199:夏季合宿三日目・決闘を終えて
「それで、それからのナル君はどうしたの?」
現在の時刻は午後四時ちょっと過ぎ。
後もう少しで今日の決闘実習終了の時間となる。
そんな時間に、スズ、俺、イチ、マリーの四人は、ホープライト号船内にあるカフェに集まって、好きな飲み物を飲んでいた。
ちなみに俺はコーヒーである。
「勝って負けてを繰り返して、ついさっき負けたから、今日は此処で切り上げって感じだな。はー、流石に二年と三年が連合を組んで七人がかりで攻めてくるのは無理」
「それはまた極端だね」
「ナルさんの注目度でそれをされたら、確かに無理ですね」
「ナルから能動的に多数の相手を排除する手段はありませんからね」
で、何を話しているかと言えば、今日の決闘実習の間にどんな決闘をしたのかである。
俺で言えば、最初は麻留田さん、次に諏訪たちと決闘をした。
そしてその後は、俺からは一対一の決闘を積極的に仕掛け、周りの生徒からは乱入有りの決闘を仕掛けられ……最終的には十戦くらいやって、負けは三つと言うところだろうか。
最後の決闘が二年三年連合の実質七対一で、そこで負けたから、最終的なポイントの量としてはそこまでではない。
負けたら半分持っていかれるシステムだから、負けたタイミング次第じゃ取り返す時間が無いんだよな。
ちなみにもう一つの負けも乱入有りの決闘。
やはり七対一は厳しい。
攻撃を誤射させたり、転ばせたり、そっちを倒した方が美味しいぞと促したんだけどな……。
七人の側も他の七人を利用できるだけ利用して、最終的に使い捨てる事をよく理解していた為、俺を攻撃するために他のメンバーを巻き込めるならむしろ儲けものって感じに仕掛けてきたのだ。
そうなると諏訪たちに比べて攻撃の威力が段違いに高くて、流石の俺でも削り切られてしまった。
いい感じに同士討ちさせられれば、勝てるんだけどな。
実際に諏訪たち以外でも一回勝ったし。
「後、一対一の決闘の申請の20メートル制限って地味にきついな。申請する前に逃げられる」
「あー、ナル君だとそうなるよね……」
「挑まれたラ、ほぼ負けが確定ですからネ……。ナルの姿が見えているなラ、逃げますよネ」
「イチもそれは逃げますね」
一対一の決闘については全勝。
ただ、どれも五分以上かかったので、効率が良いとは言い難かった。
おまけに俺が近づくと一部の生徒たちは全力で逃げたり、酷い時には近くに居た生徒同士で突然決闘を始めたりで、決闘を申請する事自体が中々出来なかった。
そして待っているとやってくるのは乱入有りの多人数戦なので……明日以降の為に、何かしらの対策は考えておくべきだろう。
「それでスズたちは?」
「私は二回負けたね。どっちも一対一で速攻型だった上に、初動が遅れてどうしようもなかった感じ。後、乱入有りの方が私にとってはやりやすかったかな」
「ああ、毒ガス……」
「決闘のフィールド全域を埋め尽くす毒ガスですカ……」
「それはどうしようもありませんね。分かっていた事ですけど」
「うん、毒ガス。爆発物とか、毒液でもいいけどね。要するに、私に被害が出ないようにした上で、結界内の全域を対象とした攻撃をすれば、簡単に終わったね」
スズに関しては……まあ、ありありとその光景が思い浮かぶな。
どう考えても乱入有りのルールとスズの攻撃範囲は相性が良すぎる。
ただ、スズの表情からして、明日からはそう上手くいかないだろうと考えているのも分かる。
実際、この情報が広まったなら、スズが居る多人数決闘では、まずはスズを狙う事がスズ以外の全員の共通認識になってしまうだろうし、そうなったら俺より耐久力の低いスズでは、対応に苦慮する事だろう。
「マリーは?」
「今回のマリーは省エネスタイルですかラ、五戦二勝でお終いでス。明日以降も予定通りにのんびりさせてもらいますネ」
「そうだね。マリーはそれでいいと思う」
「はい。無理に戦う必要は無いと思います」
マリーは省エネスタイル……つまりは『蓄財』で作ったコインを使わない戦い方であるため、成績はそこまででもないようだ。
うん、マリーはそれでいいと思う。
「で、最後にイチは?」
「イチは少々特殊な稼ぎ方をしましたので、十戦十勝ですね。ポイントの方も100ポイントを超えています」
「100!? ああうん、えーと、おめでとう」
「流石はイチだね。これならトップ5入りかな?」
「ですネ。おめでとうございまス」
「ありがとうございます」
で、最後にイチだが……どうやら、俺たち四人の中では、イチが今日一番稼いだらしい。
どうやったのかは分からないが、100ポイント以上稼いでいるようだ。
そして、スズ曰く、所持ポイントが100ポイントを超えれば、トップ5入りも十分に見えてくるようだ。
その辺の理屈はよく分からなかったが……0ポイントになるまで決闘に挑む人は限られているし、俺と同じように負けたタイミングで切り上げて所持ポイントの確定をさせてしまう人はそれなりに居るとかで、100ポイントと言うのは一つのラインになるらしい。
「しかしこうなると、イチも明日からは俺やスズと同じように警戒される側か?」
「そうですね。乱入有りの決闘をする人たちが、イチの事を認識できているのなら、そうなると思います」
「あ、あー……なるほど」
なんとなくだが、イチがどうやってポイントを稼いだのかが分かった気がする。
俺が思っている通りの稼ぎ方だとすれば……明日以降もイチはポイントを荒稼ぎするだろう。
一対一と、八人集まっての多人数戦では、後者の方が得られるポイント自体は多いのだから。
基礎的な技術まで考えたら、たぶん対策もほぼ無理だ。
「時間だね。イチ、順位は?」
「一位だそうです。そうですね、今日の所は夕飯のランクアップをさせていただきます」
午後五時になって、今日の決闘実習が終わった。
具体的な獲得ポイント数は示されていないが、一位はイチだったようだ。
その画面を見たイチは、誰の目で見ても分かるくらいに笑みを浮かべていた。
ちなみにイチ一人で200ポイント以上持って行っています。
場全体で見ても2250ポイントしかないのに。