227:夏季合宿六日目・深淵の玉 VS流星小隊-中編
「死ねぇ!」
「っう……」
ツインミーティアの剣が振り下ろされ、ナルは盾でそれを防ぐ。
「死ね! 死ね! 死ね! 私より美しいものなど不要なのですわ! 貴方が消えれば私こそが最も美しいものになれるのですわ!!」
攻撃をナルに防がれたことを認識したツインミーティアは即座にもう一本の剣も振り下ろし、それも防がれると更に攻撃を仕掛け、そこから更に更にと剣を振り回し続けてナルの盾へと刃を叩きつけ続ける。
その勢いと叫びは明らかに常軌を逸しており、以前スズとの決闘で見せた動きと比較すれば、力任せとしか言いようのない攻撃だった。
「くっ、随分と……嫌われたもんだな!」
「当たり前でしょう! 私は美しいのです! この世のものは全て私を引き立たせるための物です! 宝石も! 力も! 男も! 女も! 地位も! 金も! 何もかもが私の添え物! それが決まり! であるのに、それを守らないものなど……不要ですわ!!」
「っ!?」
ナルはひたすらにツインミーティアの攻撃を盾で凌ぎ続ける。
そうして攻撃を凌ぐナルに向けて、ツインミーティアは不意に蹴りを放ち、その蹴りによってナルは大きく吹き飛ばされて、砂浜を転がる。
そこへ降り注ぐ。
「げっ……」
「あははははっ! 降れ! 降れっ! 破壊し尽くせ!! 破滅しろ!!」
「行け、いけ、逝けっ! 呪い殺せ! 私の為に!」
バレットシャワーの放った火と雷の雨が、クリムコメットが生み出した呪いの炎の鳥たちが。
ナルは直ぐに立ち上がり、盾を掲げながら、少しでも攻撃が密度が低い方向に向かって駆け出す。
攻撃の大半は盾で防がれ、当たるかギリギリのところであった攻撃は『ドレスパワー』によって現れた踊り子の服のバフである矢避けの加護とでも言うべき力で当たらないように逸らされていく。
だがそれでも、少なくない数の攻撃がナルの体に当たって、その身を焦がし蝕み、けれど『恒常性』の効果によって治されていく。
「悪くない……私は悪くない……私は自分の身を守ってるだけ……私はただ……自分に来ないようにしているだけ!!」
「真横!?」
そして、攻撃を防ぎ避けたナルを嘲笑うかのように、ナルが無警戒だった方向から炎雷の雨による攻撃が直撃する。
そこでナルが見たのは、対象を選ぶ精密性など無いバレットシャワーの攻撃の軌道が空中で不自然に曲がり、ツインミーティアの取り巻き三人に当たらないどころか、グレイヴサテライトと言う名の鉄球を中心として周回を始め、十分な加速が乗ったところでナルの方へと向かってきている光景。
ナルは直ぐに理解する。
これがグレイヴサテライトの能力であり、詳細は不明であるけれど、バレットシャワーの攻撃のような軽い攻撃の軌道を捻じ曲げて再利用できるのだと。
そんなナルの想像の正しさを示すように、ナルに当たらなかったバレットシャワーの攻撃は地面に当たって消える前にグレイヴサテライトの能力に回収されて、その周囲を漂い、加速し、やがてナルに向かって放たれる。
「そこですわぁ!」
「っう!?」
そうして、あらゆる方向から攻撃の雨が降り注ぐようになった状態の所へ、ツインミーティアが被弾を気にせずに突っ込んでくる。
ツインミーティアとそれ以外の三人の攻撃、どちらの方がより危険であるかは考えるまでもない。
故にナルは炎雷の雨に打たれ、呪いによって全身に倦怠感を覚えつつも、ツインミーティアの剣を盾で防ぐ。
「お前が前衛、バレットシャワーが範囲攻撃、クリムコメットがデバフ、グレイヴサテライトとやらが後ろ二人の護衛と攻撃補助ってところか! 随分とバランスがいい小隊だな!」
「当たり前ですわぁ! あの三人はお爺様が選抜して私に付けてくださった駒ですのよ! この状況で貴方一人に戦わせている役立たずの女共と一緒にしないでいただけます!? ああっ! 攻撃を防がないでくださいませ! 妬ましい! 煩わしい! とっとと死んでくださいませ!!」
「っう……!」
ツインミーティアの剣を防いでいる間に徐々に炎雷の雨は止んでいく。
呪いも『恒常性』の力によって排除されていく。
だが、それに比例するようにツインミーティアの剣は激しさを増していく。
それを防いでいると、再びツインミーティアが蹴りを放って距離を取り、そこへバレットシャワーたちの攻撃が降り注いでナルの魔力を削り取っていく。
その攻撃の激しさは外から見れば、もはや嵐か噴火のような自然災害であり、ナルの時間経過による魔力回復をはるかに上回るペースでダメージが積み重なっていく。
そして、炎雷の雨と呪いの炎による攻撃がピークを迎えて少しだけ弱まったところでまたツインミーティアが突貫して、ナルに回復する暇を与えずにプレッシャーを与えていく。
この繰り返しの前では例えナルと言えども耐え切れず、ツインミーティアたちよりも先に魔力が切れる事は誰の目にも明白だった。
「ナルちゃん!」
そんな中でスズの叫びが響き渡る。
「通達! その結界の中で魔力切れになった人間は結界を出てすぐの所に転移させられる! 転移先での準備も完了! よって倒して大丈夫だよ!」
「いい知らせだ!」
「おほほほっ! ええそうですわねぇ! つまり! ここで貴方を斬り殺したら! その転移先とやらに突っ込めばいいと言う事ですものねぇ!!」
スズの叫びは、ツインミーティアたちが倒された時に飛ばされるのはホープライト号の船内ではない事、飛ばされた先で暴れる事は出来ない事を示すもので、ナルの懸念事項の一つを晴らすのに十分な内容だった。
「クリムコメット! 早いところナルキッソスを完全に動けなくさせてしまいなさい! 自ら飛び込みなさい!」
「ふひっ、ふひひひひっ! 分かりましたお嬢様ぁ!」
だが、その叫びを聞いたことでツインミーティアたちの動きも変わる。
クリムコメットがグレイヴサテライトの蓄えていたバレットシャワーの攻撃へと自ら飛び込んで、自身の周囲にある火の粉を反応させると、巨大な呪いの炎の鳥たちを生成する。
その鳥たちは元の性質通りならバレットシャワーに向かって行くはずだったが、今の魔力量が大幅に増えているクリムコメットならば、その行先をナルへと無理やり捻じ曲げる事も可能だった。
「行けっ! 私の鳥たち! あの女を呪い殺……」
だがしかし。
「『ヌキテ』」
「せ?」
「「「!?」」」
「いいタイミングだ。ファス」
鳥たちが飛び立つよりも早く、クリムコメットの胸にはファスの腕が突き刺さり、貫通。
仮面体の急所を突くことによる即死を成立させていた。
「ファスウウウゥゥゥッ!」
「!?」
だが、クリムコメットもただでは死ななかった。
急所を貫かれて崩壊するだけだったはずのクリムコメットの体が文字通りに爆発。
直近のファスの体を吹き飛ばして砂浜に叩きつけるだけでなく、ナルも、ツインミーティアも、残りの二人も吹き飛ばされた上に、呪いによる倦怠感で一時的に動きを鈍らされる。
「ナルさん……すみません。後は……お願いします」
「ああ……」
ファスが呟きつつ魔力切れで退場していく中でナルが立ち上がる。
血まみれで、服をボロボロにして、砂に塗れた状態で、ふらつきながらも立ち上がる。
「任せておけ」
その上で微笑む。
何も心配は要らないと。
「やってくれましたわねぇ……」
ツインミーティアも立ち上がる。
ナルほどではないけれどボロボロの姿で、けれど二本の剣を煌々と輝かせながら。
「殺して差し上げますわ。お前も、アイツも、コイツも!」
「やれるものならやってみせろ」
そうしてツインミーティアが右手の剣の切っ先をナルに向け、対するナルが盾を構える。
そして、その瞬間を見計らったかのように……。
ナルたちを囲む結界が解除される。