175:夏季合宿の向かう先
「では~。先生たちは去りましたが~、この場でお互いの夏季合宿について~最低限でもいいから出し合っておきましょうか~」
ミーティング終了後。
普段と違って誰も教室から去ることは無く、羊歌さんの言葉を皮切りとして、自然と夏季合宿についての情報交換を行う事となった。
で、擦り合わせた結果を少しずつ言葉にしていく。
「期間はどの寮も8月1日から8月7日まで。ただ、出発時刻や到着時刻は寮ごとに異なるようだね」
「そりゃあ、そうだろ。これだけの人数が一斉に移動する上に、向かう先も違うんだ。分けないと混雑する処の話じゃない」
とりあえず期間中は最初から最後まで寮ごとに行動する事になって、他の寮の生徒との接触は電話やメールなどでのやり取りを除けば無くなるようだ。
吉備津が黒板に表の形式で集合時刻と出発時刻を書き出し、結構差があるそれに縁紅がツッコミを入れている。
「細かい日程については一日目の移動途中に発表。その他細かい決まりごとについても同様に合宿中に発表って、ボクとしては変わってるように思うんだけど」
「アタシもその点については同意。サプライズ狙いかなんかか? まあ、どういう日程にしても、先生方が組んでいるから、無茶な日程にはなっていないだろうけど」
夏季合宿が始まる前に準備しておくべきものについては記されている。
まあ、普通に着替えやマスカレイド用のデバイス、その他個人的に必要な物を持っていくようにと言う話なのだけど。
しかし、瓶井さんと大漁さんが言っている通り、細かい日程は先生たちが決めているらしく、現時点では不明になっている。
「問題は行先だな。子牛寮は学園保有の街型決闘施設と、そこに隣接するように建てられた温泉付きの旅館って書いてあるな」
「私たち虎卯寮は学園保有のプライベートビーチ付きのホテルになっていますね。どうやらビーチ部分が大規模な決闘施設になっているようです」
「オレたち申酉寮は山の中のキャンプ場? みたいなところに宿泊するらしい。近くに廃村風の決闘施設があるってさ」
「えーと、戌亥寮は南の島を丸ごと一つ貸し切っていて、宿泊は大型客船らしい」
縁紅、護国さん、徳徒、俺の順番で合宿で向かう先を口にする。
で、向かう先が明らかになったところで……遠坂が口にする。
「なんか随分と差があるように思うんだが。ワイの気のせいじゃないよな?」
寮ごとの差が著しいと。
そして、それは正しい認識だろう。
決闘について学び、鍛錬するための夏季合宿であるため、どこの向かう先でも学園が保有している決闘のための施設がある事は当然だ。
また、普段の決闘学園では出来ないような決闘をするための機会でもあるので、野外や市街地で決闘をするのも分かる。
決闘でそれらの地形に被害が出るのは技術で何とかしているだろうから、この点については俺たちは気にしなくていい事だろう。
だからまあ、この辺は良い。
問題はだ。
「南の島かぁ。ちょっと行ってみたかったね」
「温泉なんて羨ましいなぁ。ゆっくりと練習の疲れを癒せそう」
「プライベートビーチ付きリゾートとかセレブじゃないっすか!」
「キャンプかぁ……テントを建ててとか、楽しそうだな」
メリットの方向性に随分と差があると言う事である。
吉備津、瓶井さん、曲家、俺がそれぞれに思わず呟いてしまう程度には。
「それで羊歌、水園。アンタたち二人に、どうしてこんな事になっているのかを尋ねてもいいか?」
大漁さんが羊歌さんとスズの二人に尋ねる。
どうしてそこで、この二人に話を振るのかって?
そりゃあ、この場に居るメンバーで最も詳しいのはそこの二人だろうから、当然の事だろう。
「場所についてはただの順番だそうですね~。四つの場所を四つの寮でグルグル~っと回しているそうです。高校生活は三年なので、何処か一か所は行けないですが~、そこに行きたいのなら~卒業後に個人で行ってもらう事になりますね~」
場所についてはただの順番なのか。
なるほど、つまり来年はまた別の場所へ向かう事になるのか。
「メリットデメリットの差についても学びの為みたい。メリットの方は日本の中でも上の方の品質にあるものを教えることで、卒業後に自力でそういう物を得られるように意欲を沸かせる。デメリットの方は敢えて不便にすることで、普段から使える物のありがたみを知って決闘者としての意識を高める。そう言う理由付けがあるみたい」
「デメリット?」
「うーん、詳しく話してもいいけど……現地で経験した方が大事だと思うから、知りたいのなら自分で調べて。サークルや委員会に各寮の先輩も居るだろうから、話を聞いてみればいいと思うよ」
なるほど、ちゃんとその場所を選んだ目的のようなものがあるのか。
いやしかし、メリットだけでなくデメリットもある?
どう言う事なのだろうか?
とりあえずスズには詳しく教えるつもりはないようだし、羊歌さんもスズと同調するように微笑んでいるだけで話す気はないようだ。
「なるほど。父から話を聞いていたアレですか」
「ああ、そう言う事なんだね……」
なお、護国さんと吉備津は家の都合で知っている模様。
そして、直に経験するか、個別に話した方がいいと判断してか、この場で話す気はないらしい。
「なんにせよ~。何処へ行くにしても~目的はマスカレイドの修練ですので~。その事を忘れないように準備をしていきましょうね~。現地に着いてから~必要な物を買い揃えようとしたら~高くつきますよ~」
「うんそうだね。それだけは確かだから、『マスッター』で持ってくるように示された物はちゃんと持って行った方がいいと思うよ」
こうして情報交換は終わった。
とりあえず、きちんと準備は整えた方がいいらしい。
行先まとめ
子牛寮:温泉(なお他の観光場所は無い)
虎卯寮:リゾートホテル(なお物価は高い)
申酉寮:キャンプ場(なお虫は多いし、廃村はホラー)
戌亥寮:南の島(なお街が無いので……)
なおの後がデメリット部分と言う事ですね。ではナルたちが行く南の島は……。




