234:ナルの振り返り
「先ず三日目の朝一は麻留田さんとの決闘だった」
「私で言うところの陽柚先輩との決闘ですね」
「ああ。ボロ負けだった。敗因は……色々とあり過ぎて、語り切れないな」
「けれど得たものは多い、と言う顔をしていますね」
「まあな」
麻留田さんとの決闘で得たものは多い。
今の自分に何が足りないのかが明確化されたのだから。
あそこで明確化されたものに沿って強化を重ねていけば、少なくとも大きく道を外れることは無いと思う。
「その後は……護国さんなら知っていると思うけれど、戌亥寮の夏季合宿では独自ルールとして乱入が許されているのだけど、それを利用した実質七対一の決闘を何度かやったな」
「七対一……本当にやるのですね」
「ああ。相手の連携や手札、覚悟が悪ければ勝てるんだけど、そうでないと流石に重ねられたバフ、拘束、スキルと機能の活用でもって、俺でも耐えられなくなるな」
「そこまでしないといけない時点で、流石は翠川様だと思います」
護国さんが基本的には感心、一部呆れが入っている感じに感想を言ってくれる。
まあ、俺自身も七対一で勝てるのはちょっとどうかと思う。
一対一での負けは麻留田さんだけだったしな。
おかげと言うべきか、翌日以降は中々挑んでもらえなくて大変だったな。
「後は……そうだな。綿櫛の件は本当に拙かった。特にツインミーティアの剣の切れ味は」
「……。それほどだったのですか?」
「ああ。デバイスの性能、元々の仮面体の性能、それと護国さんは知っていると思うから言うけれど、あの魔力量を大きく増やした手段、それらが噛み合った結果なんだろうが、あの時のツインミーティアの剣は盾で受ける事は出来ても、手足でマトモに受けたら斬り飛ばされるのが確実な剣だった」
「それは……脅威以外の何物でもありませんね。スキルも無かったのですか?」
「無かった。もしもツインミーティアたちがもっと冷静だったら、俺はこの場に居ない可能性が高いと密かに思っているくらいだ」
「……」
俺の言葉に護国さんも真剣な表情で返し、真面目な顔で悩んでいる。
うん、あの時の戦いは本当に拙かった。
スズ、マリー、イチ、燃詩先輩の働きに、ツインミーティアたちが正気を失っていたおかげで対処できるレベルで済んでいたけれど、もしもこっちに不利な要素が一つでも増えていたら、逆に有利な要素が一つでも減っていたら……結末は全くの別物だったかもしれない。
ちなみに、しばらく前から、俺の仮面体の強度としては、肌よりも盾の方が堅くなっている。
これは肌が弱くなったのではなく、盾の強度がしっかりと馴染んできた結果だ。
また、これの応用で衣服の強度も上げられるようになってきたので、その内にきちんと服を着た方が防御力が高くなるかもしれない。
「護国さん。もしも今後の決闘であの技術に遭遇した場合には、十分な注意を払った方がいい。単純に魔力量を増やしているだけじゃなくて、一度の攻撃に込められる魔力の量も大きく増やしているようだから、想定外の威力になっている事は十分にあり得る」
「そうですね。警戒させていただきます。どのような反動があるのかは分かりませんが、命に関わるほどでないなら、切り札として用いる方が居ても、何もおかしくはありませんから」
「だな」
それほどの脅威を感じたからこそ、俺は護国さんに警告は発しておく。
どうやって綿櫛たちがあんな力を得たのか分からない上に、スズも似たような力を扱えるのなら、学園内に他にも使える人が居たって不思議ではない。
まあ、仮に使われたところで、決闘以外の場所で綿櫛たちほどに理性がぶっ飛ぶような事がなければ、致命的な問題なんて起きないのかもしれないが。
「それで翠川様としては、これからどのようにしていくつもりなのですか?」
「決闘の実力上げって意味か?」
「はい」
「その意味なら、とりあえずはスキル『ドレスパワー』の確認と検証、デバイスのバージョンアップ、新しいスキルの捜索または開発……基本的な体術の訓練とかを除けば、まあ、この辺りだろうな。何もかも足りないって言うのは麻留田さんとの決闘で嫌って程に思い知らされたからな」
そう言いつつ、俺は舞台の上へと視線を向ける。
そこではグレーターアームとスウィードが決闘をしていて、グレーターアームの攻撃をスウィードが必死に避けつつ、反撃を試みていた。
二人とも以前に見た時よりも動きが良く、成長を感じるな。
うん、俺も何時までも魔力量と仮面体の頑丈さに頼っているだけでは駄目だな。
合宿で対多人数の戦い方も学べたし、その戦い方が島以外の環境でも通用させられるか気になるところだが……。
いや今は護国さんとのデート中なのだから、そちらを優先するべきだな、うん。
「翠川様」
「ん?」
そんな事を考えていたら、護国さんが俺にスマホの画面を見せてくる。
そこには、この後の時間、大ホールでは2対2のペア戦を行う事になる旨が記されていて、そこへエントリーするために必要な記入欄には護国さんの名前があった。
「その、先ほどは今日の私はそう言う気分ではないと言いましたが……お互いの夏季合宿での話を聞いていたらですね。少しばかり戦いたくなってきまして。その、翠川様さえよければ……」
これは……気を使わせてしまったかもしれないな。
けれどそう言う事ならばだ。
「そうだな。それじゃあ折角だから参加してみようか」
「はい。一緒に決闘をしてみましょう」
誘いに乗らせてもらおう。
きっとその方が、俺にとっても護国さんにとっても楽しいことになる。
「組み合わせが決まったようですね。では行きましょう。翠川様」
「ああ、よろしく頼む。護国さん」
……。
まあ、俺と護国さんのペアとか、当たった側からしてみれば悪夢以外の何物でもないかもしれないが。
申し訳ないが、当たった誰かについては運が悪かったと諦めてもらおう。
俺はそう思いつつ、控室へと向かった。
なお、全くの余談となりますが、綿櫛たちのせいで戌亥寮の生徒たちは六日目と七日目で確保するつもりだった物……特にお土産が確保できていません。
綿櫛たちが今現在一番恨まれているポイントはたぶんここです。