167:金貨の決闘 VS『パンキッシュクリエイト』-4
本日は四話更新となります。
こちらは四話目です。
「マリー・アウルムの名において命じます。金杭、金食いて、叶え来るは、奏で来るもの、奏で悔いるは鐘の音、悔いの杭は奏でて叶える、悔いよ彼方へ……『ゴールドパイル』!」
マリーの一撃による爆音と言う表現すら生温い音の暴力が舞台上へと広がっていく。
その効果は絶大だった。
「!?」
まず、蝙蝠を模している都合上、大きな音に弱かったバットシャーロットの眷属たちが一匹残らず、その構造を保てなくなって死滅した。
「あがっ!?」
「いっ!?」
続けて、距離が近かったアサルトアントンとチェーンベルタが、ナルの『P・敵視固定』によって衝撃を逃がすことも出来ずに直撃。
アサルトアントンはこれまでのダメージが故に、チェーンベルタはナルを拘束するために守りを緩めていたが為に、それぞれ限界を超えたダメージを受け、仮面体を維持できなくなり、マスカレイドが解除されて退場。
「っう!?」
同時にナルにも衝撃波が襲い掛かるが、マリーの攻撃がアンデッドへの有効性を高めたものであったために、『パンキッシュクリエイト』の面々ほどのダメージは受けなかった。
しかし、それでもなおシスター服は大きく破損し、耳から血を流し、聴覚を一時的に失うほどのダメージを受ける。
「えぎっ!?」
「おぐっ!?」
最後に最も遠くに居たバットシャーロットとスキンドーラに攻撃が襲い掛かる。
バットシャーロットは大きく吹き飛ばされ、二度三度とバウンドしつつ舞台上を転がるが、それでもまだ膝を着きつつも生存。
スキンドーラも同様に大きく吹き飛ばされるが、転がるのではなく舞台上を滑っていき、音が収まると同時に立ち上がる。
が、その動きはノロく、体を構成する骨には目に見えるほどのヒビが幾つも入っていた。
「すぅ……はぁ……アーアー……アー。ちゃんと発音できているか怪しいですネ。これやるト、マリー自身への被害も酷いんですヨ」
そして、攻撃者であるマリー自身の被害もまた甚大。
傘を杖代わりにして立ちつつ、自分の耳に手を当てて、頭を軽く振る。
「マ、治せば問題ないわけですガ。重ねて命じます。金貨よ。気の果実よ。渦巻いて、華へと還れ。『インスタントヒール』」
「それはそうだな」
「「!?」」
マリーの手に生じた大量の魔力がスキル『インスタントヒール』によってマリー自身とナルの体へと流れ込んでいき、その傷を癒していく。
その光景に『パンキッシュクリエイト』の残る二人は呆然とした様子を一瞬だけ見せるも、直ぐにまだ諦めるには早いと言わんばかりに立ち上がって、戦いの姿勢を見せる。
「マリー。スキンドーラは頼んだ。俺はバットシャーロットを倒す」
「そうですね。能力相性的にそれが良いと思います」
ナルがバットシャーロットに向かって駆け出す。
マリーは自分が持ち込んだ金貨の残りを手の感触だけで確かめた上で、ゆっくりとスキンドーラとの距離を詰めていく。
「ちっ、この期に及んで油断も隙も無いだなんて、可愛げのない後輩だね」
「すみませんネ。けれド、決闘は勝つ瞬間まで油断するなと言うのハ、基本中の基本でしょウ?」
「安心しな。可愛げのないまで含めて、この場じゃ誉め言葉だよ」
スキンドーラと相対したマリーは右手に傘を、左手に金貨を握った状態のまま、その隙を窺う。
対するスキンドーラは仮面体の機能を利用してひび割れた骨を石で覆って補強すると、スキルの焦点合わせに利用していた杖を杖術の要領で構えて、その杖の表面も石で覆っていく。
「悪いが私は距離を詰めても、単独でも、一応は戦えるんだよ!」
「知っていまス。だからこうするのでス」
スキンドーラがマリーに向かって駆け出す。
その動きはこの決闘でスキンドーラが見せた中では最も機敏な動きであり、殆ど一瞬でマリーとスキンドーラの距離は無くなり、スキンドーラの杖はマリーに向かって振り下ろされる。
だが、マリーは慌てた様子も見せずに動いた。
「っ!?」
傘を開いてスキンドーラの目前で開いて視界を塞ぐ。
「『ゴールドパイル』」
そして、ほんの少しだけ横に動き、スキンドーラの胴体に向かって手を伸ばし、スキル『P・魔術詠唱』を経ない通常の『ゴールドパイル』を放って、スキンドーラの胸部を破壊する。
「く……そ……う……」
「ふぅ……何とかなりましたネ」
急所を破壊され、マスカレイドを維持できなくなったスキンドーラの姿が消えた。
「さて、詰みだな。バットシャーロット先輩」
「そうかもね……」
一方その頃、ナルはバットシャーロットをスキル『P・敵視固定』の射程内に収めていた。
バットシャーロットには既に眷属を生み出せるほどの魔力は残っていない。
だが、ナルのスキル影響下に本体が入っている状況では、仮に眷属を生み出せたとしても、生み出した眷属は即座にナルのスキルの影響を受けてマトモに飛ぶ事も出来なくなってしまう。
それ以前に、眷属がマトモに飛ぶことが出来たとしても、眷属の攻撃力ではナルに傷一つ付ける事も出来ない。
故にナルは、バットシャーロットの魔力の残りが分からなくても、この状況を詰みだと称した。
しかし、バットシャーロットがまだ諦めていない事は、その目と態度から明らかだった。
だからナルはゆっくりと距離を詰めていき……。
「でもそれは私の仮面体が普通のものだったの話だよ!」
「!?」
距離が十分に詰まったところでバットシャーロットは素早くナルの背後へと回り込むと、その首筋へと噛みついて、鋭く尖った犬歯を突き立てる。
それはバットシャーロットの奥の手。
今回の決闘で初めて公開した、ヴァンパイアらしい吸血能力であり……噛みついた相手の魔力を吸い取って己の物とする吸収能力。
本来ならば決闘の常識すら覆しかねない能力。
であったが、相手が悪かった。
バットシャーロットの相手は『放送事故』とも称される規格外の決闘者、ナルキッソスである。
「『ドレスパワー』」
バットシャーロットに噛みつかれ、魔力を吸われ始めた瞬間にナルがまず考えたのは、このまま背中側に向かって勢いよく倒れれば倒せる、だった。
だから、その倒れ込みの威力を上げるためにも、『ドレスパワー』でアンデッド特効を自身に持たせた。
そして、『ドレスパワー』が発動したところで、ナルは察した。
アンデッド特効が付与されたことによって、バットシャーロットの魔力を吸い取るペースは明らかに落ちている。
だから、再度考え……思った。
そう言えば、自身が扱える限界以上に魔力を流し込まれたら、それも害となる状態の魔力を流されたらどうなるのだろうか、と。
同時に、どうやれば、バットシャーロットへアンデッド特効が付与された魔力を効率よく流し込めるのだろうか、と。
後、シスター服は露出度が低くて、そろそろ一度脱いでおきたいな、と。
三つの事を考え、ナルが辿り着いた結論がこれだった。
「キャストオフ」
「!?」
ナルが呟いた瞬間。
舞台上のみならずホール中が白い光に満たされ、全ての人間の視界が白一色に塗り潰される。
「なるほど……」
そして光が晴れた後に舞台上に立っていたのは、光で目潰しされてその場に伏せるマリーと……。
「限界以上の量の魔力、それも苦手な状態にされたものだと、普通にぶっ飛ぶみたいだな」
見せてはいけないところをスキル『P・Un白光』によって隠した状態……つまりは全裸のナルキッソスだけだった。
『け、決闘終了! 勝者、『ナルキッソスクラブ』ナルキッソスとマリー・アウルム!!』
「「「ーーーーー~~~~~!!」」」
決着がつくと同時に会場は歓声と悲鳴に包まれた。
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