164:金貨の決闘 VS『パンキッシュクリエイト』-1
本日は四話更新となります。
こちらは一話目です。
『以上が本日行われる決闘で賭けられるものになります。それでは、決闘の当事者たちの紹介と参りましょう! 東より……サークル『パンキッシュクリエイト』! アサルトアントン! スキンドーラ! チェーンベルタ! バットシャーロットの四人です!!』
「「「ーーーーー~~~~~!!」」」
観客の歓声と共に四つの人影がホールの中へと入ってくる。
先頭を歩くのはアサルトアントンで、続けてスキンドーラ、チェーンベルタ、バットシャーロットの三人も入ってくる。
そんな彼らが身に着けているのは学園の制服ではなく、自作のパンキッシュな服装であり、革、鋲、チェーンを多用した派手な装いである。
特に顔を隠す仮面は市販のデバイスを機能を落とさないように外見だけ変えたものであり、彼らの技術力の高さを伺わせるものだ。
「はー、分かってはいたが、観客の数が普段とは大違いだ。軽く泣けてくるな」
「それはもう仕方がないだろ。相手は学園どころか日本中……いや、目と耳がいい連中なら外国の連中だって注目しているんだからね」
「安藤さん、ポジティブに考えましょう。こちらの名前も売れるチャンスです」
「そうだね。もしかしたらサークルが無くならなくて済むかも。そうなったら私はとても嬉しいな」
アサルトアントンたちの口調は軽い。
決闘なんて気にしていないかのような会話をしながら、ホールの中心にある決闘の舞台へと上る。
だが、その足取りにも顔つきにも油断は見られず、握った拳の力の入れ具合から戦意に満ちている事も明らかであった。
『対しますは西! サークル『ナルキッソスクラブ』! ナルキッソスとマリー・アウルム!』
「「「ーーーーー~~~~~!!」」」
「「「ーーーーー~~~~~!?」」」
司会の紹介に合わせて『パンキッシュクリエイト』が入ってきた場所の反対側から人が入ってくる。
ただし、その数は二人分だけ。
4対4と予告されていたにも関わらず二人しか入ってこなかったと言う事実に、観客たちは少なからず動揺を見せ、ざわめく。
『えー、ご説明いたします。今回『ナルキッソスクラブ』は決闘を挑まれた側です。その為、決闘に四人までメンバーを出すことを出来ますが、逆に言えば四人未満でも構わないのです。ですので、ルール上は問題ございません。ご安心くださいませ』
「「「~~~~~……??」」」
ただ、ざわめきは司会の言葉とは関係なく大きくなっていく。
何故なら、現れた二人は、ナルがマリーをエスコートしつつ舞台上までゆっくりと歩いていくと言うパフォーマンスを見せながら……否、見せつけながら、移動しているからだ。
「……。やり過ぎたかもしれませんネ。綿櫛はどうでもいいですガ、スズとトモエが怖い気がしてきましタ」
「その時は俺から提案したと言う事実と共に庇うから安心してくれ」
「お願いしますヨ、ナル。あの二人に喧嘩を売られたラ、金貨が何枚あっても足りませン」
「それはそうだろうなぁ……」
「「「~~~~~……!?」」」
そして、マリーとナルが仲良さそうに会話していることもあって、ざわめきはさらに大きくなっていく。
だが、二人は観客のざわめきなど関係ないと言った様子で舞台上まで移動し、手をつないだままアサルトアントンたちと相対する。
「ヒュウ。見せつけてくれるね。色男」
「そうですね。実際見せつけてます。相手は先輩たちじゃありませんが」
「だろうな。さて、観客たちが落ち着くまではトークタイムにするべきだと思っているんだが、どうだ?」
「いいですね。それでいいと思います」
アサルトアントンがナルに話しかけてくる。
「それで……スズとファスが居ない事で、先輩たちの対策はどれだけ無駄になりましたか?」
「一つ二つ……まあ、幾つか無駄にはなったな。とは言え問題にはならねえよ。むしろ、こっちにとっては好都合だ。自爆特攻ぐらいは難なくこなしてきそうなスズに、明らかに何かを隠し持っているファス。この二人に割く魔力が必要なくなったんだからな」
「そうですか……」
「そもそもこっちとしては、お前たち四人とも倒すつもりで対策を組んでいたんだ。だから、最初から居ない事はこっちにとって有利に働くことはあっても、不利に働くことは無い。これは断言してやるよ。お前たちが二人だからこその何かを持っていたとしてもな」
会話をしつつナルは思う。
やはり手強い相手のようだ、と。
アサルトアントン含め、『パンキッシュクリエイト』の面々はスズとファスが不在であるために、組んできた対策が無駄になった事を、本当に何でもないと思っている。
こちらが二人になった事で数的有利を最初から得ているのに、油断する様子も見られない。
むしろ、俺たちが二人になった事で、緻密な連携を必要としなくなったのを警戒している節すら見られる。
『静粛に……よさそうですね。それでは、観客の皆様も証人として決闘を始めてまいりましょう! 決闘者の皆様は位置につき、準備を始めてください!』
「あまり先輩を舐めるなよ。ナルキッソス」
「舐める気なんてありませんよ。アサルトアントン」
「さて、何をしてくるつもりかしら? マリー・アウルム」
「その時が来たラ、その身で知れますヨ。スキンドーラ」
「私たち余ったね。チェーンベルタ」
「いや、無理に流れに合わせなくてもいいんだぞ。シャロ……痛っ!? バ、バットシャーロット……」
舞台上の六人はそれぞれの陣地内の好きな場所へと移動していく。
多人数で行われる決闘では、決闘開始時の位置を決める段階から、既に戦術の内であるからだ。
だから、マリーは舞台の端ギリギリに立ち、ナルは自分の陣地の一番前に立つ。
対する『パンキッシュクリエイト』の面々はアサルトアントンとチェーンベルタの二人が前に立ち、そこから少し後ろの位置にスキンドーラと味方にローキックをかましたバットシャーロットが立つ。
『それでは……3……2……1……決闘開始!!』
「マスカレイド発動! 魅せろ、ナルキッソス!」
「マスカレイド発動! 旅立て、マリー・アウルム!」
そうして決闘が始まり、全員が一斉にマスカレイドを発動する。
まずマスカレイドを完了したのはナルキッソス。
全身を包み込む光の中から現れたのは絶世の美女。
ただし、身に着けているものは制服でもブルマでもなく……シスター服。
宗教に関係するものこそ身に着けてはいないし、髪の毛を頭巾の中に入れたりもしていないが、その意匠は明らかに修道女とも呼ばれるものである。
ただ、手に持った強化プラスチック製の半透明の盾と胸部の盛り上がりを以って、清楚とは明らかに無縁な姿でもあった。
続けてマリー・アウルムもマスカレイドを完了する。
黄金色の結晶に包まれ、割れて、その中から出て来た姿は喪服を身に着け、傘を手に持った未亡人。
だが、普段と違ってその腰には重たい何かが詰まった袋が提げられていて、既にマリーの手の片方は袋の中へと入れられている。
「「「「マスカレイド発動!! 反逆の時間だ!!」」」」
「アサルトアントン!」
「チェーンベルタ!」
「バットシャーロット!」
「スキンドーラ!」
対する『パンキッシュクリエイト』もマスカレイドを行う。
デバイスを発動すると共に四人を包み込むように黒煙が集まり、やがて四つの黒煙の渦は一つとなって、巨大な闇の塊へと変化する。
そして、闇の塊がコウモリ、蛾、カラス、甲虫と言ったものに変じつつ萎んでいき、中から四つの人影が徐々に姿を現す。
つまり……。
刺々しい髪型はそのままにマッスルゾンビと化したアサルトアントン。
包帯の代わりに鎖を巻き付けたミイラのチェーンベルタ。
口元から牙を覗かせるヴァンパイアのバットシャーロット。
杖を持ち、マントを身に着けたスケルトンのスキンドーラ。
光ある世界、生命溢れる世界へと反逆の意を示すかのような四人が、ナルたちの前に姿を現した。




