勉強だけ、あるいは運動だけ出来る奴は、中学生の時代に何度か見たことがある。
しかし、その表情は直ぐに消して、何処かへ視線を向けつつ、何かを検討し始めている様子だ。
いずれにせよだ。
誰も彼も、目の前で行われた激しい決闘から何かを掴み取ろうと必死になっているわけか。
俺は……俺としてはだ……。
「はぁ……」
「ナル君の考えがまとまったみたいだね。それで?」
「他人から注目されるの面倒くさい。デビュー戦ではこれ以上の人間の視線が集まるのは確定しているんだろう? そこで見せるに値する戦いを俺が出来るかどうか、それを考えると、胃が痛くなってくる」
正直に言ってプレッシャーである。
今回の決闘は身内しか見ていない状況で行われたもの。
なのにこれほどの賑わいになるのだから、逆にだらしない決闘を見せたらどうなる事やら。
それを考えただけでも、胃が多少だが痛くなってくる。
「ナル君。自分で自分の体を見るのは好きだけど、見せつけるのは後の反応が面倒って理由でそこまで好きじゃないもんね」
「ああ。理由が嫉妬なのか、義憤なのか、常識なのか……なんにせよ、面倒くさい事には変わりない」
「ア、見せつける事自体は嫌いじゃないんですネ」
「まあ、面倒な事を言ってくる人は出て来ますよね」
マスカレイドを使っている間は、その辺のストッパーがどこかに行っているから、何とも思わないんだけどな。
こうして正気でいる状態で見せた後の事を考えると、面倒だと言う思いはどうしても出てくる。
「それでは次の決闘を行う!」
さて、どうしたものだろうなぁ……。
俺の立場上、逃げる事は叶わないし、そもそもとして逃げる気もない。
俺の仮面体の見栄えについては自画自賛になるが、何も問題はない。
しかし、戦い方については……今の俺だと素手で殴るか、素足で蹴るかの二択だからなぁ。
これが人様にお見せできるかと言われれば、非常に怪しいと思う。
はっきり言って、見栄えが悪い。
「ナル君。戦い方の見栄えとかで悩んでいる感じ?」
「そうなるな」
さて、俺の眼下では次の決闘が始まっている。
二刀流の剣士と一刀流の剣士が切り結んでいるのだが、その動きと刃の閃きは、見ていてとても派手で、見栄えがある。
また、時には刃が伸びたり、炎を纏ったりもしていて、その度に周囲は沸き立っている。
うーん、こう言う事が出来れば、俺の見た目なら映えは十分だろうか。
武器については服と同じ要領で出す事が出来るとして……。
「今更なんだが、あの剣が伸びたり燃えたりしているのは、どういう仕掛けなんだ?」
「あれは……スキルだね」
「スキル?」
どうやら、マスカレイドでの戦闘には、何か俺が知らない技術があるらしい。
「詳しい事はデビュー戦の前の授業でやると思うけれど……」
「ざっとでいいから頼む」
「じゃあ話すね」
と言うわけでスズに聞いたところ。
元々、マスカレイドはデバイスを利用して、魔力を変換し、仮面体を形成する技術である。
その技術の応用系がスキルであり、魔力を大量に消費する事と引き換えに、仮面体を一時的に変形したり、魔力を別のものに変えた上で射出したりと言った、そのままの仮面体では出来ない事をする技術であるらしい。
先ほどの麻留田さんと生徒会長の決闘でも、色々とスキルは使われていたようだ。
「ただ、ナル君がスキルに頼るのは厳しいかも」
「あー、魔力性質が特殊だからか?」
「うん。たぶんだけど、ナル君がスキルを使おうとしたら、新規のを開発する必要があるんじゃないかな。そこが大丈夫でも、既存のスキルって見た目が変化するものが多いんだよね。でもナル君がナルちゃんの外見が崩れるのを許容できると思えないし、そうなると……使えないよね?」
「それはまあ、そうだな。確かに見た目が変わるのは許容しないだろうな。俺だし」
が、そんなスキルは俺の悩みを解決してくれるようなものでは無いらしい。
確かに俺は自分の見た目が崩れるのを許容できないだろうな、うん。
「ちなみにですガ。デバイスに登録せズ、本人の技術だけで行うスキルをユニークスキルと言いまス。麻留田風紀委員長ガ、お披露目会でナルを捕まえる時ニ、仮面体を展開せずに檻を出していたのハ、ユニークスキルの類でしょうネ」
「へー」
「それを言うなら、ナルさんの魔力性質も何かに利用できるようになったら、ユニークスキルの扱いになる事を言った方がいいと思うけど?」
「あ、そうなんだ。ん?」
あれ? 俺はイチに魔力性質の事を話したっけ?
スズが話を流したのか?
まあいいか、大したことじゃないしな。
「とりあえず武器の方向性で考えるか。ライダースーツの方は頑張れば、後一週間ぐらいで使い物になりそうだし、武器の一本でも持てば、最低限の見栄えはするだろ」
「頑張ってね、ナル君。私も協力できることは協力するから」
「頼む。今日の決闘でも俺に知識が足りないのはよく分かったしな」
教師たちの望む方向性であったのかは分からないが、今日のマスカレイドの授業は得るものが多いものだった。
一先ずの俺が目指すべきはデビュー戦とやら。
そこまでに、最低限見せられるものにしていこう。
麻留田さんのような戦いは無理でも、同じように観客を喜ばせる事が出来る戦いが出来るのなら……きっと、俺はもっと美しく輝けるだろうから。
ちなみにですが。
ゆるふわこと羊歌萌は子牛寮なのですが、他の面々との仲の良さの都合から、虎卯寮の席で観戦していました。