238:決闘を終えて
「ふぅ。無事に勝てて何よりだ」
「そうですね。勝つことが出来ました」
曲家たちとの決闘後、俺と護国さんは控室へと戻り、それからさらに大ホール内の休憩所へと移動した。
そこで適当な飲み物を飲みつつ一息ついて、さてこれからどうするかと言うところなのだが……。
「さて、普段通りなら反省会とかするべきだと思うんだけど、護国さんどうしようか?」
「そうですね。私も反省会でいいと思います」
うん、護国さんの了承も得られたので、反省会と行こう。
「反省点は……まあ、やっぱり連携不足。それから、俺個人に限るのなら、突破能力や支援能力の欠如かなぁ。ほぼコモスドールに抑えられていたし」
「そうですね。私もその点についてはほぼ同意するほかないです。コモスドールの動きが巧みであったこともありますが、戦略面においてはほぼ負けで、個人の能力の高さで無理やり押し切った決闘だったと言うのが妥当な評価になると思います」
まあ、反省点は分かり易いな。
俺個人に限っても、コモスドールにほぼ抑え込まれてしまったのは、明確な反省点だ。
もっと早くに行動不能にさせる事が出来ていれば、そうでなくとも、あの位置からトモエへと支援を飛ばすことが出来ていたら、もっと簡単に勝てていた事だろう。
「私個人にしても……もっと技量や一撃に込められる魔力の量を増やせるようにする必要がありますね。ボーダーライフが槍の扱いを学んだのなら、きっと魔力量甲判定相手でも戦える貴重な乙判定として、また私たちの前に現れるでしょうから。その時までに、あの力への対策を考えないと……」
「それは俺も必要そうだな。そこがまだ見えていない以上、最大限まで強化された場合には、俺だってどうなるか分からないし」
「そうですね」
ボーダーライフについては今後要注意だな。
俺の一撃を受けて、仮面体の機能を発動させたボーダーライフが放つ魔力は、夏季合宿の時のツインミーティアたちと比べても多少見劣りする程度だった。
となれば、あの力を使いこなせるようになったのなら、俺だって危ないことは間違いないだろう。
「うーん、デバイスは待つしか無くて、体術は習っている途中で、スキルは『ドレスパワー』の検証がなぁ……」
むしろ問題は反省点が見つかっても改善する方法が分からない方かもなぁ。
特に距離がある相手への支援や火力不足の件を改善する手段はなぁ……『ドレスパワー』の中にそう言うのがあればいいけれど、それだけに頼るのもなぁ……。
「翠川様。翠川様のスキルは燃詩先輩が作っているのですか?」
「そうだけど、そうじゃないって感じだな。切っ掛けはスズだったし。俺はリクエストを送っただけで、それを見た燃詩先輩が自主的に作ってくれて、出来上がったのを『ライブラリ』に上げてくれたから。個人的な縁があるわけじゃない」
「なるほど。そうなると翠川様は何処かでスキル開発者の方と個人的な縁を得る必要があるかもしれませんね。『ライブラリ』に上げられたスキルは誰でも利用可能ですから」
「ああなるほど。本当の意味でのとっておきを得るためには、と言う事か」
「はいそうです」
そうして悩んでいると、護国さんから話があった。
その内容は……うん、確かに考えた方がいいものだな、これは。
問題は俺にスキル開発者との縁がまるで無いことと、どうやって繋げばいいかも分からない点だな。
俺の立場としては、望みさえすれば繋げそうな気もするけど……優秀なスキル開発者かどうかはまた別だしなぁ……。
後でスズに相談するのも一つの手かもしれないな。
「連携に関しては、今後も今日みたいに一緒に活動する日を設ける。と言うのが一番かな」
「……! そ、そうですね。今後も今日のように、一緒に決闘へと臨めたら、それがいいと思います。決闘の前の打ち合わせや実践だけでは、色々と足りないでしょうし」
「そうだな。問題は何時会うかだけど……まあ、それについてはまた今度、早朝ランニングの時にでも、走りながら話し合えば大丈夫かな」
「はい! その時はお願いします!」
俺の提案に護国さんが何故かどもっているが……まあ、指摘はしないでおこう。
今日無理に決めるのも無しだ。
「さて、時間的にもちょうど良さそうだから、お昼ご飯に向かおうか。何か希望とかはある?」
「そ、その、翠川様と一緒ならば、何処でも……」
「じゃあ、ショッピングモールの方へと向かって、適当にカフェとか入ろうか。もちろん、奢るよ」
「はいっ! ありがとうございます!」
時間的にちょうどいいと言う事で、俺と護国さんは手を繋いでショッピングモールの方へと向かう。
多少足早に。
……。
実を言えば、角度的に護国さんから見えてはいないのだが、俺たちが反省会をしている最中、偶々通りがかったらしい曲家にボーダーライフの中身、それと徳徒と遠坂の四人がこっちの事を見ていた。
その際の曲家の表情は……正に嫉妬とか憤怒とか、そんな感じのものだった。
まあ、それで感情に任せて突っ込んでこない辺り、表情だけのフリなのもまた明らかなわけだけど。
徳徒たちは完全にニヤついていたしな。
「その、翠川様。折角のデートだと言うのに、一緒に決闘をしていただきありがとうございます。けれどその、今更な話になってしまうのですけれど……」
「楽しかったし、学びも多かったから大丈夫だよ、護国さん。それに護国さんは決闘が好きなんだろう? それが分かったから大丈夫」
「はい……」
護国さんは恥ずかしがっている。
今の護国さんの内に渦巻いている感情は……色々とあるのだろう。
ただ、別に恥ずかしがることではないと思う。
言ってしまえば、スポーツ好きの女子がデートに際して、そのスポーツに彼氏を誘ったようなものだからな。
それにだ。
「今の俺と護国さんは婚約者同士だ。となれば、何処かで今日みたいに二人で決闘する日も来るかもしれない。だったら、今日の決闘はやっぱり必要な事だったと、俺は思うよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
今後を考えたら、良い機会だったこともまた確かだ。
だから、何も問題はない。
それを伝えつつ、俺はショッピングモール内にある落ち着いた雰囲気のカフェへと入った。