192:夏季合宿二日目・決闘のルール説明
『さて、そろそろ頃合いか』
夕食中、食堂内に設置されているスピーカーから、桂寮長の声が響き始める。
その声を聴いて、俺は明日以降の説明が始まると判断して、食事の手を一度止める。
周りの生徒たちも俺と同様で、食事の手を止め、会話を止め、スピーカーかモニターかスマホに注目し始める。
『それではこれから夏季合宿三日目から五日目にかけて、毎日朝八時から夕方五時までのスケジュールで行われる決闘実習と、それに付随する特別なルールについて説明する。詳細は既に『マスッター』の方へ上げてあるので、食事の手などは止めなくても構わないが、周囲の邪魔をしないようには努めて欲しい』
スズがスマホを確認している。
表示されているのは夏季合宿について色々と記載されているページなのだが、そこには確かに、決闘実習について、と言うページが追加されているようだ。
まあ、俺はとりあえず話を聞くことに専念しよう。
『では説明を始める』
さて、桂寮長によればだ。
決闘の基本的なルールは変わらない。
よって、結界の中でマスカレイドを発動して最後まで立っていた一人が勝者となる事も変わらない。
敗者は『ホープライト号』の自室のベッド上に転移させられるので、ベッドの上に余計なものは置いておかない事。
『ここからが重要な事だ。明日からの三日間、若良瀬島の島内では、特定の言葉を唱える事によって、何時でも何処でも誰に対しても決闘を挑む事が出来る。そして、挑まれた側が受諾すれば、その場で決闘が始まるようになっている』
具体的には『デュエル、スタンバイ』の掛け声と共に、20メートル以内に居る自分以外の人間を指さすと、決闘の申し込みが出来るらしい。
そして、申し込みはされた側は『デュエル、アクセプト』と言うか、何もしない事で受託。
拒否する場合は『ノー、デュエル』と言う事で拒否できる……そうだが、拒否するためには幾つかの条件を満たす必要があるらしい。
なお、決闘をするフィールドは参加者を焦点として、普段の決闘の舞台と同じくらいの広さになるように楕円状の結界が張られるらしい。
そして、結界の中に存在している植物や地形は、押し退ける事は出来ても破壊は出来ないそうだ。
決闘学園、最新の結界テクノロジー……らしい。
『そして、戌亥寮では追加ルールとして、申し込みの際に『ブラウル、デュエル、スタンバイ』とした場合、挑まれた側が受諾してから30秒以内に結界に触れたものが『デュエル、アクセプト』と唱えれば、その決闘に最大で六名まで乱入する事が出来る』
なるほど。
つまり、申し込んだ側、申し込まれた側、乱入する側、合わせて八人で決闘をする事が可能な訳か。
あー、諏訪が狙っていたのがこれかな?
特定の誰かを狙って七人で結託して袋叩き。
とは言え、その誰かが倒された後には、残った七人で最後の一人になるまで決闘をする事になるので、そこまで受け入れたメンバーでなければ、集まる事は出来ないか。
『と、ここまでが決闘実習そのものについての話になる。そして此処からが、お前たちにやる気を出させるための話になる』
「ん? まだあるのか?」
「あるのかと言うより、此処からが本番かな」
「ですネ。此処までは事前に調べられましたのデ」
「さて、何が出て来ますかね?」
まだ話は続くらしい。
そして、スズたちだけでなく、周りの生徒たちも心なしかソワソワとしているように見える。
『決闘実習の期間中、参加者には毎日10ポイントが与えられる。決闘の勝者は、敗者が持っていたポイントの半分を小数点以下切り上げの形で奪う事が出来る。そして、その日の決闘実習の時間が終了した際に所有するポイントが多かった上位五名には……』
モニターの映像が切り替わる。
見るからに美味しそうなステーキに、大きいだけでなく身がしっかりと詰まったカニに、奇麗なサシが入ったトロの寿司に、新鮮で瑞々しい野菜で作られたサラダに、明らかに手の込んでいるスープや小皿の料理に。
そう、素人目で見ても高級料理だと断言できる食事に。
『その日の夕食を大幅にランクアップする事が許される!』
「「「ーーーーー!!」」」
桂寮長の言葉と共に、主に男性陣から野太い叫び声が上がる。
逆にスズたち女性陣は……なんか一気にスンッとした感じになってしまったな。
まあ、俺もそうだけど、高級料理は食べたいけれど、暴飲暴食が出来る権利は求めていないだろうしなぁ……。
『もちろん、料理についてはどうでもいいものも居るだろう。と言うわけで、他にも金一封や香水などの化粧品なども用意されているし、これらに相当する程度であれば交渉も受け付ける。よって、自分が求めるものがあるかを確認した上で、実習に励んでもらいたい』
「「「ーーーーー!!」」」
あ、スズたちにも欲しいものがあったらしい。
なんかやる気を見せ始めた。
俺? うーん、俺はなぁ……。
まあ、取れた時に考えればいいか。
『だが、欲しいものがあるからと引き際を見誤り、負け続け、0ポイントになってしまった者には罰もある。それがこれ、栄養価的には何の問題もなく、飲めないほどではないのだけれど、とにかく不味いと評判の栄養ジュースだ』
「「「……!?」」」
モニターの映像が切り替わる。
とても美味しそうな料理たちから、何とも微妙な……いろんな色が混じっているけれど、一応灰色に近いっぽい感じのジュースになる。
うん、色からして、不味そうな感じだ。
まあ、初期10ポイントで、それから負けるごとに半分ずつ支払っていく形式なので、負け続けても10→5→2→1→0と減っていくはず。
つまり四連敗しなければ問題は無いわけだ。
決闘が許可されているのが若良瀬島の島内だけで、俺たちが今居るホープライト号は許可の範囲外なのも合わせて考えれば、三連敗した時点で船内で大人しく頭を冷やしていれば、あのジュースは避けられると言う事になる。
うん、何も問題は無いな。
ちなみに0ポイントになった時点で決闘に賭けられるものが無くなってしまうので、0ポイントになった人は、その時点でその日の決闘実習が強制終了になるそうだ。
『それでは各自の健闘を祈る。俺に挑んで来たら容赦なくぶっ飛ばすがな』
そうして桂寮長の説明は終わったのだった。
うーんまあ、最終結論としてはアレだな。
全員ぶっ飛ばして、最後まで立っていれば勝ち。
俺の立ち位置ならこれでいい。
brawl=喧嘩
Q:決闘を拒否する条件って?
A:二通り存在します。
1:所有ポイントが9以下かつ、その日の残り時間に他の人へ決闘の申請をする権利を放棄する事。(乱入は可能)
2:前の決闘終了から10分以内である事(勝利している場合も含む)。
このどちらかの条件を満たしているなら、拒否する事が許されます。
好きな奴とだけ、弱っている奴とだけ、戦いたいなんてことは許されないって事ですね。




