173:ゴールドケイン家の歴史
「「「カンパーイ!」」」
本日は7月18日。
マリーの誕生日である。
と言うわけで、俺たちはサークル『ナルキッソスクラブ』の応接室に装飾を施すと共に、護国さん、羊歌さん、大漁さん、瓶井さん、獅子鷲さん、その他マリーの個人的な友人たちを招いて、放課後の時間を利用して誕生日パーティーを行っている。
「マリー、誕生日おめでとう」
「ありがとうございまス。みんなに祝ってもらえテ、マリーはとても嬉しいでス」
うん、流石はマリーと言う他ないな。
俺は名前も顔も知らなかった友人が何人も居て、その全員から祝ってもらえている。
一年生の甲判定組女子も全員集まっているし、そうそうない誕生日パーティーになっているように思えるな。
ちなみに、今日この場に居る男子は俺の他は、獅子鷲さんの付き添いと言う事でやってきた諏訪さんだけである。
よって、俺と諏訪さんは部屋の端っこの方で、壁の花ならぬ壁の草になっているような状況だ。
いっそのこと、俺はマスカレイドをしていた方が楽なんじゃないかと思ったりもするが……それをすると現状でも居心地悪そうにしている諏訪さんがいよいよもって死ぬと思うので、壁の草になっておこう。
「ふふフ、そうですネ。あの時ハ……」
とりあえずマリーが楽しそうにしているんだから、それでいいんじゃないかな?
うん、そう、それでいいのだ。
「……」
壁の草になり、楽しそうにしているマリーの横顔を見てふと思い出したのは、ボロボロだった期末テストも終わって時間が出来たと言う事で聞いたゴールドケイン家のここ数十年の歴史。
マリーの生家であるゴールドケイン家は、元々はアメリカの田舎で農業を営んでいた一族の幾つもある家の一つだったらしい。
そんな一族の転機は、女神が現れて魔力と言う概念やマスカレイドと言う技術が公表されてからしばらく経った頃。
最初は一族の子供が気が付けば自分の手の内に金色の枝のようなものを持っていた事。
それを切っ掛けとするように、ゴールドケイン家を含む一族の人間は次々に金のような何かで出来た物体を生み出せるようになった。
これがユニークスキル『蓄財』の始まりだったらしい。
『蓄財』で生み出された物体は見た目こそ金に似ているが、金そのものではなかった。
だが、魔力の塊である事は直ぐに明らかにされて、金と同じような価値を持つ物体として、一族は国に保護された。
そして直ぐに研究が始まり……行き詰った。
ユニークスキル『蓄財』は今でもなお再現はおろか、解析すら受け付けない、ユニーク中のユニークである。
生成された物体が魔力の塊である事は分かったが、それを利用する事が出来るのは生成した当人だけであった。
そして、利用できると言っても、現代の技術ではスキル『P・魔術詠唱』などの補助が必須で、何にでも使えるようなものでは無かった。
それでも研究者たちは何かが無いかと、今でも研究を続けている。
それは良い。
やがて何処かで何かが見つかるかもしれない。
問題は二十年から十年ほど前の事。
研究の成果が上がらない事に業を煮やした当時の担当者……アメリカ政府から業務を委託されたらしい企業は、少しでもサンプル数を増やせるように、研究の幅を広げられるように出来ないか考え、焦り、やらかした。
成人している人間には寝食の時間以外は全て費やすかのように限界ギリギリまで『蓄財』を使わせた。
それどころか、未成年の人間……それこそ未就学児にすら魔力操作を行わせ、『蓄財』を無理やりに習得させ、魔力の物質化を行わせた。
それも、きちんとした管理の下ではなく、粗雑と言い切っていい監視と管理の下で。
ユニークスキル『強化』事件を見れば、制御されない魔力操作がどれほど危険な事であるかは火を見るよりも明らかである。
その時に実際に何が起きたのかと言う記録は残っていない。
爆心地と表現するべき場所に居た人間は全員死んだからだ。
しかし、その爆発が狼煙となって、政府と女神の調査が入った。
結果、ゴールドケイン家を含む一族に対して行われていた非道な行為が明らかとなり、企業は調査と罰の果てに潰され、女神の提案によって一族は世界各地に散り散りとなった。
今、どの家がどの国に居るかは、本人たちが望まなければ明らかにされていない。
『蓄財』を利用して糧を得ているかも分からない。
自分が所属する国に正体を明かしているかも分からない。
そんな中でゴールドケイン家はマリーの母方の血筋を頼って日本へとやって来る事を選び、『蓄財』によって得た物質の売却によって生活すると言う今の状況に至るらしい。
そして、一族の中で、現状では最も表舞台に出ているのが、ゴールドケイン家であるらしい。
これでもだいぶ省いているが……まあ、中々に波乱の一族である。
ただ、俺にとって重要な事は……『蓄財』を持つ一族の中で、その存在を明らかにしているのはゴールドケイン家だけであり、『蓄財』の力を得たいと思っている連中がまず狙うのがマリーであると言う事実。
マリーは諜報員としての訓練も受けて、学園へとやってきたが、その一番の目的は自分たちの庇護者になり得る人間を見つけ出す事だった。
そしてマリーは俺を見出した。
ならば俺は……マリーの庇護者に相応しい決闘者になるべきだろう。
何処まで出来るかは分からないが、俺はそうなるべきだ。
「マリー」
「どうかしましたカ? ナル」
だから俺はマリーにこれを渡すことにした。
「誕生日プレゼントを渡そうと思ってな」
「これは……ありがとうございまス。大切にしますネ。ナル」
「ああ、そうしてくれると俺も嬉しい」
それはマリーゴールドの花を模した髪飾りで、少量かつ隠すようにだが翡翠も用いたものである。
「折角だから付けてみてくださイ」
「ああ」
俺はマリーの髪に髪飾りを付ける。
うん、よく似合っているな。
「誕生日おめでとう、マリー」
「ありがとうございまス。ナル」
マリーの笑顔はとても晴れやかなものだった。
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