22:模擬決闘観戦
「ん? んー、だいたい座る場所が決まっている感じか?」
2024年4月5日金曜日。
本日のマスカレイドの授業は、大ホールで一年生と三年生の合同授業となる。
と言っても、一年生は見るだけで、実際に何かをやるのは三年生たちだが。
「そうだね。だいたい寮ごとに分かれている感じ。その上で寮ごとに座る席順のルールが自然と出来ているように思えるけど」
「イチたちはどうする? 戌亥寮ならあの辺りで、並びも雑多だから、好きな席が取れそうだけど」
「でハ、舞台の全体像と細かい動キ、その両方が見れる特等席へと行きましょウ。ちょうどよく四人分空いていますしネ」
「そうだな。そうするか」
観客席で座る場所に指定はない。
なので、何処に座っても問題はないのだが、そこは仲間意識や対抗意識の類なのだろうか、寮ごとにまとまっているようだ。
中には別の寮の友人と並んで座っている例もあるが、それでもどちらかの寮に合わせて座っているように見える。
で、各寮の座り方としては……。
子牛寮は出来るだけ前へ詰めるように。
虎卯寮は力関係によるものっぽい自主的譲り合いが発生。
申酉寮は幾つかのグループごとにまとまって。
俺たち戌亥寮はバラバラであり、多くても俺たちのような四人組程度になっている。
なるほど、これが各寮の特色と言う奴なのだろう。
どうしてそうなるかまでは俺には分からないが。
「じゃ、此処でいいな。徳徒たちなんかは……」
「それぞれの寮でいい席を貰っている感じですネ。当然の事ですガ」
席に着いた俺の周囲にスズたちが座っていく。
具体的には左にスズ、右にイチ、後ろにマリーで、前は空席なので、実質的に女子に囲まれているような状態である。
そのせいなのか、何処からか刺さるような視線が飛んできている。
「縁紅さんが睨んでる。徳徒さんたちもだけど、こっちは羨ましいぞって感じ」
「そうだね。あ、ふーん。縁紅さんはナル君に嫉妬している感じか。身の程を知れって感じ」
「スズ。俺の見た目がいいのは事実だが、それは暴言を吐いていい理由にはならないからなー」
「うん分かってる。だから、相手には聞こえないようにする」
視線の元はどうやら徳徒たちと、縁紅……えーと、今年の魔力量三位らしい。
徳徒たちについては、ここ数日毎度の『女子に囲まれて羨ましいぞ』と言いつつも、見る事と煽る事を楽しんでいるだけのそれであり、つまりは気にしなくてもいいものだな。
対する縁紅のは……なんかネチっこくて嫌な感じだな。
俺と縁紅の間に関わりなんてなかったはずなんだが。
「それでは時間となったので、本日の授業を始める。本日は三年生同士での模擬決闘。ルールは通常通りだが、今日は新入生たちの前で行うので、普段よりも礼儀正しく、順序正しくやって、お手本となるような決闘を心がけるように!」
と、時間になったようだ。
三年生のマスカレイド担当らしい教師が声を出している。
「また一年生も、今日の模擬決闘をよく見て、決闘のやり方や流れと言ったものを学んでほしい。また後日、正式なものを座学で学ぶ事になるだろうが、おおよその流れを知っているだけでも、スムーズに学べるようになるはずだ」
そう言えば、決闘の売り方と買い方は麻留田さんから教わったけど、他の部分については教えてもらっていないな。
うん、きちんと見ておこう。
現状の俺にはそこまで決闘をやる気はないけれど、魔力量の都合上、挑まれる可能性がないとは言えないのだから。
「では本日の第一試合を始める。東! 『仮面剥ぎ』ケイオス!」
「『仮面剥ぎ』? ケイオス?」
と、そんな決意を固めていたところ、早速訳の分からない単語と言うか名詞が出て来てしまった。
決闘場所となる舞台の袖に現れたのは戌亥寮の寮長である桂寮長であるのに、その名前は呼ばれていないし、どういう事だ?
うん、こういう知識面で困った時はスズ頼みだな。
と言うわけで、俺はスズの方を向く。
「ナル君が分かっていないようだから説明すると、マスカレイドを用いた決闘では、部外者に決闘者が何処の誰なのか簡単には分からないように別の名前を使う文化があるの。と言っても、現代だとその気になれば簡単に調べられちゃうんだけど……それでも伝統って奴だね」
「ふむふむ。それで?」
「まずはケイオスと言う部分について。これは桂寮長が自分で自分の仮面体に付けた名前。私たちは安定性とか調整の都合でまだだけれど、少なくともデビュー戦の前には、同じように自分で名前を付けることになると思う」
「自分で名前を付けるのか……」
「それで『仮面剥ぎ』ってのは、桂寮長の二つ名だと思う。二つ名と言うのは、仮面体の見た目や戦い方から第三者が名付け、広まり、本人の耳にも届いて、本人が許可をしたら、名乗る事が出来るもの。許可されるかの基準が結構厳しいと聞いているから、桂寮長が実力者なのか、よほど特徴的なんだと思う」
「なるほどな」
どうやらマスカレイドを使う決闘特有の文化であるらしい。
しかし名前と二つ名か……二つ名の方は周囲が勝手に付けてくれたものの中から自分が気に入ったものを名乗る形式のようだから心配は要らないとして、自分で自分の仮面体に名前を付けるのか……。
そっち方面のセンスが俺にあるのか、不安で仕方がないな。
「ナル。この辺りは一般常識だと思うのですガ。テレビで国同士の決闘とかやっていましたよネ?」
「あー。テレビでやっている決闘を見ている時間があるなら、鏡の前でポージングをしている方が楽しくてな……。後、夜遅くまで起きるのは体に良くないから、深夜とかにやっていたら完全に範囲外だ」
「うんうん、実にナル君だね」
「なるほど。それでは仕方がありませんね」
「では知らなくても当然ですネ」
そうして俺たちが話をしている間に周囲から歓声が沸く。
どうやら桂寮長が勝ったらしい。
模擬決闘なので、強いて言えば成績くらいしか賭けられていない試合であるのだけど、それでも自分たちの寮の人間が勝てば盛り上がるようだ。
「となると今日の試合をナル君はきちんと見ておいた方がいいよ。乙判定者の私たちと違って甲判定者であるナル君はデビュー戦が確実にテレビ放映されるから」
「やっぱりそうなるのか?」
「そうなるね。そしてたぶんだけど相手は護国さん。魔力量一位と二位の組み合わせだから、十中八九そうなると思う。そこで流れも分かっていないと、ナル君の見た目が幾ら良くても、色々と言われることになると思う」
「そうか……。じゃあ、真面目に見ないとな」
俺は気づいていなかったのだが、既に俺のデビュー戦が何時何処で誰相手に行われるかはほぼ確定したらしい。
うん、真面目に見よう。
あまり恥をかき過ぎて卑屈になりすぎると、見た目にも悪影響が出かねない。
「では次の試合に移る! 東! 『勝利の騎士』ウィンナイト! 西! 『鋼鉄の巨兵』シュタール!」
「生徒会長と風紀委員長……」
「サプライズな試合ですネ」
「麻留田さんか」
「これは色んな意味で見る価値がありますね」
そうして姿勢を正したところで次の試合の選手が入場する。
片方は黒髪のこれと言って特徴のない男性で、スズ曰く、現生徒会長らしい。
もう片方は鉄色の髪をした少女……麻留田さんで、風紀委員長。
どうやら、実質的に生徒内でのナンバーワンとナンバーツーの決闘となるらしい。
「さて、一年生たちに恥ずかしくない決闘を見せなければならないな」
「その点については同感だな。だが勝つのは私だ」
「いいや、俺だとも」
二人はデバイスへと手をやる。
そして……。
「来い! 『鋼鉄の巨兵』シュタール!」
「展開! 『勝利の騎士』ウィンナイトよ!」
同時に叫び、双方共に光に包まれ、それぞれの仮面体が舞台上に姿を現した。




