174:夏季休暇前のミーティング
「今日もまた集まりが良くて大変結構。では……あー、一部は元気がないようだが、ミーティングを始めるとしよう」
本日は2024年7月22日月曜日。
今は午後のミーティングの時間である。
と言うわけで、いつもの部屋にいつもの面子が集まって、味鳥先生の言葉と共に、いつものようにミーティングが始まる。
「さて、諸君らも知っての通り、国立決闘学園はこのミーティングが終わり次第、一学期終了となり、夏季休暇に突入する。二学期の開始は……カレンダーの都合上、9月2日の月曜日からになるな」
味鳥先生の言葉に全員が少しだけ頷く。
ただし、その表情は休みに浮かれているものでは無い。
何故かって?
「が、しかしだ。諸君らは決闘学園の生徒であり、決闘者の雛である。決闘者ならば、何時決闘を望まれてもよいように備えるのは当然の事。また、鍛錬と言うのは日々の積み重ねがあってこそのものであり、休暇であるからと過剰に休んでしまえば、実力の維持どころか衰えることになるだろう。そう言うわけで……樽井先生」
「……。はい、こちらをどうぞ。決闘学園では夏季休暇中でも生徒の皆さんをサポートできる体制を整えており、施設の貸し出しなどを受け付けています。相談も勿論受け付けていますし、寮の食事や清掃も継続しています。なので、これまでは座学に費やしていた時間も、夏季休暇中に限ってはマスカレイドの鍛錬の為に使える事でしょう」
決闘学園の生徒に休みなんてものはないからだ。
と言うのは流石に過言ではあるが、夏休み中だからと言ってただ怠けている訳にもいかないのである。
多少極端な話になるが、夏休み一か月かけて鍛錬をした人間と、何もしなかった人間、元が同程度の実力であるならば、どちらの方がより優れた決闘者になるかは考えるまでも無いだろう。
それこそ、九月に入ってすぐの決闘で明確な差が生じるぐらいには。
そんなわけなので、学園側も生徒の要望に応じる形できちんとサポートしてくれる。
具体的な内容については、樽井先生の操作によって表示された画面に出ているのだが、座学が無い分を埋めるように普段よりも手厚い印象すら受けるな。
ちなみにだが、里帰りなどで学園の外に出る場合には、事前に申請をしておくようにとも書かれてある。
俺は家に帰るのを……どうしようかなぁ?
なんか、帰らなくてもいい気がするし、両親も無理に帰ってこなくてもいいぞと言ってきそう気がするな。
「そう言うわけなので、夏季休暇中も生徒諸君はほどほどに研鑽を積んで欲しい」
「……。そうですね。ほどほどにです。間違っても、教師に相談もなく倒れるまで特訓と言った無理な事はしないように」
なお、ここで怠ける事ではなく、やり過ぎる事を警戒する辺りに、このミーティングに集まっている面々の方向性が窺える。
「さて、そんな夏季休暇であるが、一部の者が関係するイベントと全員が関係するイベントが存在している。前者は補習授業。後者は夏季合宿だな」
「うっ……」
「あー……」
「コケー……」
「すっすー……」
味鳥先生の補習授業と言う言葉に、俺、徳徒、遠坂、曲家の四人から声が漏れる。
と同時に、俺は若干遠い目を浮かべてしまう。
「補習授業については、この場に居る該当者は自分がそうだと理解しているようだな。詳細については『マスッター』で各自確認しておくように。学が無くて困るのはこれまでの授業や決闘でも感じていると思うので、しっかりと学ぶように」
「はい……」
「うっす……」
「ゴゲー……」
「了解っすー……」
はい、改めて言うまでもなく、この場における該当者とは俺たち四人の事である。
なお、ミーティング前に『マスッター』で確認した感じ、夏休み一週間ぐらいを使って、個別授業で一気に詰め込むようだ。
逆に言えば、個別授業で済ませてしまえる程度には補習授業に該当する人間は少ないらしい。
流石は決闘学園の生徒たちと言うべきなのだろうか?
「ではもう一つのイベント。夏季合宿について。樽井先生」
「……。はい、味鳥先生」
画面が切り替わり、夏季合宿と言うタイトルに並べる形で、楽しそうに遊んでいる子供の図が表示される。
「夏季合宿は国立決闘学園の夏季休暇中に毎年行われている全校生徒参加のイベントである。今年の場合、期間は8月1日から8月7日までの一週間。寮ごとに分かれて、学園の外にある専用の施設に移動。それぞれの場所で、特殊な環境での決闘を行う事になる」
「……。ですが決闘だけではありません。何処に行くかは寮ごとに異なりますが、観光や食事を楽しむ時間もありますので、夏季休暇中の思い出になる事は間違いない事でしょう」
「おおー」
味鳥先生と樽井先生の言葉に俺は思わず小声を漏らしてしまう。
が、そんな俺の言葉を咎めるように、俺の両隣に座るスズと護国さんが呟く。
「まあ、方向性はともかく思い出になる事は間違いないだろうね」
「そうですね。何処へ行くか次第ではありますが、どちらにせよ記憶には残るでしょう」
「え……」
どうやら、この夏季合宿には何かあるらしい。
二人の表情が微妙に険しいと言うか、何かを懸念するようなものになっている。
「それぞれの寮の向かう先や準備については『マスッター』で事前に確認しておくように」
「……。なお、皆さんが夏季合宿に向かっている間に学園内では一斉メンテナンス及び清掃が行われますので、各自整理整頓はしっかりとしておくようにお願いします」
いったい夏季合宿に何があると言うのだろうか?
まさかとは思うが、人跡未踏の地にでも放り込まれる……のは流石に無いか。
決闘学園は学園なんだしな。
「それでは本日のミーティングを終了とする。各自、夏季休暇中もほどほどに励むように。またこのメンバーで揃って二学期を迎えられるように先生は祈っているぞ。では、解散!」
そうして、この日のミーティングは終わるのだった。
そして、後にこの時の事を振り返って思う。
スズと護国さんが夏季合宿の内容について懸念をするのも当然の事だったなと。




