229:夏季合宿六日目・合宿中止!
ツインミーティアたちは無事に捕縛された。
が、此処までも大変だったが、此処からも大変だった。
いや、人によっては、此処からの方が大変だったかもしれない。
「全員、ホープライト号に戻り、各自の部屋の中で待機するように!」
まず初めに合宿の中止が決定された。
当然だ。
ツインミーティアたちの行為は紛れもなく殺人未遂、犯罪であった。
おまけに最初の結界破壊で、周囲に居た生徒何人かが軽傷とは言え怪我も負っている。
この状況下で夏季合宿を続けられるはずがない。
『警察の方々が到着しました。これより順番に各自の部屋を訪れますので、質問には嘘偽りなく答えるようにお願いいたします』
次に大量の警察がやって来た。
それも重武装……たぶんだが、機動隊と呼ばれるような方々も混ざっていたし、俺に見分けがつかなかっただけで自衛隊も居たのかもしれない。
とにかく沢山の大人がやって来て、マスカレイドを解除された綿櫛たちを本土へとヘリで移送しつつ、俺たちに対する事情聴取と島の中での現場検証や捜索など、色々と始まったようだ。
「疲れた……」
「本当にね……」
「根掘り葉掘りとハ、正にあの事ですネ……」
「一先ず部屋の中に留まり続ける必要がなくなったのは幸いですね」
で、大人たちが若良瀬島で色々とやっている間に、ホープライト号が船である事を利用して、綿櫛たちを除く戌亥寮の生徒たちは事情聴取をされつつ、本土までホープライト号で移動する事になった。
とりあえず事情聴取については素直に答えた。
隠し事をしても碌な事にならないと言うのもあるが、そもそも隠すような事も無いので。
「まあなんにせよ、三人とも怪我が無くて良かった」
「ナル君はその言葉を言われる側じゃないかなぁ……」
「完全に殺しに来ていましたからネ。綿櫛たちハ」
「なんにせよ、四人とも無事だったのですから、まずはそれを喜びましょう」
そうして今はとりあえずの事情聴取も終わったので、カフェに四人で集まって、まったりしている状態である。
俺たちは今回の件の重要参考人でもあるので、刑事さんが二人ほど付きっ切りになっているが。
「……。とりあえず反省会でもするか」
「必要ではあるよね。少し間違ったら、ナル君は死んでいたんだから。もしそうなっていたら私は……」
「イチも必要だと思います。お互いに何時何をしていたのかは知りたいでしょうから」
「そうですネ。記憶が新しい内にやっておきましょうカ」
俺たちは適当な紙に決闘の流れを書き出していくと、その時に自分が何をやっていたのかを話していく。
そうして分かった事が幾つもある。
「じゃあ最初の攻撃を防いでくれた結界は燃詩先輩がやった事だったのか」
「うん、燃詩先輩の仮面体には各種機械を手足のように扱える力があるそうだから、それを利用して、警戒していてくれたみたい」
最初のツインミーティアの不意打ちを防いでくれたのが燃詩先輩であるとか。
「イチは二度目の結界の中には展開時から潜んでいました。ツインミーティアたちの狙いは明らかでしたので、また結界を破ろうとするのなら、ナルさんの護衛としてそれを邪魔しなければいけません」
「そう……だよな」
「なのでイチとしては、あの場で逃げなかったナルさんの事をむしろ咎めたいのですが……止めておきます。イチでは正面で戦う事は出来ず、クリムコメット一人落とすのが限界でしたから」
「その一人落としてくれたのが俺としては助かったんだけどな。後、あの場で逃げ出したら、虐殺が始まるのが目に見えていたからな……逃げようとは思えなかった。たぶん次があっても、俺は逃げない」
「そうですか。分かりました。ならイチも、それを前提として動かさせていただきます」
イチとしては命がけで俺たちを逃がしたかったのだけど、俺はむしろ前に出て、色々と思うところがあっただとか。
「マリーは麻留田さんに頼まれたので狙撃をした感じですネ。おかげデ、合宿中に作ったコインは無くなりましタ」
「今速報が入ったんだけど、マリーの攻撃の着弾跡、直径十数メートルのクレーターになっているらしいんだけど」
「込められるだけの力は込めましたのデ」
結界解除直後の攻撃はやっぱりマリーの物だったとか。
「設置式睡眠薬?」
「うん。少なくとも三十分。体質や疲労状態によっては丸一日くらい眠る事になる薬を仮面体で作って、ツインミーティアたちがマスカレイド解除後に飛ばされる先に設置しておいたの」
「まタ、便利そうな代物ですネ」
「なるほど。それでクリムコメットは大人しかったのですね」
「本当は中に入ってナル君を支援したかったんだよ。だけど……あの攻撃の嵐の中じゃ、私はマトモに行動出来なかっただろうから」
「いや、それで助かった。倒しても大丈夫だって連絡含めてな。俺が想定してた最悪のパターンは、綿櫛たちを倒した結果、ホープライト号の自室に転移し、そこで暴れて船ごと沈められるとか、そういう奴だったから」
スズはスズで色々とやっていたとか。
まあ、色々と分かった。
そうして分かった事で問わないといけない事がある。
「それでスズ。ツインミーティアたちが纏っていた魔力。アレは何だったんだ? 俺の肌感覚が間違っていないのなら、体育祭でスズが使ったものと大きくは違わないと思えたんだが」
俺はスズにツインミーティアたちが纏っていた、濃密で嫌な気配がする黒い魔力について尋ねる。
スズとツインミーティアたちでは、見た目は同じ黒い魔力と言っても、細かい部分では色々と違いはあった。
嫌な感じだとか、制御できているかどうかだとか、そう言った部分でだ。
だがそれでも、俺が知っていて、尋ねられる中で、最も近い魔力を扱っていたのはスズだ。
だから俺はスズに何か知らないかと尋ねる。
「……。根っこは同じだと思う。けれど、それ以上は答えられないかな。色々と厄介な話があるから」
「分かった。ならこれ以上は聞かない」
対するスズの言葉は答えられない。
つまり、もっと沢山の情報を持っているけれど、喋れない、と言う事か。
「いいの?」
「答えられない、なんだろう? だったら俺も聞かない。それで十分だ」
刑事たちが聞き耳を立てているから?
いや、それはたぶん関係ない。
体育祭の時、衆人環視の中でスズはあの力を使った。
となれば、あの力そのものには違法性はないはずだ。
だから、喋れない理由があるのなら、全く別の理由で、それがスズの言う通りに厄介なのだろう。
そうだな、それこそ女神ではない神が関わっていて、そこが話さないように止めているとか。
女神が居て、魔力があって、世界中に神話はあるのだから、他の神が居て、その神が人間に何かをしているくらいは不思議でも何でもないはずだ。
だったら、無理に問い質すべきじゃない。
無理やり聞き出す、約束を破らせるは、何処の地域の神話でも分かり易いタブーで、ろくでもない結果をもたらすものだからな。
「とりあえず、俺たちはもっと強くなるべきだし、警戒する方法も学ぶべきだ。でないと……次がもしもあったら、その時には誰かが死ぬかもしれない」
「うん、そうだね。その通りだと思う」
「ですネ。それについては同意しまス」
「はい。イチももっと腕を磨かなければいけません」
今回は無事で済んだ。
けれど次もそうなるとは限らない。
だから、俺たちはもっと色々な事を学んで強くならなければいけない。
そう思いながら、俺たちの夏季合宿は終わる事になったのだった。