166:金貨の決闘 VS『パンキッシュクリエイト』-3
本日は四話更新となります。
こちらは三話目です。
「いよっし、効果ありぃ!」
「「!?」」
チェーンベルタを吹き飛ばしたナルが駆ける。
その先に居るのは、吹き飛ばされたチェーンベルタだけでなく、バットシャーロットとスキンドーラの二人も居る。
その狙われた二人は吹き飛ばされたチェーンベルタの様子を確認……直ぐには立ち上がれず、事前情報では想定もしていなかったほどの大ダメージを受けているのを認識。
スキル『P・敵視固定』も合わさって、射程内に抑えられたら完封されるのを理解。
よって直ぐに左右に分かれて、最悪でも片方は範囲外に逃れられるように動き出す。
「させるかよ! ナルキッソス! 『ハイストレングス』!」
「ちぃ!」
そこへアサルトアントンが割り込みをかける。
スキル『ハイストレングス』によって筋力を増した上でナルへと殴りかかり、ナルはその攻撃を防ぐために足を止めて盾を構え、受け止める。
「おらぁ!」
「っ!?」
そして、ナルが反撃。
シンプルで勢いも体重も半端に乗ったローキックであったが、ナルから離れられないアサルトアントンはその攻撃を足首でモロに受け……全身に伝わるほどの不自然な衝撃とダメージを覚える。
「さっき使ってた『ドレスパワー』とか言うスキルの効果か!」
「正解だよ、先輩!」
スキル『ドレスパワー』。
それがナルの使ったスキルの名称である。
ナルのユニークスキルである『ドレッサールーム』を参考に燃詩が作り上げたスキルであり、ナルが身に着けている衣服が有するイメージや機能を拡大、強化すると言うファジーな作用を有する特殊なスキルである。
そして、今のナルが身に着けている衣装はシスター服。
その服が有するイメージは清楚、清浄、清らか、浄化、鎮魂、聖職者、神聖。
宗教的な部分や個人的な思想もあるだろうが、概ねのイメージとして抱かれるのはそんなところだろう。
では、それを拡大強化するとどうなるだろうか?
「おらぁ!」
「く……そっ……!? 普通の甲判定者と大して変わんねぇ火力になってんぞ!?」
結果はアンデッド特効。
より厳密に言えば、大衆のイメージとして聖職者の職務対象となるような、邪悪なもの、死者、悪霊、瘴気と言ったものへ与えるダメージの上昇。
そして、『パンキッシュクリエイト』の仮面体は揃って、そのアンデッドの性質を有する仮面体である。
故に、ナルの攻撃は今、投げ技のように自然法則や周囲の物を利用しなくても、十分な威力を有するようになっていた。
「シャーロット! アンタはマリー・アウレムを仕留める事に専念! 最悪足止めでもいい!」
「了解! 行って眷属!!」
「ベルタ! 私、アントンと一緒にナルキッソスを抑えるよ!」
「お、おう……!」
形成の不利を悟ったスキンドーラが指示を出す。
バットシャーロットは眷属を放ちつつマリーへと向かって行き、スキンドーラと体勢を立て直したチェーンベルタがナルへと向かって行く。
「デ、マリーの事を何秒放置したんですカ? 『ゴールドパイル』」
「「「!?」」」
そこへ雨が降り注ぐ。
ただの雨ではない。
一つ一つは手のひら大の、けれど金色に輝き、死者に属するものを滅する力に溢れた、金色の杭を組み合わせて作られた十字架の雨である。
それが舞台のおよそ半分、『パンキッシュクリエイト』の全員とナルを巻き込むように、光の雨となって降り注ぐ。
降り注いで、舞台の床を叩き、表面と自身を砕いて、砂埃を巻き上げる。
「痛いが……ま、俺にとってはそこまでじゃないな」
「それを言えるのはナルだからですネ」
頭上に盾を掲げてマリーの攻撃をやり過ごしたナルが、砂埃の外へと出てマリーの方へと近づき、3メートル半程度の所で止まって盾を構える。
なお、その間にも端の方が切れていたはずのシスター服は修復されていき、元の姿に戻っている。
「舐め……るなぁ!」
「はぁはぁ……」
「ううっ、眷属たちが……」
「はぁ、死ぬかと思ったよ。さて……」
そして、砂埃の中から『パンキッシュクリエイト』が姿を現す。
両腕を中心に体に幾つも十字架が突き刺さった姿のアサルトアントンが。
鎖が少なくなって、その下の枯れ木のような体を見せるチェーンベルタが。
見た目にはほぼ傷が無いが涙目になっているバットシャーロットが。
頭蓋骨に少しヒビが入っているスキンドーラが。
傷を負ってはいても、普通なら必殺の一撃となるはずの攻撃を凌いで見せたアンデッドたちが、戦意は衰えさせる事無く姿を現した。
「しかシ、一人も落とせませんカ」
「本当に強いな。流石は先輩方。とは言え、限界も近いとは思うけどな」
『パンキッシュクリエイト』の姿を見たマリーとナルは改めて応戦の構えを取る。
「アンタたち。もう温存とか、もう片方とか、奇麗にとか、確実にとか、その辺全部考えないで攻め立てるよ。無理やりにでも片方落とさないと、いよいよもって勝ち目がない」
「ラジャー」
「おう」
「言われなくても」
『パンキッシュクリエイト』が再び動き出す。
スキンドーラとバットシャーロットを後衛にし、アサルトアントンとチェーンベルタを前に出す形。
ただし、これまでと違って散開せず、一塊になって動きだす。
「ナル。鳴らします」
「分かった。好きに打ってくれ」
それを見てマリーは複数枚の金貨を袋から取り出し、ナルは盾を構えながら『パンキッシュクリエイト』に向かって行く。
「ナルキッソスの弱点と言うより対策は……これだ!」
「!?」
互いの距離が詰まり、まず動いたのはチェーンベルタ。
身にまとった鎖を勢いよく放ち、ナルの右腕と胴体に絡みつかせて、その動きを阻害する。
「アントン! シャーロット! 『ストーンスキン』!」
「おうよ! 『ハイストレングス』……機能開放!!」
「眷属……最大開放!!」
そこへスキンドーラのスキルと仮面体の機能によって右の拳に石を纏っただけでなく、腕を今にも破裂しそうなほどに膨らませたアサルトアントンが真正面からナルに向かって飛び込む。
更には、こちらもまたスキンドーラの能力によって石を纏った蝙蝠たちが十数匹出現して、バットシャーロットの求めに応じる形で動き出し、大半は真正面以外からナルに向かって行き、少数がマリーへと向かって行く。
それは『パンキッシュクリエイト』渾身の一撃。
アサルトアントンの攻撃は明らかに自壊する事すら覚悟した、最大級の一撃。
チェーンベルタの拘束は鎖と言う自分の身を護る防具を利用した、決死の覚悟で行われる拘束。
バットシャーロットの眷属召喚は最大数であり、これ以上の眷属を決闘中に呼び出す事はもはや叶わない。
スキンドーラも同様に限界までスキルと仮面体の機能を利用しており、これ以上の支援を行う余裕はない。
「おらあああっ!」
そんな一撃がナルに向かって放たれて……。
「盾よ!」
「!?」
届かない。
アサルトアントンの攻撃が当たる直前、ナルは攻撃を受ける場所の前に盾を生み出し、左腕一本でそれを持ち、いなし、勢いを可能な限り殺して、左腕の骨が折れ、皮膚が裂けるほどではあるものの、ナルにとっては致命傷に程遠いレベルでダメージを抑える。
「これで駄目だと……!?」
「効いていない訳じゃないですよ。ちゃんと痛いものは痛いん……でっ!」
「!?」
アサルトアントンの右肩から先の部分が崩れ落ちる。
ナルはそれを見つつ、自分の右腕を拘束する鎖を体の動きで以って勢いよく巻き、チェーンベルタを自分の近くにまで引き寄せる。
「マリー・アウルムの名において命じます。金杭、金食いて、叶え来るは、奏で来るもの、奏で悔いるは鐘の音、悔いの杭は奏でて叶える、悔いよ彼方へ……『ゴールドパイル』!」
そして、ここでマリーが動いた。
マリーが詠唱を完了すると共に、手にする傘の先と眼前に黄金色の杭が出現する。
自身に襲い掛かってくるバットシャーロットの眷属たちによる攻撃を避けつつ、マリーは傘を全力で振って、二つの杭をぶつけ合う。
そうすることで生じるのは、表面上は透き通った……けれど、少し深く聞けば何かを惜しむような金属音。
ただし、その音量は爆音と言う言葉すら生温い衝撃波であった。
スキル『ドレスパワー』
ナルのユニークスキル『ドレッサールーム』を参考に燃詩が作り上げたスキルの一つ。
発動者が着用している衣装に応じたバフを与えると言う効果を持っている。
が、一般的な決闘者の仮面体は複数の衣装なんて持っていないので、実際に求めているバフと『ドレスパワー』で得られるバフが上手く噛み合わなければ見向きもされない事だろう。
よって、半分くらいはナルキッソス専用スキルである。
なお、スズが使うとアビスとの通信感度が向上する。マリーが使うと霊的存在の気配に敏感になる。
と言った通常のスキルでは現在存在しないユニークなバフを生み出すことも多いため、スキル開発者界隈では現在騒ぎになっている模様。
なんなら燃詩自身も「なんでこうなった……!?」状態である。




