188:夏季合宿二日目・決闘の約束
「ある程度は撮れたな」
「そうだね。これなら六日目に撮影が出来なくても大丈夫だと思う」
「でも出来れバ、六日も撮影したいですネ。もっといい写真が撮れるかもしれませんかラ」
「そうですね。可能性がある以上は試したいです」
水着の写真撮影とスキル『ドレスパワー』の検証を一先ず終えた俺たちは、足元に水が無い場所まで戻ったところでマスカレイドを解除する。
この後は他に良い撮影ポイントが無いかの確認と、明日以降の決闘で戦う際に何処で行うのがよいのかの下見……つまりは、ほぼ他の生徒と変わらない動きになる予定だ。
「お前ら、撮影は終わったみたいだな」
「麻留田さん。はい、俺たちの撮影は無事に終わりました」
と、ここで浜辺の様子を窺っていた麻留田さんが近づいてくる。
どうやら、何か話があるようだ。
「それで用事は何ですか? 麻留田さんがわざわざ話しかけてきたと言う事は、何かあるって事ですよね?」
「ああ、その通りだ。そうだな……単刀直入に言ってしまうか」
麻留田さんは一度スズたちの方を向く。
それに対してスズたちは小さく頷くだけで、止めたりする様子は見られない。
どうやら、どんな話になるかの予想がスズたちには付いているらしい。
なのに俺が分かっていないとなると……決闘関係か。
「翠川。明日の朝一番、決闘実習が始まり次第、此処で決闘をしよう」
やはり決闘関係だった。
そして、麻留田さんとの決闘か……。
「理由は聞いても良いですか? 戦いたい気持ちはありますけど、どうしてなのかは知りたいので」
「いいだろう」
多少長めの話になりそうなので、俺たちは木陰へと移動し、そこでヤシに似た木に背中を預けながら話をする。
「大きなところとしては、単純に良い機会だから、だな。私は三年生で、翠川は一年だ。翠川の実力なら冬ごろには三年生との決闘も正式に組まれるかもしれないが、そこで私が相手に選ばれるとも限らない。だから、ここで一度戦っておきたい」
「なるほど」
確かに麻留田さんと俺が正式に決闘する機会は、どちらかが決闘を仕掛けない限りは、麻留田さんの在学中は無さそうに思えるな。
そして、決闘を仕掛けようと思っても、俺から仕掛ける理由はちょっと思いつかないし、麻留田さんから仕掛けるのも風紀委員長と言う立場を考えると、ちょっと無いように思える。
それこそ、今回の合宿のように戦いたいから決闘をする、が出来る立場でないと、確かに機会は無さそうだ。
「ではリベンジマッチですね」
「私としてはあの時のは勘定に入れても意味が無いと思うところだが、お前がそのつもりなら、別にそれでも構わないぞ」
前回はマスカレイドを覚えた直後の決闘で、盾すらなかった頃だったからなぁ……確かに勘定に入れても意味が無いように思えるほど、今とは俺の状態が違う。
が、それでも負けは負けであるので、リベンジマッチであることに変わりは無いだろう。
「それで麻留田風紀委員長、他にも理由があるんですよね?」
「ああ、水園の言う通り、他にも理由がある。簡単に言えば序列付けだな」
「?」
ただ、他にも理由はあるらしい。
スズの言葉に麻留田さんが頷く。
「夏季合宿は寮ごとに分かれて行われるイベントであり、明日からの三日間は決闘三昧になる。となると、毎年どうしても出て来る話題に、寮で最強なのは誰か、と言うものがあってだな……」
「はぁ……?」
そう言う麻留田さんの顔色は、馬鹿らしいものを見るような顔としか言いようがないものだった。
「それで誰それが最強だと言うのは自由だ。自分が最強だと名乗るのも自由だ。だがどうしてか、お前が応援しているアイツより、俺が応援しているコイツの方が強いと言って、口論が起き、喧嘩が起き、いっそ決闘でもしてと思うが、決着を付けさせるには当人たちではなく別の人物が必要だしと……まあ、去年もそうだったが、例年面倒な事態が起きるのが通例になっている」
「あー……なんとなく話が見えてきました」
「ああそうだ。そして今年の戌亥寮に限っては誰が槍玉に挙げられるかは明白。ほぼ間違いなく私と翠川だ」
「デスヨネー」
うん、実際、麻留田さんと俺にとっては馬鹿らしいことこの上ない話であった。
なんで俺の名前を出して喧嘩するのって言いたくなる奴だ、これ。
でも、俺と麻留田さんの名前が出るのは分かる。
俺も麻留田さんも魔力量甲判定組で、しかも甲判定組の中でも特に魔力が多い方だ。
で、俺は表に出ている範囲では負けなし。
対する麻留田さんもだいたいの決闘に勝っていると聞いているし、風紀委員会の委員長として、その実力は決闘学園の生徒なら良く知っている。
なるほど確かに、どちらの方がより強いのかは、色んな人の興味を引く話ではあるのだろう。
「と言うわけで、そんな話題を出されないように、早々に決闘をしてしまう。ああ当然だが、お互いに全力を尽くして戦うぞ。温い戦いをしたら、それこそ騒動の種になるからな」
「それもそうでしょうね。でも分かりました。そう言う事なら、明日、全力で麻留田さんと決闘をさせていただきます」
「ああ、よろしく頼む」
なんにせよだ。
俺と麻留田さんが決闘をする事に変わりはない。
だったら、俺は全力で戦えばいい。
ただそれだけの話だ。
「ちなみにスズやマリーが話題に出ることは無いんですか?」
「無くはない。が、どちらも全力には相応の代償が必要なタイプだろう? こんな下らない事で、全力を出させるなど、間違っても頼めるか。話題に出たとしても、そこから詰めて、凹ませる事くらいは出来る」
「なるほど」
なお、スズやマリーが話題に出た時は、論で詰められるらしい。
だからこそ、論では詰められない俺は戦っておいた方がいいようだが。
「では俺たちはこれで。明日はよろしくお願いします」
「ああ、明日はよろしく頼む」
そうして俺と麻留田さんは明日の朝一で決闘する事に決定した。
さて、どうやって戦ったものだろうな?
俺はスズたちと一緒に森の中へと足を進みつつ、考え始めた。




