155:宣伝材料写真の撮影
「「「本日はよろしくお願いします!」」」
7月3日の午後。
俺たちサークル『ナルキッソスクラブ』の面々は事務所で揃って挨拶をしていた。
「こちらこそよろしくお願いします。『ナルキッソスクラブ』の皆さん」
「本日は誠にありがとうございます」
「我々スタッフ一同、誠心誠意仕事をさせていただきます」
俺たちの挨拶に返してくれるのは、『シルクラウド』社からまとめ役として来てくれた楽根さん、学園外務部の東鳴さん、それから実際に撮影や照明などの作業をしてくださるスタッフさん方である。
「では早速始めてまいりましょう」
「「「はいっ!」」」
と言うわけで、顔合わせも終えたところでスタジオの方へと移動して撮影開始である。
「まずはマスカレイドをしていない状態での撮影を終えてしまいましょう」
「そうですね。本来の姿は男性であるという事を、スタッフ各員がきちんと認識出来てから、次のステップには進みましょう」
「それでは、カメラを担当するスタッフの指示に従って動いてください」
「分かりました」
まずはマスカレイドを発動していない状態の俺を撮っていく。
最初は学園の男子制服を着て、真っすぐに立った写真。
それから少し体勢を変えたり、着崩したり、俺が良いと思ったポーズなどをカメラさんの指示に従って取り、その状態の俺を撮っていく。
流石はプロのスタッフさんと言うべきなのだろう。
指示が分かり易く、テキパキと進んでいく。
「あー、遂にナル君の写真が世に……ナル君の魅力が世に広まって……ふふふふふ、ナル君、嬉しいだろうなぁ……」
「顔も姿勢もいいかラ、映えがとんでもないんですよネ。ナル」
「なるほど。照明機材はそのように扱って。小物はこのように並べて……」
なお、俺が撮影をしている間、スズたちもそれぞれにやるべき事をやって、学ぶべき事を学んでいる。
スズならカメラマンさんの横に立って瞳を潤ませながらも、カメラの扱いや指示の出し方を。
マリーなら次の衣装の出し方や、外とのやり取り、必要なら休憩時に飲む物の準備などを。
イチなら照明器具を初めとしたカメラ以外の機材の扱い方を。
と言う具合だ。
「では衣装を変えて、同じように撮っていきましょう」
「はい、分かりました」
指示があったので、別の服に着替えて、それから撮っていく。
俺のセンスを見るためなのか、まずは俺が自分で選んだ服装を。
その次に、俺が選んだものとは別系統の服を。
幾つかの小物も使って、撮影していく。
「お疲れ様です。えーと、これでマスカレイドを発動する前の写真は十分ですね。では、休憩を挟んでから、マスカレイド発動後の写真を撮っていきましょう」
「はい、お願いします」
うん、いい感じに撮れたことだろう。
スズがすごく喜んでいる感じの表情をしているので、きっとその筈だ。
「では、休憩終わります。翠川さん」
「では……マスカレイド発動。魅せろ、ナルキッソス」
そうして何事もなく休憩時間が終わり、マスカレイド発動後の姿……つまりは仮面体の俺を撮影する時間になる。
なので、俺はまずマスカレイドを発動する。
「「「……!?」」」
「どうかされましたか?」
「い、いえ、何でもありません……」
俺の姿は女子制服を着た姿である。
なので、特におかしな部分は無いはずなのだが……スタッフさんの一部がなんだか動揺している感じである。
「なるほど……これは男子の状態から始めて良かった……」
「慣れない内に、あの美貌と魅力に当てられたら、どうなっていた事か……」
「女性でもヤバいですよ、アレは。魅了機能とかあっても驚きません」
「?」
「一般人にはナルちゃんが刺激的過ぎるってだけの話だから大丈夫だよ」
「ああなるほど。俺が魅力的なのは事実だから仕方がないな」
どうやら、俺が魅力的過ぎるせいで、一部のスタッフさんを動揺させてしまったらしい。
うん、俺の美しさが想定外である人が居るのは仕方がないが、俺に出来る事は何もないな。
だって、それはつまり、その人が想像していた最高の美女よりも、今の俺の方が美しかったと言う事であり、その認識の上書きに対して俺が出来るのは詫びを入れる事ではなく誇る事なのだから。
「で、では、撮影を始めていきます」
「はい、よろしくお願いします」
「っ!? 発動前は男……オトコ……」
と言うわけで撮影再開。
流れとしては男子の時とほぼ同じで、制服姿で一通りのポーズを撮影し、俺が選んだ普段着で撮影し、誰かが選んだ衣装でも撮影する。
なお、制服から普段着へ変更する際には『ドレッサールーム』を使用して、一瞬で着替えた。
おかげで、スタッフさんたちからは非常に驚かれた。
で、此処からは少し変わっていく。
「さて、水着だな」
と言うわけで、『シルクラウド』社からの依頼でもある水着、それから夏の装いとしてワンピースや薄手の衣服と言ったものを着ていく事になる。
なので水着……白のビキニを着用して、俺はカメラの前に出る。
「「「!?」」」
スタッフさんたちは……男女問わず動揺しているのが目に見えている。
どうやら、これまで以上に刺激的な見た目に、再び想像を超えてしまったらしい。
だが、スタッフさんたちの動揺も仕方がないものであると同時に可愛いもので、理解も及ぶ。
俺自身、着替えて、鏡で見た時はちょっと動揺したからな。
全裸の状態と比較して、遜色がないと言えてしまうような美しさだったのだから。
「……」
「スズ?」
「シ、死んでいまス……」
「いえ、スズは気絶しているだけです。気絶!?」
なおスズは立ったまま気絶し、鼻血を垂らしている。
限界を超えるとは正にこう言う事なのだろう。
マリーが定番のボケをして、イチがノリツッコミをする程度には、場は混沌としている。
「なななななナルちゃんのみみみみみ水着ぎぎぎぎぎ……ししししし白のビキニににににに……太陽の日差し、潮騒の音、白い砂浜、寄せて返すはあおおおおおお……」
「これ、保健室に送るべきだとイチは思うのですが?」
「えート、校内救急搬送のための番号ハ……」
「ああ、大丈夫だ。イチ、マリー。俺に任せておけ」
とりあえず、このまま場が混乱し続けているのは良くない。
と言うわけで、俺は立ったまま気絶しているのに、何かを呟き始めたスズの横に立って、耳元で囁く。
「スズ。妄想の俺より現実の俺の方を見たいと思わないのか? 妄想の俺より現実の俺の方がもっと美しいことはスズなら良く知っているはずだろう? でも、このままだと……見逃すことになるぞ?」
「……」
スズの呟きが止まる。
そして、二度三度と震えた後。
「見たいです!」
「よし」
「復活しましたネ……」
「毒で毒を中和したような……」
スズは戻ってきた。
うん、上手くいったようで何よりだ。
「えー、一時休憩にしましょう。10分後に撮影を再開しますので、それまでに各自メンタルを落ち着かせるようにお願いします」
が、撮影そのものは東鳴さんの言葉でもって、10分の休憩時間に入るのだった。
なんか気が付いたら、先ほどまでのスズのように行動を停止しているスタッフさんが多数居る状態になってしまったようなので……うーん、これは仕方がないな。
と言うわけで10分、俺は各種水着を『ドレッサールーム』で出し入れできるように、魔力を通している事にした。




