195:夏季合宿三日目・デモンストレーション VSシュタール-後編
「行くぞ、ナルキッソス!」
シュタールは両足裏のローラーを全力で稼働させると、ナルに向かって突っ込んでいく。
最初は砂煙を、続けて海水を巻き上げ、かき分けながら、進んでいく。
海水と砂地の影響もあって、その速さは通常の舞台での移動速度に比べれば遅いが、それでも普通の仮面体が全速力で駆けるのと同じ程度には動けている。
「っ!」
だがナルはそんなシュタールの突進を難なく避ける。
それはスキル『ドレスパワー』と水着の組み合わせによって生じるバフに、水場での行動を補助して動きやすくするものが含まれているからだ。
「今だ!」
そうしてシュタールはナルが居た場所を通り抜け、ナルに背後を向ける。
それを見たナルは直ぐに拳を握り締め、シュタールに向かって駆け出す。
狙いはシュタールの背中。
そこを殴りつけ、バフの効果によって吹き飛ばし、今よりも更に海の方に向かってシュタールを弾き飛ばすことによって、水辺であるが故の動きづらさを増やすのが目的である。
「『アディショナルアーマメント』」
そんなナルに対して、シュタールは左右の足裏のローラーをそれぞれに逆回転させて超信地旋回。
ナルが辿り着くよりも早くに、ナルの方を向こうとする。
だが、そこまではナルにとっても想定の範囲内。
ナルにとって想定外だったのは……。
「ドリル!?」
「ドリルだ」
シュタールの手に円錐形の切っ先を持つドリルが握られており、しかも既に触れればどうなるかが容易に想像できるレベルで回転していた事である。
「おらぁ!」
「ヤバッ……」
ナルは攻撃を諦めると、咄嗟に自分の目の前に強化プラスチック製の盾を生み出して構える。
そこへシュタールのドリルが突き刺さる。
拮抗は一瞬。
盾は防ぐ物堅い物、ドリルは掘削するもの。
直ぐにナルの盾にドリルは突き刺さる。
そして、構えられた盾はナルが固定をしていて、突き刺さりつつ回転するドリルはシュタールが抑え込んでいる。
この場合の回転の力は何処へ行くのか。
膂力はシュタールの方が上で、重量も同様。
であれば必然、その回転の力は紙切れのようにバラバラに出来ないぐらいに堅いからこそ、盾を通じてナルへと伝わり始める。
だからナルは回転に巻き込まれ始める前に盾を手放し、手放したことで盾が消え始めるのを認識しつつ、斜め後ろに向かって跳躍する。
そこはシュタールが腕を払っても届かない位置。
普通なら、攻撃に合わせて腕と同じ方向の足を前に出しているので、更なる踏み込みも行えない位置。
「その程度で避けられるとでも?」
「うおおおっ!?」
が、シュタールの水平方向への移動は足裏のローラー次第。
ナルの回避を見たシュタールは直ぐにローラーを動かして、逃げようとするナルに追従するように自分の体をスライドさせてくる。
その事に気づいたナルはさらにバックステップを重ねて逃げていき、最終的にはドリルの薙ぎ払いを皮膚が多少削られる事と引き換えに避け切って、距離を取る。
「『フルバースト』」
「げっ……」
そうして少しだけ距離を取ったナルに向かってシュタールは追撃を重ねる。
『フルバースト』によって放たれた砲弾をナルは盾で真正面から受け止め、生じた爆発によってナルは浜辺にまで吹き飛ばされる。
「ふんっ!」
「うおっ!?」
シュタールが檻ヌンチャクを投擲。
檻の入り口は開け放たれていて、囚われればどうなるかをナルは嫌と言うほどに知っている。
だからナルは体勢を整える暇もなく跳躍をして、檻を避ける。
檻が浜辺に着弾し、金属音を響かせる。
「『リターンウェポン』」
「!?」
この時、シュタール、ナル、シュタールの檻は一直線上に並んでいた。
そうなるように、ナルの回避方向を先読みしたシュタールが動いていた。
『リターンウェポン』の効果によってシュタールの檻がシュタールの手元へと戻っていく。
その途中に居たナルを檻の中へと捕えながら。
「ま……ず……ーーーーー~~~~~!?」
ナルは直ぐに全身に魔力を漲らせ、肉体と衣服を強化し、少しでもこの後の攻撃によるダメージを抑えようとする。
そんなナルへと襲い掛かったのは強烈と言う言葉すら生温い遠心力。
シュタールが手に持ったドリルと、ナルが入っていない方の檻を繋げた上で、ドリルを全力で回転させたのだ。
遠心力によって檻に体を押し付けられ、目まぐるしい視界の変化に状況を知覚することなど出来ず、こうなってはナルに出来る事はひたすらに耐える事だけだった。
「『エンチャントバースト』『フルバースト』」
そんなナルの抵抗をあざ笑うかのようにシュタールは超信地旋回、腕の回転、ドリルの回転、その全ての回転を檻の先へと集めて勢いを増し、『エンチャントバースト』によって不穏なオーラがナルの居る檻へと宿り、『フルバースト』の前段階である力の結集が砲塔に対して起こる。
そして……叩きつけた。
全ての回転の勢いを一切緩めることなく全力でナルが入った檻が海面とその下にある砂地へと叩きつけられる。
『エンチャントバースト』によって、叩きつけられた檻が爆砕し、破片となってナルへと襲い掛かる。
その爆発を上から抑え込むように『フルバースト』の砲弾が叩きつけられる。
「「「ーーーーー~~~~~!?」」」
結果は爆発。
結界の天井に優に到達し、結界全体を揺るがし、煙が立ち込めて中の様子は伺えなくなる。
その光景に観客は歓声とも悲鳴ともつかない声を上げる。
「悪いなナルキッソス。将来的にどうなるかは分からないが、修練、デバイス、スキル、知識、経験、そのいずれも足りていないお前に負けるほど、私は低い壁じゃない」
やがて煙が晴れ、その中から出てきたのはシュタール。
そして、結界内の中心と結界そのものに文字が現れる。
『勝者、『鋼鉄の巨兵』シュタール』
それはシュタールの勝利とナルキッソスの敗北を示す文面に他ならなかった。
Q:麻留田さん強すぎない?
A:弱いと思っていたんです? 麻留田さんは学生トップ2の片割れで、ナル君まだまだなので、こんなものです。相性の悪さも勿論ありますが。
ちなみにですが、戦闘能力としては、
ナル一人<『パンキッシュクリエイト』小隊<麻留田=生徒会長<全盛期の護国パパなどトッププロ
となります。




