160:決闘を受けての戦術確認
「それでは私も失礼させていただきます。決闘の方、応援させていただきます」
「これ以降については決闘の当事者だけで考える事だと思いますので、私も失礼させていただきます」
そう言って楽根さんと東鳴さんも部屋から退出。
「今戻りました。ちょうどいいタイミングのようですね」
そして、入れ替わるようにイチが部屋の中に入ってくる。
どうやらスタジオの片づけが終わったらしい。
「イチ。どうだった?」
「綿櫛については今日のサークル活動を休んで自室に戻り、そこで誰かと連絡を取り合っていたようです。聞き耳を立てて聞こえてきた限りでは、『コトンコーム』社の社長である祖父が相手であり、次の決闘まで大人しくしているように言われたのだと思う」
「ん?」
「はイ?」
と、思っていたら、なんか想像とは全く違う返答がイチの口から発せられた。
どう聞いてもスタジオの片づけに関わっていた人間の言葉ではない。
「サークル『パンキッシュクリエイト』については?」
「『ナルキッソスクラブ』に決闘を申し込んだ後は自分たちの部室へ移動。ナルさんが決闘を受けてくれる前提で、今度の決闘をどのように戦うかを話し合っているようでした」
「彩柱先輩は?」
「流石に追えません。イチの体は一つなので。ただ、戻ってくる時に寮へ友人たちと帰ってくる姿は見かけましたので、不審な点を見せるならこの後だと思います。様子からして何も起きないでしょうけど」
「「……」」
えーと、これはつまり、こう言う事か?
「イチ? スタジオの片づけは?」
「事情を話して抜けさせてもらいました。イチの本分は情報収集や護衛の方なので、そちらを疎かにするわけにはいきません」
「あ、はい。そうですよねー」
どうやらイチはサークル活動よりも、諜報員としての仕事を優先してくれたらしい。
いや、イチの立場を考えたら当然の事なんだろうけど……。
今言った情報はイチだからこそ得られた情報なんだろうけど……。
決闘の方が重要なのも分かるのだけど……。
うーん、こうなった時に俺が言えるのは……。
「ありがとう、イチ」
素直に礼を言う他ない、か。
「いえ、ナルさんにお礼を言われるほどの事では」
「イチ、素直に受け取ってあげて。ナル君はイチの意思を尊重しているからこそのお礼だろうし」
「……。分かりました」
そして出来る事は、イチが得てきた情報を有効活用する事なのだろう。
そうは言っても、イチが今回得てきた情報で有用そうなのは、綿櫛も『コトンコーム』社も、『パンキッシュクリエイト』との決闘が終わるまでは大人しくしてそうだって事ぐらいだろうか。
横やりの類は入れられないだろうけど、逆に言えば、相手が反則と言う致命的な悪手を打つ可能性は潰えたことになるな。
つまり、決闘については真面目に戦って勝つ他ないと言う、至極当たり前の結論が出たわけか。
「じゃ、話を進めるけれど。ナル君、マリー、決闘に臨むのは二人になるけれど、いいよね?」
「何も問題はないな。俺がサークルのリーダーで、最大戦力なんだから、出ない理由が無い」
「マリーも問題はありませン。相性問題もありますシ、賭けるのもマリーの金貨ですからネ」
決闘の形式は2対4で、こちらが二人の側になる。
ただこれを『パンキッシュクリエイト』側に通知する気はないらしい。
スズ曰く、小隊の人数を減らす行為は、基本的には自分たちが不利になる行動であるため、勝手にやっても問題にはならない、との事。
「そうして居ないスズとイチ対策でスキルと思考のリソースを決闘直前まで削り続けるのですかラ、エグイ策略ですよネ」
「仕掛けてきたのはあちら側だからね。これぐらいのやり返しは当然でしょ?」
「ちなみにこの情報が相手に漏れていたら?」
「その時は彩柱先輩が敵側だって分かるだけだね。無いと思ってるけど」
「イチが調べた限り、綿櫛にとっては彩柱先輩も嫉妬して足を引っ張る機会を狙っている相手のようですからね……」
「どうしようもない女ですネ……。彩柱先輩は競う相手じゃないと思うのですガ」
「まあ、綿櫛だしな……」
うーん、流石はスズと言うべきか。
まあ、俺にとっては有利に働くし、違法性も何もないし、問題はないか。
「さて、ここからは実際にどう戦うかだけど……。あ、来た。ナル君、ナル君にプレゼント」
「プレゼント?」
此処でスズから情報が送られてくる。
これは……スキルか?
どうやら、つい先ほど『ライブラリ』に登録されたらしい。
名称は……効果は……となるともしかして……?
「これ、俺以外には使えないスキルなんじゃないか?」
「ナル君以外は使っても意味がないスキルと言った方が正しいんじゃないかな?」
「製作者不詳ですが、スズの反応からしてそう言う事ですか?」
「そうそう、ほぼ間違いなく燃詩先輩が作ったスキル。ナル君のユニークスキルを解析した結果からの成果、第一弾ってところかな?」
「なるほド。こうしてナルなどが必要なスキルを作る事によって利益を上げているわけですカ……流石の賢さですネ」
なるほど、上手く使えば、『パンキッシュクリエイト』との決闘は勿論の事、今後の決闘でも便利そうなスキルだ。
何より、俺にとっては初めての任意で使うスキルであり、ようやく普通の決闘者っぽい戦いも出来ると言うのに、多少の嬉しさを覚えるな。
「じゃ、そのスキルの存在を前提に、どう戦うかを話し合っていこうか」
「だな」
「ですネ」
「出来る限りのサポートをさせていただきまス」
その後、俺たちは夕食の時間に間に合わなくなるギリギリまで、事務所で話し合いを続け、それから『パンキッシュクリエイト』の決闘を正式に受けた。




