237:ナルキッソスとトモエ VSコモスドールとボーダーライフ -後編
「ふっふー! ふふふふふー! 知っているっすよぉ! ナルキッソスの弱点その二! 遠距離干渉手段の欠如! こうしてウチがナルキッソスを制している限り、ナルキッソスはトモエの援護を出来ないっす! ついでに言えば物理的拘束が有効と言う事は、ウチが今やっているような衝撃による牽制も物理現象に重きを置いている攻撃って事で有効っす!!」
トモエとボーダーライフがぶつかり合っている中、コモスドールは変わらずナルへと衝撃力を増した攻撃を叩き込み続け、ナルの動きを制し続ける。
「こんにゃ……そこっ!」
「っ!?」
その状況を打破するべく、ナルはこれまでのコモスドールの動きから相手の癖を学び、突き出された槍の穂先を的確に掴む。
勿論、本来このような事をすれば、コモスドールの使ったスキル『エンチャントインパクト』の効果をもろに受け、手は弾かれるはず……なのだが、学園制服にスキル『ドレスパワー』によって『エンチャントインパクト』の効果範囲と時間を素早く学習し、効果が可能な限り発揮されないタイミングを狙ってナルは手を伸ばしていた。
そして、その上でなお放たれた衝撃は魔力量に物を言わせて、無理やり押し切り、掴んだのだ。
「くのっ……けれど、こうして睨み合いの状態になるのはウチにとっても好都合っす! ボーダーライフならトモエに勝ってくれるはずっすからね!」
「足止め要員の鑑みたいな台詞だな。でもな、トモエは火力が追い付けば勝てるような相手じゃないんだよ。その証拠を見せてやる」
コモスドールとナルは盾を押し付け合い、槍を掴み合い、お互いに相手の顔を見ながら力比べをしている。
二人の違いはその立ち位置で、ナルの視点からはトモエたちの戦いが見えて、コモスドールからはボーダーライフの戦いは見えなかった。
だからこそ、ナルが力の込め具合を少しだけずらして、彼我の立ち位置を回転させ始めた瞬間に見えたものは、コモスドールの精神に衝撃を与えた。
「技で応じるまで! はっ!」
「んなっ!?」
それはトモエの振るった薙刀によってボーダーライフの槍が絡め取られ、その手から弾き飛ばされる光景。
攻撃力ではトモエ以上となっていたはずのボーダーライフの槍を、単純な技術によって制すると言う、ただの魔力量甲判定ではなく、生まれてから今に至るまで決闘者としての栄達を得るべく武を磨き続けた護国巴だからこそ出来た一撃だった。
「此処だな」
「っす!?」
その衝撃的な光景からコモスドールは目を離せなかった。
だが、コモスドールはナルのスキル『P・敵視固定』の範囲内に居る。
だから、コモスドールはナルの『P・敵視固定』に逆らうように首に力を込めようとしてしまった。
それは、敢えて視線の固定効果に逆らわない事で柔軟な対応をしてきたこれまでとは真逆の行為であり、コモスドールの動きは一瞬ではあるものの、完全に硬直する。
ナルはその隙を見逃さなかった。
ナルはぶつけ合っていた盾を消し、槍を手放すと、素早くコモスドールの斜め後ろに飛び込み、そこから背中側を通過する。
コモスドールの顔はナルのその動きを無理やりに追い続け、首から下はその追いかける動きに追いつこうと無理な姿勢を通り越して宙を舞う。
「おう……らっ!」
「っすぅーーーーー!?」
そこへ素早く盾を出したナルのシールドチャージが叩き込まれて、顔面に攻撃を受けたコモスドールは吹っ飛ばされる。
そして、フリーになったナルが飛び込むよう跳躍してまで向かった先はボーダーライフの背後。
「槍が無いなら拳で……っ!?」
「ありがとうございます。ナル様」
ナルがボーダーライフの背後に回った瞬間。
それは槍を弾かれたボーダーライフが、それでもと拳を握り締めてトモエに向かって一歩踏み込んだ瞬間だった。
ナルのスキル『P・敵視固定』の射程内に入ってしまったボーダーライフの顔が強制的にナルの顔がある方へと向かされていく。
「やべっ……!?」
「『エンチャントフレイム』『バーティカルダウン』」
そのような状態でトモエの攻撃……それもスキルを二つ重ねた最大級の一撃を防ぐこと、避ける事が果たして可能だろうか?
断じて否である。
「はっ!」
「!?」
トモエの一撃によってボーダーライフの体が一刀両断され、致命傷を受けたことで仮面体を維持できなくなったボーダーライフはマスカレイドを解除されて、舞台の外へと転移させられた。
「なるほど。防御力も確かに強化はされていますね。見た目から予想したものよりは堅かったです」
「ちなみに俺と比べたら?」
「デビュー戦の時のナルキッソスでも、ナルキッソスの方が数段堅かったですね。攻撃力の強化に比べればおまけ程度の範疇だと思います」
「なるほど」
ボーダーライフを倒したトモエとナルは体勢を整えると、互いの距離を保ちつつ、コモスドールへと近づいていく。
「すぅ……悔しいけど降伏っす。ウチらの負けっすね」
「そうか? やってみないと分からないぞ?」
「トモエ相手はワンチャンあるかもっすけど、ナルキッソス相手がノーチャンなんすよ。火力不足で。と言うか、二人同時の時点でもうどうにもならないっす」
「そうか。残念だ」
「賢明な判断ではありますね」
が、ナルたちが十分に距離を詰める前にコモスドールは降伏する事を選択。
決闘の勝敗は決まった。
『決着! 勝者はナルキッソスとトモエです!』
「「「ーーーーー~~~~~!!」」」
そうしてナルとトモエは観客の歓声を浴びながら、お互いの武器を掲げた。
一度だけナル様呼びしているのはワザとです。