170:スキル『アディショナルアーマメント』
「ナル君、マリー、お待たせー」
「遅くなってすみません、二人とも」
「そちらこそお疲れ様、スズ、イチ」
「何をしていたのかは分かりませんガ、何事も無いようで何よりでス」
俺とマリー『ナルキッソスクラブ』の事務所に着き、反省会の準備を整えるだけでなく、護国さんから受け取った決闘の記録を見ていると、スズとイチの二人が事務所に入ってきた。
まあ、連絡もなく二人が遅くなったと言う事は、マリーの言う通り何かはあったのだろう。
けれど、二人の様子からしてトラブルではなさそうなので、心配はしなくてもよさそうか。
「これは……トモエとレッドサカーの決闘?」
「ああ。俺たちの決闘が終わった後に護国さんから決闘の記録を見れるアドレスを教えてもらってな。これで……三度目だったか?」
「ですネ。決闘そのものだけですガ」
「ナルさんにしては珍しいですね。そんなに同じ決闘を見返すだなんて」
「それなんだが……」
さて、俺が今見ているのは俺たちの決闘が行われていたホールとは別のホールで行われていたトモエとレッドサカーの決闘である。
決闘の流れとしては最初は互いに牽制から始まり、トモエが強力な遠距離攻撃を積んできておらずカウンターで自身を撃墜するつもりと判断したレッドサカーが飛翔。
そして、トモエの攻撃が届かない位置から一方的に仕掛けていたのだが……。
「あ、来るぞ」
『『アディショナルアーマメント』……はっ!』
『ゴケエエエェ!?』
トモエがスキル『アディショナルアーマメント』を発動すると、手にしていた武器が薙刀から弓へと変更され、奇麗な構えから放たれた矢によってレッドサカーは追い回されて、最終的に脳天に綺麗に矢が突き刺さって敗北したのだった。
その突き刺さり方はいっそ芸術的ですらあった。
「遠坂には悪いと思うのですガ、何度見てモ、本当に奇麗に刺さってますネ」
「本当にな。こんな綺麗にスコーンと刺さる事ってあるんだな……」
「……」
「武器交換スキル……いえ、追加武装展開スキルですか。何時の間にこんなものが」
と言うわけで、俺たちにとっても他人ごとではないし、レッドサカー……遠坂に見られたら威嚇の一つでもされるとは分かっているのだが、何度も見返してしまう程度にはツボっているのである。
今この場でも、声こそ上げていないものの、スズも思わず腹を抱え、肩を震わせている。
笑っていないのはイチくらいである。
で、そのイチの質問に答えるのならだ。
「スキル『アディショナルアーマメント』は数日前に『ライブラリ』に登録されたスキルみたいだぞ。タイミング的には今日俺が使った『ドレスパワー』とほぼ同時だな」
「たダ、スペックを見る限りでハ、マリーたちが使うのはちょっと微妙な感じでしたネ」
「見せてください」
「ああ」
俺はスマホに映したスキル『アディショナルアーマメント』の仕様をイチに見せる。
さて、スキル『アディショナルアーマメント』だが……どうやら使用前に専用の追加パーツをマスカレイドの為のデバイスに接続しておくのが前提のスキルであるらしい。
効果としては、その専用追加パーツとやらに保存されているデータに従って、追加の仮面体を生み出し、事前に設定した通りに出現させる、と言うもの。
その際に設定を上手くやれば、トモエのように武器の交換も出来るらしい。
「仮面体の維持に必要なコストが増えるのですか?」
「どうにもパッシブスキルに近い部分もあるみたいだな」
ただ、その専用追加パーツから追加の仮面体を呼び出せるようにしている都合で、パッシブスキルのように常に消費が強いられるようだ。
その量は微々たるものではあるが、魔力量乙判定の生徒の中でも少なめなスズのような決闘者だと、ちょっと気になるところだろう。
「ふーん。これ、ナル君の『ドレッサールーム』を元に作ったスキルみたいだね。使い道は……色々とありそうかな。上手く使えば、相手が予期しないような攻撃手段に使えそう」
「そうですね。動かし方次第では悪さが出来ると思います」
「あ、やっぱりそうなのか。何か似ている感じがしたんだよな」
「ナルのと比べると色々とアレですけどネ」
で、スズ曰く、このスキルは俺のユニークスキルである『ドレッサールーム』を元に作り出されたスキルであるらしい。
うん、やっている事は確かに俺の『ドレッサールーム』による衣装変更によく似ている。
ちなみに。
今回のトモエは武器の交換からの不意打ちを狙うために使ったが、普通の決闘者が使うのなら、持ち運びが出来ないような超重量級の遮蔽物を隠し持つとか、スキルで同じ効果を発揮するよりもこっちのスキルと物を利用した方が安く済ませられる何かを出すとか、そう言う使い方のが適当ではあると思う。
と言うか、トモエの使い方をたぶん製作者は想定していない。
「……。もしかしなくても、護国さんはこの事を知っているよね?」
「知っていると思います。だからこそ、ナルさんに見て欲しいと送ってきたのでしょうし」
「確実に知っていると思いますヨ。元々は見に行く気だったわけですシ」
「まあ、トモエが勝つだけなら他にも色々と手段があって、確実性もそっちの方が上だったと思うから、分かった上で使って、送ってきているとは思ってる。だから、そっちの方向でこの後にメッセージを送るつもりだな」
まあ、護国さんが使いたいから使ったのだろう。
だったら、その事を理解した上で、良い決闘だったと伝えるだけである。
「さて、そろそろいいか。俺とマリーの反省会に移ろう」
「ですネ」
「うん、分かった」
「はい」
まあ、護国さんとスキル『アディショナルアーマメント』についてはこれくらいにしておくとして。
俺たちの反省会を始めるとしよう。
スキル『アディショナルアーマメント』
当然のことながら燃詩製スキル。
ナルの『ドレッサールーム』を元に作り出されたスキルであるが、製作者に言わせれば超が付くレベルで劣化している。(燃費、保存できる数、登録方法、専用パーツの必要性などなど)
が、その辺の改良は在野の誰かがやってくれると判断、それよりも専用パーツ込みとは言えサブストレージの開発とでも言うべき技術の公表を優先して、とりあえず『ライブラリ』に投げた。
実はこう言う、この先は知らんのでお前に任せた、と言うスキルもよく転がっているのが『ライブラリ』である。




