233:護国さんの夏季合宿
「「「ーーーーー~~~~~!!」」」
「おー、朝から賑わっているな……」
「此処、大ホールでは参加したい時間を複数指定する形で登録。すると時間が被った者同士で組み合わされて、実質的にランダムな組み合わせで決闘出来るシステムで夏季休暇中は運用されています。なので、本気でやる気がある人なら、朝から晩まで戦い続けている方もいるそうです」
「それはやる気が凄いな」
大ホールでは今日も学園生徒同士による自主的決闘が行われていた。
ざっと見ただけでも、100人近い生徒と少なくない数の大人が居るように見える。
今はまだ朝の時間帯であるのにこの人数が居るとなると、昼頃には今の倍かそれ以上の人数が集まるかもしれないな。
「それで、今日の護国さんは参加と観戦、どちらがお望みで? 俺はどちらでも大丈夫だけれど」
「ではその、観戦でお願いします。デバイスは持っていますけど、今日の私はそう言う気分ではないので」
「分かった。じゃあ、ちょうど良さそうな席を見繕って……あそこ辺りが良さそうかな」
「はい。ではそちらへ」
この賑わいはつい先日まで行われていた夏季合宿の影響もあるだろうな。
夏季合宿を真面目に過ごした生徒なら、大なり小なり得たものはあったはずだ。
となれば、そうして得たものを今後に生かしたり、より正確に掴んだり、あるいは普段の環境を思い出すためにと、この場へやって来て、積極的に決闘に臨むのは分かる。
「護国さんは決闘が好き、でいいのか?」
さて、場についてはこれくらいにしておくとしてだ。
俺は護国さんに質問をする。
「そうですね。初めは家で将来のための勉強として見せられて、両親とその友人たちの決闘も見せてもらって、そうして見せられ続けている内に私もああやって戦えるようになったらと憧れて……決闘学園に入学して舞台に立つ側になった今でも、見るのも好きです」
「なるほど。流石は護国さん」
そう言う護国さんが舞台上で行われている決闘……機動隊姿のモブマスカレイドと足軽姿のモブマスカレイドが戦っている光景に向けている視線は、楽しんでいると同時に自分ならどうするかを考えている真剣なものでもある。
俺ならば……うんまあ、深く考えずに正面からゴリ押すだろうな。
それでは駄目だと思っているんだが、それ以外の手段が現状だと見つかっていないからなぁ。
「だからこそ、最近の両親の体たらくには腹が立つのですか」
「ははははは……」
護国さんがここまで言う辺り、護国さんの両親は見せるべきではない姿を色々と護国さんに見せてしまっているんだろうなぁ。
護国さんの性格からして、決闘で負けた姿を見せた程度ではこうはならないぞ。
そして、その言葉を聞いた俺としては、乾いた笑みしか浮かべられないところである。
「あー、そうだ。護国さん、夏季合宿の方はどうだった? リゾートホテルだったのは知っているけど」
「夏季合宿ですか? そうですね……得るところの多い合宿ではありましたね」
「そうだったのか。具体的には?」
とりあえず話題は変えておこう。
後でまた聞くことになるかもしれないが、ネガティブな話題は気持ちを変えられるだけの時間が残っている程度に後ろへと回した方がいい。
「まず足場の重要性は改めて認識させられましたね。足場が砂場あるいは濡れた岩場になるだけであれほどまでに戦いづらくなるとは思いませんでした」
「ああ、砂場については俺も経験したから分かる。思った以上に速さが出なかったり、滑ったり、沈み込んだりで感覚がズレるんだ」
「はい。正にそうでした」
俺は護国さんの夏季合宿がどうだったのかを聞き出していく。
護国さんたち虎卯寮が行ったのは朝守海岸は笹八木リゾートホテルと言う、海辺のリゾート地だ。
その土地で護国さんも俺たちと同じように三日目から五日目は決闘実習を行っていた。
で、虎卯寮の決闘実習は一対一に限って行われていたそうなのだが……。
「三十人抜き!?」
「はい。悔しいことにそれが限界でした。流石に時間と魔力が足りませんでしたね」
虎卯寮の空気ゆえにそう言う事になったのか、護国さんはやってくる挑戦者をひたすらに捌き続ける事になったらしい。
結果、三十人ほど連続倒したところで魔力と集中力が尽きて、倒される事になったらしい。
本人は悔しそうにしているが……俺のようにマスカレイド発動中に魔力が回復するわけでもないのだから、相当凄い記録のはずである。
「来年は若良瀬島に行くことになるはずですので、それまでに腕を磨いて、今年の記録を上回れるようにしたいところです」
「そうか。頑張ってな。応援してる」
「はい!」
しかし、どうやって三十人抜きを成し遂げたのか……うーん、とりあえず、相手を最初の一撃で一刀両断にするとか、そういう効率のいい戦い方をしていた事は確かだろうな。
「と、そう言えば、寮内最強決定戦の方はどうだったんだ? 護国さんなら先輩の誰かから挑まれたと思うんだけど」
「ああそれですか。それなら私は生徒会の陽柚先輩と戦う事になって、何とか勝てました」
「勝てたんだ……」
「はい。武器に電撃を纏わせたり、素早い反応速度は厄介でしたが、どうにか勝つことは出来ました」
「なるほど」
「個人的には二年で風紀委員会の青金先輩の方が厄介でしたね。攻撃が中々通らなくて……」
「ふむふむ」
どうやら護国さんは今年の夏季合宿で以って、虎卯寮最強の座に就いたらしい。
流石としか言いようがない。
「それで翠川様。翠川様の方はどうだったのですか? その、例の事件を思い出したくないと言うのなら……」
「綿櫛の件なら気にしてないから大丈夫だ。そうだな……」
そして俺は護国さんに自分の夏季合宿がどうだったのかを話し始めた。