表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マスカレイド・ナルキッソス  作者: 栗木下
4:サークル編
165/499

165:金貨の決闘 VS『パンキッシュクリエイト』-2

本日は四話更新となります。

こちらは二話目です。

「行くぞマリー!」

 ほんの僅かな差と言えどもマスカレイドを先に終えたのがナルとマリーの二人である以上、機先を制するのもまたその二人である。

 シスター服を身にまとったナルは、マリーに呼びかけつつ、盾を構えながら『パンキッシュクリエイト』の面々に向かって突撃を開始する。

 その動きはシスターと言う服装からはイメージしづらいほどに機敏なものである。


「マリー・アウルムの名において命じます。金杭……」

 マリーはナルの言葉に対して、スキル『P・魔術詠唱』を開始する事で応じる。

 袋の中から取り出した一枚の金貨を手の内で砕きつつ、閉じた傘の先を前方に向けて、言葉を紡いでいく。


「手筈通りいくぞ! お前ら!」

 マスカレイドを完了した『パンキッシュクリエイト』の面々も、アサルトアントンの言葉と共に動き出す。


「先手を取られるのはデバイス差で分かってた。だから問題ない……ない……!」

「さあ、どうするよ!」

「行って! 眷属たち!!」

「すぅ……」

 『パンキッシュクリエイト』の初手は前衛を務めるチェーンベルタとアサルトアントンの二人が同時に前へ……ただし、ナルの体格では同時に止められない程度に広がって詰めていく。

 同時に後衛であるバットシャーロットが眷属とも呼ばれる、蝙蝠の形をした自立式の魔力構造体を三匹生成し、ナルの頭上を通るコースで飛ばす。

 そして、もう一人の後衛であるスキンドーラは杖を構えた状態でその様子を見守り、狙い通りに進んでも進まなくても、即座に次の動きが出来るように備える。


 彼らの狙いは単純明快。

 三つの攻撃の内、一つはナルに止められる前提で動き、残り二つで後衛であるマリーへ速攻を仕掛けると言うものである。

 勿論、マリーの攻撃によって残り二つの内、更にもう片方の攻撃が止められる事も考慮している。

 一つでも通ればいい。

 通れば、スキンドーラの能力とスキルも合わせて、突破した誰かの火力を底上げし、後衛であるマリーを仕留めきるには十分な火力は出せるのだから。


 そうしてチェーンベルタ、アサルトアントン、バットシャーロットの眷属がナルの横や上をすり抜けようとして……。


「その程度を俺が通すとでも? 先輩方?」

「「!?」」

「眷属!?」

 その動きが奇妙なものになる。

 ナルに近づいた者たちは揃ってナルを見た。

 見て……魅せられて……視線が外せない、顔が動かない、近づける事は出来ても、離れる事は出来ない。

 いや、アサルトアントンとチェーンベルタの二人ならば、しっかりと腰を据えて一歩ずつ下がるのであれば離れる事も出来るのかもしれないが、バットシャーロットの眷属たちにはそれすら出来ず、見えない網に捕らわれたかのように宙で藻掻き、やがて落ちる。


「何をしやがった……っ!?」

「金杭、金喰いて、叶え来るは、鼎狂わす、金重のクルス……『ゴールドパイル』!」

 そこへ詠唱を終えたマリーの『ゴールドパイル』が、その姿を十字架のようにした上で、神聖なオーラを纏ったものに変化し、飛来する。

 狙いはアサルトアントン。

 黄金の十字架は真っすぐにアサルトアントンの胸へ向かって飛んで行く。

 アサルトアントンは音で自分に攻撃が迫っている事は分かっても、その顔と視線がナルに向けられたまま動かせないために、どんな攻撃が何処を狙って何処まで迫っているかが一切分からない状態になっていた。


「やり……」

「『ストーンスキン』!」

「オラァ!」

 が、着弾の直前。

 スキンドーラの杖が輝いてアサルトアントンの全身の皮膚が石のような色合いに変化、同時にナルを挟んで反対側に居たチェーンベルタが纏っている鎖を伸ばしてマリーの攻撃とアサルトアントンの間に割り込む。


「ぐおっ!?」

「そうは甘くありませんか」

 結果。

 マリーの放った『ゴールドパイル』はチェーンベルタの鎖を引きちぎりつつ、攻撃自体はアサルトアントンに命中。

 石のようになった表皮を割りながら、その巨体を吹き飛ばして退かせることには成功。

 だが、倒すことは出来ず、手傷を負わせるに留まった。


「あぶ、あぶねぇ! 顔が固定されているせいで首が千切れるところだったぞ!?」

「マジっすか!? アントン先輩!?」

「あ、そう言う事になるんですね。先輩」

 アサルトアントンが立ち上がり、首の具合を確かめる。

 チェーンベルタはナルと距離を保ちつつ、マリーとの直線上にナルが入るように動く。

 対するナルは、そうはならないように、軽口を叩きつつも少しずつ左右へ動いて、マリーの射線を確保できるように努める。


「なるほどね……。パッシブスキルである『P・強制注目』や『P・威圧増大』の類似スキル。射程が自身を中心に3メートルくらいである代わりに、効果範囲内に入ってしまえば、顔も視線……いや、眼球の位置も完全に固定されるわけだね。えげつない」

「なるほど。それで私の眷属たちがあんな変な事に。じゃあ、遠回りさせないとね」

 そうして前衛が次の為の牽制を始める中で、後衛のスキンドーラは今の攻防からナルが使っているパッシブスキルの効果を推測し、声にする事で『パンキッシュクリエイト』の全員で情報を共有する。

 同時にバットシャーロットは生成している途中だった眷属を一度キャンセルして、最新情報に適応したものを生成出来るようにする。


「……」

 その姿を見てナルは表情には出さずに警戒心を強める。


 そう、今回の決闘に当たってナルは新しいスキルを持ち込んでいる。

 その一つがスキル『P・敵視固定』。

 効果はほぼスキンドーラが言ったとおりであり、ナルを中心に半径3メートル以内に近づいたものの顔と眼球の向きを、ナルの顔を見る形で固定すると言うものである。

 ただ、ナルが使う『P・敵視固定』は、ナルの魔力が普通の人間の魔力とは比べ物にならないほどに粘性が強い性質を持ち、強制的に自分を見させると言う効果とナルの嗜好も合わさったために、製作者である燃詩の想定よりも強力なものになっている。

 それこそ、アサルトアントンが吠えたように、射程内で強力な動きを胴体で受ければ、首がねじり切れるか千切れ飛ぶ可能性を有するほどに。


 が、それをあっさりと見破られるとなれば、やはり警戒をしない訳にはいかなかった。


「マリー・アウルムの名において命じます……」

 マリーが次の攻撃の準備を始める。


「俺が言えた口じゃねえが、気合いを入れ直せお前ら! やっぱりこいつらは全員が経験豊富な魔力量甲判定の小隊と考えて十分な連中だ!」

「本当にアンタが言えた口じゃないね。アントン」

「俺はこのままナルキッソスを抑えに回ります」

「今度こそ行って、眷属!」

 合わせたように『パンキッシュクリエイト』が動き出す。

 大まかなフォーメーションは変わらず。

 けれど、アサルトアントンとバットシャーロットはナルの『P・敵視固定』に引っ掛からないように動き出し、チェーンベルタは逆にナルとの距離を詰めて抑えにかかる。

 その中でナルは……。


「『ドレスパワー』起動!」

 スキル『ドレスパワー』を発動。

 シスター服へと魔力を注ぎ込み、それによって仄かに輝き始めたシスター服を翻しながら、チェーンベルタへと盾を支えにしたドロップキックを放ち……。


「っお!?」

「「「!?」」」

 決闘の舞台を囲む結界にチェーンベルタが勢いよく叩きつけられるほどの勢いで吹き飛ばした。

『P・敵視固定』

効果についてはほぼ本文中で語られた通り。

製作者は燃詩。ただし製作時期は燃詩とスズが知り合って直ぐの頃。

と言うのも、ナルの立ち位置を考えた時に、こういうスキルを作っておけば、将来のナルが決闘に利用して小銭を稼げると判断したためである。


ナルが使う分には相性の良さもあって、燃費問題なし、効果強力だが、他の決闘者が使うとどちらも微妙なので、ほぼナル専用パッシブスキル。

ちなみに効果範囲内に仮面体でない生命体が入ると、効果が強制終了されると言うセーフティが設定されているので、環境によっては使い物にならない。


アサルトアントンの「首が千切れる」と言うのは冗談でも何でもないと言う事だ。


11/17後書きの文章調整

11/18誤字訂正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「マリー・アウレムの名において命じます。金杭……」 アウレムになっています
敵視固定と言いつつ範囲内だと味方も影響受けそうですね。 単騎突撃タイプじゃないと使い難そう。 >スキル『ドレスパワー』 まさか衣装依存のスキルとは。
ナルチャンが魔力の特性込みでエゲツナイヘイト獲得スキル手に入れちゃったw(首がもげるはギャグじゃ済まない 待望の衣装で変わるスキルらしきものも手に入れている ところで、シスターコスでドロップキックとか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ