168:決闘を終えて申し開き
「それでは反省文のお時間と行こうか、翠川」
「待ってください、麻留田さん。アレには深い訳があるんです。先ずはそれを聞いてからでお願いします」
「いいだろう。話は聞いてやる。正直に隠さず話せ」
『パンキッシュクリエイト』との決闘を制した俺とマリーは控室へと戻った。
勿論、退場の際には……と言うより、決闘終了のアナウンス直後に俺は『ドレッサールーム』からシスター服を呼び出して、再着用している。
なので怒られる点などないはずなのだが、控室には既に風紀委員会委員長である麻留田さん、副委員長である青金先輩、風紀委員会に仮所属中である羊歌さんと大漁さんの四人が待ち構えていて、俺はマスカレイドを解除した上で正座させられた。
「では聞くが、最後のキャストオフ。アレはなんだ?」
「アレですか?」
と言うわけで、麻留田さんとして問題点であるらしいバットシャーロットに噛みつかれて魔力を吸われた時の事について話し始める。
そうして話し終わった結果……。
「最後の一言が無ければセーフだったが、最後の一言があったから反省文だ。翠川」
「えっ!?」
「言っていい事と言ってはいけない事を学んだ方がいいな。翠川」
「あーうン、マリーは擁護できませン」
「隠さずにと言われたのに!?」
「なるほどこれは『放送事故』」
「ど~しよ~も~な~い~ですね~」
「どうしてそうなる……」
何故か反省文を書かされることになった。
なお、その後のありがたーい説教によれば、最後の一言のせいでやむを得ず脱いだのではなく、意図的に脱いだ事になってしまうらしい。
そうなると、スキル『P・Un白光』によって隠されているとは言え、全裸である事に変わりはなく、反省分の一枚でも書かせて、意図的に脱ぐことは駄目なんだと俺に学習させる必要が生じてしまうとの事だった。
後、隠さず話せと麻留田さんは言ったが、自分にとって不利になる事は言わず、嘘も吐かず、流してしまうのは処世術の一つであり、余計な言質を取られないためにも必要な事であるらしい。
「いやでも、俺だって相手くらいは選びますよ。変なの相手なら妙な事を言わないように気を付けるくらいは出来ます」
「本当か?」
「不安になりますネ」
うーん、俺は嘘も吐かずに正直に話しているのだが……何故か信じてもらえない。
解せぬ、とはこの事か。
「まあ、今回はこれくらいにしておく。以後気を付けるように、いいな、翠川。それと、いい決闘だったぞ、ゴールドケイン」
「はい、分かりました」
「ありがとうございまス。麻留田風紀委員長」
そうして麻留田さんたち風紀委員会の面々は去っていった。
「さて、本格的な反省会はスズたちが戻って来てからにするとして……スズたちは今どうしているって?」
「マリーのスマホには連絡は来ていませんネ」
「俺の方にも何もないな。うーん、目に触れないように行動していた何かをまだ継続中とか、そんな感じか? だとしたら、俺たちから連絡するのは止めておいた方がいいか」
「ですネ。マリーたちの連絡が原因でトラブルになっても困りますシ」
俺とマリーは帰り支度を整えつつ、自身のスマホを確認する。
スズ、イチ、どちらからも連絡は来ていない。
あ、徳徒からのメールは来ているな。
えーと……。
「ぶっ」
「何かありましたカ? ナル……これはまた見事にって奴ですネ」
「いやでも、送りたくなる気持ちはちょっと分かる」
徳徒から送られてきたのは、宙を舞うレッドサカーの脳天に矢が綺麗に突き刺さった瞬間の写真で、実によく撮れている。
偶然撮れたもののようだが、本当に奇麗に矢が突き刺さっていて、矢を受けたレッドサカーの顔も呆然としたもので、レッドサカーには申し訳ないのだけれど、もはやギャグのような光景だ。
「ところデ、なんでトモエが弓を使っているのですカ?」
「仮面体の調整をしたんじゃないか? 護国さん、弓道サークルにも入ったし」
「そうなんですかネ? うーン、調整とは何か違うようナ……」
「まあ、こっちも後で映像を確認してみればいいさ。護国さんと遠坂の決闘なら、絶対に個人のものも含めて記録が残ってる」
「それもそうですネ。でハ、そのようにしましょうカ」
まあ、こちらの決闘の詳細については後で確認してみよう。
あ、ちょうど、護国さんからも決闘の記録映像があるアドレスが送られてきたな。
うん、見ておこう。
「忘れ物はないな」
「無いですネ。デバイス、スマホ、私物、全部回収済みでス」
帰り支度完了。
一応、マリーと一緒に室内を見回すが、うん、俺たちの物は何も残ってないな。
「さてマリー」
「なんでしょうカ?」
「何とか勝ったな」
「えエ、何枚も金貨を使う事になりましたガ、何とか勝ちましタ」
「強かったな。『パンキッシュクリエイト』の先輩たち」
「同意しまス。マリーもナルも専用の対策を組んデ、スズたちを敢えて不在にさせることで相手の対策を無駄にさせテ、同士討ちも辞さずに攻撃を撃ち込んデ。それでようやくでしたからネ。本当に強かったでス」
「アレであの人たち全員、魔力量的には乙判定だって言うんだもんなぁ……」
「学びと研鑽の余地は大いにあル。そう言う事ですネ。ユニークスキルと同じでス」
「違いない」
俺とマリーは控室を後にすると、サークル『ナルキッソスクラブ』の部室へと向かう。
そこでスズとイチが戻ってくるのを待つ形だ。
「ナル。今回の件は綿櫛が元凶でス。ですガ、今後もマリーがナルの近くに居るのなラ、今回のように決闘が起きテ、ナルを巻き込むこともあるでしょウ」
「かもな」
その道すがら、俺とマリーは話をしながら歩いていく。
「けれどそれがどうしたって話だ。前にも言っただろう? 俺にはマリーの力が必要だって。俺がマリーの力を必要としているのに、マリーが困った時に面倒だから見捨てるなんて振る舞いをする気はない。出来る限りと言う但し書きは付くけれど、出来るだけの事はする。そこまではもう俺は決めている事だ」
「ふふフ。流石はナルですネ。ではマリーからも一ツ」
既に気候は本格的な夏を迎えていて、夕暮れ時だと言うのに実に暑い。
もうすぐ夏休みに入るのだが、これほどに暑いと、安易には外へと出られないかもしれない。
「マリーもナルの事を全力で助けます。なので、今後ともよろしくお願いしますね。ナル」
「ああ、よろしく頼むな、マリー」
俺は夏休みに入ったら何をするかを考えつつも、マリーと話しながら歩いて行った。
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