23:風紀委員長VS生徒会長
本日は二話更新となっております。
こちらは一話目です。
二人の仮面体が光の中から現れる。
「それじゃあ……」
風紀委員長である麻留田祭の仮面体……『鋼鉄の巨兵』シュタールは身長3メートルにも及ぶ、全身が鋼鉄で出来ている巨人の姿をしている。
その手には、数日前にナルと戦った時と同じように鎖で繋がれヌンチャクのようになった檻が握られている他、背中からは巨大な砲塔が二門、体の各部からは小銃の銃口が覗き、他にも多数のギミックが駆動音と火花を出しながら、その出番を待っている。
「来い。初手は譲ってやる」
対する生徒会長である山統紀士の仮面体……『勝利の騎士』ウィンナイトは全身を西洋式の甲冑で包み込み、右手に両刃の剣、左手に大きな盾を持った騎士。
綺麗に磨かれただけにしか見えない鎧の何処にもギミックらしいものは見えず、剣と盾も同様。
二人の仮面体が相対するその姿は、まるで神話に描かれるような金属の巨人へ勇敢な戦士が挑みかかるような構図だった。
だが現実にはウィンナイトはその場から動かず、盾だけ構えて、シュタールに先手を譲る。
そして先手を譲られたシュタールと言えば。
「最初からぶっ飛ばしてやるよ! 『フルバースト』!!」
初手は背中から生えた二本の砲塔による砲撃。
放たれたのは物質的な弾ではなく、魔力を固めて物体化した弾丸であり、その速度と硬さは本物の大砲と比べても遜色がないものである。
ウィンナイトに動く気がない以上、その攻撃は直撃し、爆発。
周囲に爆炎と衝撃波をまき散らし、砂埃を巻き上げる。
「ふん。こんなものか。相変わらず大した威力だが、耐えられる範疇だな」
が、ウィンナイトはその中から、盾に僅かな焦げ目がついた以外には傷一つない姿で現れる。
「一年生の何人かが爆風で驚いていそうだな」
「研修用に風通しがいい結界になっているみたいだからな。攻撃そのものは出ないから問題ないだろ。それとも、一年生をビビらせたくないのか? 生徒会長様」
「まさか。むしろその逆だ。俺は……生意気な一年坊主共の度肝を抜きたくて仕方がない。だから……そう簡単にくたばるなよ?」
ウィンナイトが動き出す。
盾を前に、剣を後ろに持っていき、シュタールに向かって真っすぐに走っていく。
その速さは正に風のようで、その見た目からは想像できないほどに速い。
「言ってくれる!」
対するシュタールは全身の小銃を発砲するが、その大半は盾で防がれ、盾に当たらなかったものも鎧で弾かれて効果を為さない。
そうしている間に両者の距離が詰まり……。
「ハアッ!」
「オラァ!」
まずはウィンナイトの剣とシュタールの檻がぶつかり合って、激しい金属音を鳴らす。
切れ目が入ったのは、シュタールの檻の方だった。
「もういっちょお!」
「っ!?」
続けてシュタールのもう一つの檻が鎖部分を持った形で振り下ろされ、盾で鎖部分を防いでしまったウィンナイトの体へと盾を回り込んで直撃する。
「小癪な!」
「今日は私の勝ちかぁ!?」
シュタールはさらに体の隙間から放っていた小銃の音と火花に紛れ込ませるように、鋭く薄い刃をウィンナイトの鎧の隙間に向かって射出する。
それはある種の初見殺しであり、対処できなければ必殺の一撃となる攻撃。
「この程度を通すと思ったか! 『ロングエッジ』!」
「だろうな! 知ってたよ!!」
が、自身に迫ってくるそれを正確に認識した上で、ウィンナイトはほんの僅かにだけ体を動かし、刃を弾く。
その上で構えていた盾をそのまま突き出して、シュタールを殴りつけると、そのまま追撃の刃を振るい、不自然に伸びた刃で以って、シュタールの胸部装甲に大きな斬り傷を付ける。
「ちっ、こっちは碌にダメージを与えられていないのに、被弾は檻と胸に良いのを貰ってる。これだから隙が無い騎士様の相手は嫌いなんだ」
「ダメージがないわけではないぞ。さっきのヌンチャクなど、内張をいいものに変えてなかったら、だいぶ響いていたはずだ」
「うげっ、仮面体の調整をしてたのか……何時の間に……」
「本当につい先日、俺のスポンサーが新構造を提案してくれてな。お前相手に通用したのなら、意味はあったようだ」
シュタールは数歩分距離を取ると、自分の状態を確かめた上で、攻撃の策を練る。
ウィンナイトはそれを無理に追わず、呼吸を整えつつ、次の一手に備えて構える。
二人の動きの差は、二人の仮面体の差でもある。
実は二人の魔力量にはそこまでの差はなかった。
けれど、巨体、砲弾、その他射出物などの結果、支出が多いのは圧倒的にシュタールの方である。
そのために、シュタールは攻めなければならない、でなければ、先に魔力切れを起こしてマスカレイドの強制解除が起きてしまうのはシュタールの側なのだから。
だから、ヌンチャク鎖部分を持って軌道を変えたり、ギミックによる不意打ちと言った、小細工も弄するし、ただ攻めるだけでなく隙を窺う。
ウィンナイトはそれを分かっている。
分かっているからこそ。堅実無難に凌ぎ、手痛い反撃を加え、自分が有利な盤面へと着実に傾けていく。
相手が悪手を打ったならばそのまま仕留めてしまえばいいが、有効手を切ったならば深入りせずに仕切り直す。
攻める側と守る側がはっきりと分かれた決闘。
これがこの二人だけで行う決闘の常だった。
「だったら次は……こうだ!」
考えをまとめたシュタールが動き出す。
目くらましの小銃を放ちつつ、ヌンチャクを投げて、同時に距離を詰める。
「突撃? だがこんな物なら……」
対するウィンナイトは堅実にヌンチャクを回避し、放たれる小銃は無害なものとして無視し、距離を詰めて来たシュタールに向かって構える。
「『リターンウェポン』それと『ハーディング』だ」
「!?」
そのウィンナイトへ、背後から不意の衝撃が襲い掛かる。
衝撃の主は、まるで投げ捨てられた場所から、主の手元へと帰っていくように動いていた檻のヌンチャク。
そして、本来ならば柔らかい内張りによって、衝撃が殺されるはずであったのに、直撃したダメージはウィンナイトの鎧の中身へとダイレクトに伝わっていた。
「ぐっ、ここでスキルを二つも切るか! 『キーンエッジ』!」
「最近、やけに耐久力があるのを相手にして、硬くすることで脆くするのもありかと学んだんでな! 思っていた形とは少し違うが、試させてもらった!」
ウィンナイトが異常に鋭い刃で以って檻を切り裂き、その一撃で檻を構成していた魔力が形を保てなくなったのか消失する。
その間にシュタールは距離を取り、背中の砲門へと魔力を集める。
「衝撃を殺せない鎧でどれだけ耐えられる!? 『フルバースト』!!」
決闘開始当初と同じように二発の砲弾がシュタールから放たれる。
「だったら、耐えるのではなく、弾けばいいだけだ。『パリングシールド』!」
その砲弾をウィンナイトは魔力の幕を纏った盾で受け止め……二発とも弾く。
それも着弾の瞬間に自分の腕を巧みに使って衝撃を出来る限り殺し、自分の体にかかる負荷を限りなく削った上で。
「『ハーディング』!」
だがそうして弾かれるのはシュタールとしても計算済み。
故にシュタールはギミックの一つ……足裏のローラーを全力で稼働させ、砲弾を弾いた直後のウィンナイトの側面へと回り込むと、今度は『ハーディング』を自分の腕にかけて振り下ろす。
「甘い!」
「っ!?」
そして、シュタールが腕を振り下ろすよりも早く。
ウィンナイトの刃が振り上げられ、シュタールの体を深く刻む。
「ク……ソ……」
その一撃がトドメとなったのだろう。
シュタールの体が消え、仮面体を破壊された麻留田の体が傷一つない状態で舞台の外に現れる。
「勝者! 『勝利の騎士』ウィンナイト!」
勝負の差となったのは、ウィンナイトのパリング技術。
スキルに頼らず、磨き上げた技術によって短くなった硬直が、シュタールの想定を上回ったがための速度差だった。
「「「ーーーーー~~~~~!!」」」
そして短くも激しい決闘に、大ホールは歓声で沸き返った。
色々と見慣れぬものが出てきておりますが、次回以降に機会があれば説明させていただきますので、お待ちくださいませ。
07/13誤字訂正