228:夏季合宿六日目・深淵の玉 VS流星小隊-後編
「マリー・アウルムの名において命じます。金杭、金喰いて、叶え来るは、鼎狂わす、金重のクルス、彼方へ、彼方へ、彼方へ、抉り抜けろ……」
時は少しだけ遡り、ナルがツインミーティアたちの相手をし始めた直後。
マリーはマスカレイドを発動すると、ツインミーティアたちの初撃の結果、危険な状態に陥っている被害者が居ないかを確認し回っていた。
そして、その確認の中、問題が無いことが分かったタイミングでマリーは言われた。
私が結界の中へ突入するタイミングで一度結界が解除される手筈になっている。そのタイミングで最大威力の攻撃を放て、と。
その指示に従ってマリーは夏季合宿中に『蓄財』で製作した金貨を握り潰し、放出された魔力をスキル『P・魔術詠唱』で利用する。
「『ゴールドパイル』!」
そうして生み出され、放たれたのは、通常の『ゴールドパイル』とはもはや似ても似つかぬ黄金色の十字架であり、その表面にはもはや隙間も無いように思えるほどに文字が刻み込まれている。
音を置き去りにするかのような勢いで十字架は飛んで行く。
ライフル弾のように螺旋回転して飛んで行き、遮るもののない宙を空気を裂いて飛んで行く。
そして飛んでいった十字架が結界に触れる直前に結界は消えて……。
「!?」
「えっ……!?」
「バレットシャワー!?」
「黄金色の何か、マリーか!」
グレイヴサテライトの守りをあっさりと貫通すると、その陰で次の攻撃の為に準備をしていたバレットシャワーの上半身を文字通りに消し飛ばした上で、更に飛んで行き、海に直撃して巨大な水柱を上げる。
「おらぁ!」
「!?」
バレットシャワーのマスカレイドが解除されて、その場に取り巻きの一人の体が現れようとする。
だがその前に結界の消失と同時に内部へと突入したシュタールがグレイヴサテライトを蹴り飛ばして吹き飛ばす。
そして、バレットシャワーだった取り巻きは他の風紀委員会の人間によって拘束され、グレイヴサテライトはシュタールによって抑え込まれる。
「何が起きて……!?」
「最初の結界もそうだったんだろうが、扱える人が居るととんでもないな」
このタイミングで結界が二つ再展開される。
シュタールとグレイヴサテライトだけを内側に収めた結界と、ツインミーティアとナルだけを内側に収めた結界だ。
場と状況の急激な変化に動揺するツインミーティアに対して、ナルは動揺を見せずに動く。
「『ドレッサールーム』発動。さて、ツインミーティア。これで一対一だ。かかってこいよ。殴り飛ばしてやる」
服装を踊り子の服から、パレオ付きの水着へと変更。
その上で笑みを浮かべながら言う。
お前なんて取り巻きが居なければどうと言う事もないと挑発をしながら。
「……。舐めないで欲しいですわ! バレットシャワーたちなど居なくても、貴方一人程度、私だけで斬り殺せますわ!」
挑発に乗ったツインミーティアは構えを取る。
なんとしてでもナルを斬り殺すと、殺意を漲らせながら。
「死ねぇ!」
ツインミーティアが斬りかかる。
これまでで一番速く、二振りの剣の軌跡に光芒を残しながらナルに斬りかかっていく。
「……」
一撃目は真正面から、それはナルの盾によって防がれる。
二撃目もまた正面から、故に変わらずナルの盾に弾かれる。
その弾かれを利用するように動いたツインミーティアは、続けて側面から斬りかかるが、それもまたナルは盾で防ぐ。
「死ね! 死ね! 死ねえええぇぇぇっ!!」
そこからツインミーティアは正に流星のように剣の軌跡に光を残しつつ、ナルへと斬りかかる。
その速さは正に目にも留まらないと言う速さであり、斬りかかるツインミーティア自身も制御できているとは言い難い速さの攻撃であった。
「速いがそれだけだな」
「なっ!?」
そんな攻撃であるはずなのに、ナルは難なく防いで見せていた。
基本は盾で防ぎ、盾が間に合わない時も何処へ攻撃が来るか分かっているかのように少しだけ身を動かして薄皮一枚だけ斬らせ、隙だらけなら先んじて手か盾で打って攻撃そのものを潰す。
ツインミーティアが距離を取り、盾が無い方向から攻撃を仕掛けようとしても、先に詰めてスキル『P・敵視固定』の効果によって左右への急制動を許さない。
そうする事によって、僅かな出血はありつつも、致命傷には程遠い傷だけをナルは負っていく。
やがてツインミーティアの疲れを示すかのように、その動きは鈍っていき……。
「捕まえた」
ツインミーティアは腕をナルによってしっかりと掴まれる。
「離しなさい! 離せ! 離せと言っているのです!!」
「『ドレスパワー』発動」
ナルは『ドレスパワー』を発動する。
この場に散ったナルの血によって、此処は水場であるとバフに判断され、その血が集まって血の塊がナルの周囲に漂う。
「ツインミーティア。お前が何を思おうが勝手だが、流石にやり過ぎだ」
「離しなさい! この下郎が!! なっ!?」
ツインミーティアが掴まれていない方の腕に持った剣をナルに向かって振り下ろす。
これまでで一番の魔力が込められていたその刃はナルの盾を半ばまで切り裂くが、そこでナルの魔力に絡め取られて動きを止め、弾き飛ばされる。
「後は警察と女神任せだが。今はまず俺にぶっ飛ばされて……寝てろ!!」
「!?」
ナルの拳がツインミーティアの腹に突き刺さる。
そのナルの動きに反応して血の塊が動き、ナルの動きに追従するようにツインミーティアの腹へと突き刺さって、ナルの拳など比較にならないほどの衝撃をツインミーティアの体に与える。
腕を掴まれていた事で衝撃を逃がせず、これまでの戦いで魔力を大量に消費していたツインミーティアにそのダメージを耐える手段はなかった。
「そんな……馬鹿な……私が……」
結果、ツインミーティアはその場で崩れ落ち、仮面体を維持できなくなって、マスカレイドは解除。
この場から消え去った。
「俺の勝ちだ」
そして、ナルは自身の勝ちを堂々と宣言した。
なお、この裏でグレイヴサテライトはシュタールによってボコボコのボコボコにされてます。
相性がね、悪すぎるのよ。