218:夏季合宿五日目・白熊 VSクマハクマダクマ
「マスカレイド発動! 魅せろ、ナルキッソス! 『ドレスパワー』発動!」
決闘開始と同時にナルはマスカレイドを発動し、学園女子制服を身に着け、強化プラスチック製の盾を持ったナルキッソスが姿を現す。
身に着けたそれらは既にスキル『ドレスパワー』の影響を受けて、仄かに輝いている。
「マスカレイド発動! クマハクマダクマアアアァァァッ!」
ナルにほんの少しだけ遅れて、熊白の仮面体が姿を現す。
それは体長2メートルに及ぶ白熊……の着ぐるみ。
名前はクマハクマダクマ。
ただし、可愛らしいのは顔の部分だけであり、その両手には太い爪が生え揃い、両足はしっかりと地面と掴んで直立する体を支えている。
「行くぞクマアアァァッ!」
結界が展開されて戦場となった場所は、若良瀬島中央部の森の中でも比較的開けた場所であり、多少の障害物はあれど、身を隠せるようなものは無い場所だった。
その戦場をクマハクマダクマは四足歩行の体勢になると、同サイズの本物の熊よりも目に見えて速いスピードで駆け抜け、ナルの目前で立ち上がるとその右腕をナルの顔に向かって振り抜く。
「っ!?」
対するナルは盾を構えて、クマハクマダクマの爪を真正面から受け止める。
結果、圧倒的な重量差と勢いで以ってナルの体は浮き上がり、全身に衝撃を突き抜けさせながら吹き飛ばされて、その先にある木に叩きつけられる。
「話には聞いていましたが、随分とパワフルで」
「そりゃあそうだくま。クマの仮面体は人よりも優れた身体能力を有する熊の肉体を忠実に模し、余計な機能など付けず、シンプルな肉体の強化を突き詰めたものだくま。並の仮面体なら、一撫でで首から上が吹っ飛ぶくまよ」
ナルの言葉を聞きながら、クマハクマダクマはゆっくりとナルへと近づいていく。
その足取りに油断の色は一切ない。
そうしてある程度距離が詰まったところで再び四足歩行の体勢に入り……。
「さあ、勝てるものなら勝ってみせろくま。叩き潰してやるくまああぁぁぁっ!」
「っう!」
一気にナルへと襲い掛かる。
「くっまああああぁぁぁぁっ!!」
「くっ……」
クマハクマダクマは左右の爪を連続で振るい続ける。
それもただ横に振るのではなく、時に振り下ろし、時に突き、時に振り上げ、時に……掴んで抑え込もうとする。
ナルはそれを腰を落とし、盾をしっかりと構えて受け止めていき、掴まされそうになった時だけは退いて回避していき、クマハクマダクマの攻撃を防ぐ。
「覚えた」
そうして防ぎ続けること暫く。
不意にナルは盾を消して、素手での構えを取る。
「何がだくまぁ!」
対するクマハクマダクマはナルの脳天に向かって爪を振り下ろす。
爪はナルの頭に迫っていき……。
「!?」
「ふんっ!」
その前にクマハクマダクマの腕が掴まれて、体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。
「馬鹿なく……みゃあっ!?」
「おらぁ!」
そして当然のようにクマハクマダクマの顔にナルの蹴りが突き刺さり、倒れた状態からの攻撃を仕掛けようとしたクマハクマダクマを怯ませ、クマハクマダクマが怯んでいる間にナルは距離を取って攻撃の範囲外に逃れる。
「ぐぬぬ……やってくれたなくまぁ!」
クマハクマダクマが再びナルへと襲い掛かる。
「右、左……」
「馬鹿なくま!?」
だが、その爪はナルに当たらない。
正確には脅威になっていない。
弾かれ、いなされ、避けられていき、ナルへのダメージが与えられていない。
クマハクマダクマの全ての攻撃が、適切に対処されていき、通じていない。
「此処だな」
「インチキ投げだくまぁ!?」
そして、クマハクマダクマの攻撃が僅かに止んだタイミングでナルは素早く斜め前に出て、クマハクマダクマの背後を通り抜ける。
ただそれだけで、スキル『P・敵視固定』の効果によって顔の向きを固定されているクマハクマダクマの体は首を折られないために無理やり動かされ、無理な体勢で回され叩きつけられる。
「おっらぁ!」
「くまぁ!?」
そこへナルは盾を持った状態でタックルを放ち、クマハクマダクマに追撃。
毛皮と脂肪で衝撃の大半は吸収されてしまうが、それでも僅かながらにダメージを与える。
「くっ……どうなっているくま。どうしてクマの攻撃が通用しなくなったくま……」
「そうですね。折角なので一つ種明かしをしてしまうと……スキル『ドレスパワー』with学園制服の効果です。具体的には、全体的なステータス上昇と学習能力の強化があります」
「学習能力……クマの攻撃を覚えたって事かくま!?」
「そう言う事です。ちなみに……」
クマハクマダクマはナルの言葉に驚きつつも、三度距離を詰めて攻撃を仕掛ける。
ただし、これまでと違って、右の爪を振り下ろすと見せかけて左の爪を振り上げると言うフェイント攻撃である。
「フェイントをしっかりとフェイントだけ認識出来ますし、これまでにない動きはそうだとすぐ気づけるので警戒が出来ます」
「!?」
それをナルは悠々と避けた上で、攻撃を透かされたクマハクマダクマの脇腹にパンチを打ち込み、それからどのような攻撃が来ても対処できるように距離を取る。
「な、嬲り殺しだくま……勝てないのは元々想定内だったけれど、想定よりも酷いのがきたくま……」
「まあ、嬲り殺しについては諦めてください。学園制服の『ドレスパワー』では、俺の攻撃力を補えるほどじゃないんで。降参してもいいですよ?」
「絶対に降参してやらないくま。こうなれば、クマは嫌がらせも兼ねて、一秒でも長く生き残ってやるくまー!」
その後、クマハクマダクマとナルは、お互い傍目には消極的とも取られるような決闘を展開。
攻撃が通じないクマハクマダクマは十分を優に超える決闘の末に、ナルによって討伐されたのだった。
「ふぅ、ようやくか」
「だがこれで、この近くに居るのはやる気がある奴だけだくま。苦戦するといいくまー……ガクリ」
『勝者、ナルキッソス!』
なお、ナルがクマハクマダクマの攻撃を学習したと言ってもそれは完璧なものでは無く、決着までの間にクマハクマダクマの爪は一度だけナルの顔を掠めた。
が、圧倒的な強度の差で以って、ナルの顔が傷つくことは無かった。
Q:実際の所、熊白先輩ってどれぐらい強いの?
A:現時点での戌亥寮戦闘能力ランキング(スキル無し、仮面体の機能の中でも特殊な物は無し)
1位シュタール、2位ナルキッソス、3位クマハクマダクマ
生身の人間を元にした仮面体と、熊を基にした仮面体では、基本的な膂力が違います。
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