235:ナルキッソスとトモエ VSコモスドールとボーダーライフ -前編
『それでは次の決闘に参りましょう!』
「「「ーーーーー~~~~~!!」」」
司会の生徒の声と共に大ホールが歓声で包まれる。
誰が出て来るかは分からないけれど、とりあえず盛り上げておけの精神だ。
『まずは東より……コモスドールとボーダーライフ!』
「どーも、どーもっすー!」
「さーて、誰が相手だろうな。テンションが上がる奴だと良いんだが」
同じ入り口から二人の決闘者が姿を現し、舞台の上へと移動する。
コモスドールこと曲谷の頭には兜のようなデバイスが、ボーダーライフこと堺藪道の顔には頭蓋骨を模した形の木製デバイスが既に着けられており、準備万端の状態で対戦相手を待つ。
『続けて西より……ナルキッソスとトモエ!』
「「「ーーーーー~~~~~!?」」」
「んなっ!?」
「おー……」
そして、司会が告げた言葉を聞いた瞬間に、この場に居るほぼ全員……曲家と堺以外のほぼ全ての人間が動揺し、歓喜し、本気の歓声を上げる。
だがそれも当然の事だろう。
この大ホールで行われる決闘は、好きにペアを組んで、時間を指定し、ランダムで当たった相手と戦う事になるシステムが組まれている。
これは二対二であっても変わりはなく、それ故に誰が出て来るかは直前まで分からない。
そんな中で、事実上、一年生の2トップであるナルキッソスとトモエがペアを組んで現れたのだ。
これで騒ぐなと言う方が無理だろう。
「ちょ、ちょ、ちょっと待つっすよ!? なんすかその組み合わせは!? 絶対に組み合わせちゃいけないところが組んでやって来ているじゃないっすか!? 懲罰マッチっすか!? 懲罰マッチなんすか!? ウチはそんな事をされる覚えはないんすけどぉ!?」
「ははっ、いいじゃないか。夏季合宿では邪魔されて戦えなかったからな。今度は邪魔が入らずだ」
「何をのんきに言っているんすかぁ!?」
堪ったものでは無いのはこれから戦う事になる曲家である。
曲家と堺は今日偶々知り合って、お互いの能力を開示して、相性がそれなりに良さそうだからとペアを組んで試しに登録しただけの急造かつ何となくのペアである。
それで一年生の2トップかつ婚約者同士で組んだペアと戦わされるのだから、悲鳴上げるのも止むを得ない事でもあった。
堺が慌てていないのは、自分の能力が上手く嵌まった場合に自信があるからに過ぎない。
「相手はコモスドールとボーダーライフか。相手にとって不足なしと言うところか?」
「そうですね。少なくともコモスドールは油断ならないと思います。同じ魔力量甲判定ですし」
「ボーダーライフも油断ならないぞ。夏季合宿で会った時には、何かを持っているようだった」
そんな二人をしっかりと見据えながら、ナルと護国の二人が舞台にやってくる。
二人とも私服ではあるが、ナルは『シルクラウド・クラウン』を、護国も見るからに専用デバイスであろう仮面を身に付けている。
足取りに油断はなく、偶々挑むのであっても、やるからには本気である事が窺える姿だった。
「……。ナルキッソス……。もしかしなくてもデートっすか?」
「デートだな」
「……」
が、そんなナルと護国の様子を見て、曲家は声を低くする。
横で護国は嬉しそうにしているが、舞台上の誰もその事を気にする様子は見せない。
「そうっすかぁ。デートっすかぁ。そんな恰好でイチャイチャしながら舞台に上がってくるなど、良い御身分っすねぇ……。ボーダーライフぅ。ウチもやる気が出てきたっすよ。何と言うかこう、嫉妬の炎がふつふつと沸き上がってくる感じにっすねぇ」
「みたいだな。ま、これなら予定通りでいいんじゃないか? コモスドール」
曲家と堺がある程度の距離を離して、横に並び立つ。
「見ての通り、向こうはやる気満々みたいだな。なら俺たちも頑張ろうか、トモエ」
「そうですね。決闘をする以上は全力を尽くしましょう。ナルキッソス」
ナルと護国もまた、ある程度の距離を離した上で、横に並び立つ。
『両者準備が整ったようです! それでは決闘を始めると致しましょう! カウントダウン開始! 3……2……1……』
舞台に結界が展開される。
それから四人とも、自分のデバイスへと手をかざす。
『0! 決闘開始!!』
「マスカレイド発動! 魅せろ、ナルキッソス!」
「マスカレイド発動! 来なさい……トモエ!」
「マスカレイド発動っす! 行くっすよ! コモスドール!」
「マスカレイド発動! 時間だ! ボーダーライフ!」
四人が一斉にマスカレイドを発動する。
ナル……ナルキッソスは一度光に包まれると、光の中から学園の制服に身を包んだ絶世の美女が盾を持った状態で姿を現す。
護国……トモエは一度炎に包まれると、炎の中から真っ赤な当世具足に身を包み、薙刀を手に持った状態で姿を現すと、黒く染まった髪をなびかせながら、薙刀を構える。
曲家……コモスドールは一度緑色の光に包まれると、光の中から犬を思わせる緑色のヘルメット、装甲板を幾つも付けた緑色の全身タイツを身に着け、槍と盾を握った姿で現れる。
堺……ボーダーライフは一度白と緑の物体に全身を包まれると、その物体を内側から弾き飛ばして、色彩豊かな木製の仮面、骨の鎧と槍を身に着けた姿を見せる。
そして四人は一斉に動き出す。
「トモエ!」
「分かっています!」
ナルとトモエはボーダーライフに向かって駆け出す。
二対二の形式で行われる決闘には幾つかのメジャーな戦術が存在するが、その一つとして、どちらか片方に速攻を仕掛けて落とすと言うものがある。
そして今回狙ったのは、見るからに重装甲なコモスドールではなく、防御能力は最低限しかなさそうなボーダーライフであった。
「させないっすよ!」
「くっ!?」
だが、メジャーな戦術であるが故に、コモスドールにもナルたちの狙いは分かっている。
だから、コモスドールはトモエの前に立ち、薙刀を盾で防ぐと共に、その進路を塞ぐ。
「ナルキッソス!」
「言われなくとも! 『ドレスパワー』からの……おらぁ!」
「……」
しかし、コモスドールの実力ではトモエとナルの両方を同時に抑える事は出来ない。
なのでナルは素通りとなって、ボーダーライフの眼前へと迫り、ボーダーライフに向かって盾を構えながら、スキル『ドレスパワー』も使って、全力のシールドチャージを仕掛ける。
ボーダーライフはそれを見て……。
「ぐっ!?」
「なっ!?」
「えっ!?」
「さてどうなるっすかね?」
敢えて真正面から喰らい、吹き飛ばされ、舞台の上を何度か転がって、全身に擦り傷を作りつつ立ち上がる。
「いいねぇ。本当にちょうどいい感じだ」
そうして立ち上がったボーダーライフの姿は一変していた。
「さて、俺自身も慣れていないからな。気を付けろよ?」
「「……」」
骨の鎧も、骨の槍も、木製の仮面も不穏なオーラを纏い、ナルとトモエでも様子を窺わざるを得ないほどの威圧感を放つものに変わっていた。