152:小隊行動練習・攻撃連携
「……。それでは只今より攻撃連携についての説明をします。よく聞いておいてくださいね」
攻撃連携の実践練習をやるエリアにやって来た俺たちはしばらく待ち、ある程度の人数が揃ったところで樽井先生は説明を始めてくれた。
で、説明が終わったところで、小隊ごとに結界で仕切られたブースの中に入る。
「マスカレイド発動。魅せろ、ナルキッソス」
「マスカレイド発動。映して、スズ・ミカガミ」
「マスカレイド発動。旅立て、マリー・アウルム」
「マスカレイド発動。揺らげ……ファス」
まずは四人揃ってマスカレイドを発動。
全員、仮面体になる。
そして、ブースの中に体育祭でも使われていたらしいダメージを測定してくれる的が出現する。
「それじゃあナルちゃん。頑張ってね」
「気を付けますガ、しくじった時は耐えてくださイ」
「ああ、分かってる。とは言え、出来るだけ当てないでくれ」
「善処します」
さて、小隊を組んで戦うとなった時に、一対一で戦う場合と一番大きな違いは何だろうか?
それは誤射をする可能性がある、と言う点である。
仮面体ごとに適正な戦闘距離と言うものが違う以上、小隊を組むと必然的に前衛や後衛と言った立ち位置の違いも生まれてくる。
そうでなくとも、相手の攻撃を上手く回避して、別の相手に当てると言う戦術は俺でも思いつくくらいには一般的なもの。
ゲームのように誤射をしてしまった時の威力を著しく軽減するスキルも一応存在してはいるが、当然のように燃費は劣悪極まりないものだし、そんなものに貴重なスキルの枠を一つ割く余裕があるとは限らない。
そこで今俺たちがしているように……。
「でハ、行きまス! 『ゴールドパイル』!」
「っ!?」
マリーが言い終わると同時に、前に向かって盾を構える俺の後ろから、頭の横の空間をすり抜けるようにして黄金色の杭が飛んで行き、その先にある的へと突き刺さる。
的に杭が突き刺さる事で響く音も勿論しているが、それ以上に耳に入ってくる風切り音が非常に怖い。
その音から誤射してしまった場合の威力が想像できるが故に。
そう、今やったように、後ろから攻撃が飛んでくると言う感覚を前衛は知っておく必要がある。
後衛も、前衛に攻撃を当てないようにするにはどうしたらいいかを考える必要がある。
そして、それを学ぶためには、こういう訓練をしなければいけない、と言う事らしい。
「ナルちゃん。大丈夫?」
「大丈夫だ。問題ない。信じているから……っ!?」
「すみません、ナルさん。こう言う事も必要だと思いますので」
「そ、そうだな……」
なお、言うまでもないことだが、後ろから予期せぬ攻撃が来たならともかく、味方のものだとはっきり分かる攻撃が飛んできたのに振り返るようなことはしていられない。
そんな隙を前衛が晒したら、チャンスと思われて殴られるだけである。
だからと言って、無言で脇下を通り抜けるようにファスのクロスボウの矢が放たれたなら、流石にビビるが。
いやこれも慣れないといけない事ではあるんだろうな、うん。
「なんと言うか、全員後衛とか、全員前衛とか、そう言う極端な編成の小隊がある理由が分かった気がする。と言うか、前衛で盾を持てる決闘者が少ない理由がよく分かる。これは適性が無い奴には絶対に無理な位置だ」
「ナルちゃん。不安ならマントとか鎧とかを身に着けると言うのも有りだと思うけど。なんなら戦略の見直しも図るけど……」
「……。衣装についてはちょっと検討はしておく。戦略は大丈夫だ。その内に慣れる」
ちなみに、俺たちナルキッソス小隊の場合。
俺は言うまでもなく前衛。
スズとマリーの二人は勿論後衛。
ファスは……多少後衛寄りだが、正確に表現するならば中衛とでも言うべき、どちらにも居れる立ち位置になるだろう。
「分かった。ナルちゃんが大丈夫なら、次は軽めの連携をやるね」
「……。分かった」
「マリー」
「はイ。ぐびっと行きましテ……『ゴールドパイル』!」
先ほどよりも威力が増した黄金の杭が的に向かって飛んで行き、突き刺さる。
さて、この攻撃連携では他にもやるべき事がある。
それが、小隊メンバーの仮面体の機能やスキルを組み合わせる事によって、攻撃の威力を上げる手段を探す事である。
例えば今行われたように、スズの調合で作った薬品をマリーが飲んで、威力が増強された『ゴールドパイル』を放ってみる、とかだ。
他にも、四人で被らないように連続攻撃をしたり、一人にスキルによるバフを重ねて動いてみたりと、実際の決闘でやる前に確認しておくべき連携はとにかく多い。
今この場は他の小隊の目があって、隠し玉が使われる事が無いはずなのだが、それでもなお多様と言える程度には、連携として考えられることは多い。
うーん、もしかしなくても、この辺りもまた、今のマスカレイド用のデバイスが攻撃偏重に偏っている理由になるのかもな。
四人分の仮面体の力を結集した一撃とか、よほど相性がいいもので無ければ、俺でも耐えられるか怪しいし。
スズの薬で強化をしてもらえれば、耐えられるだろうけど。
「とりあえずはこんな所か」
「そうだね。今はこれくらいでいいと思う」
「とっておきは此処では出せませんからネ」
「はい。隠しておいた方がいいと思います」
と言うわけで、攻撃連携は一先ず終わり。
俺たちはブースの外に出る。
「次は?」
「座学は……教本や動画サイトの紹介だけだね」
「大玉転がし亜種デ、仲間を運ぶと言うのもあるようですネ」
「綱引きの要領で息を合わせる訓練にすると言うのもあるようです」
うーん、色々な訓練があるんだな。
なお、どの訓練も次回以降は自分たちで学園に行う事を申請して、各自がマスカレイドの授業時間に自主的に行う事になる。
今日はあくまでも、こんな訓練方法があると言う紹介をする場だからだ。
「とりあえず次は大玉転がし亜種に行くか。お互いに運んで運ばれてをやってみて、出来ない組み合わせがあるかとか考えてみないとな……」
「「「!?」」」
「ん?」
その後、俺たちは大玉転がし亜種として、小隊のメンバーを100メートルほど運ぶのにどれぐらいの時間がかかるのかと言う訓練に行った。
行ったのだが……スズたちは俺にお姫様抱っこを求め、どうしてだが護国さんもそれに合流して何故か認められ、俺は何度も往復する事になった。
いやまあ、女性がお姫様抱っこと言うものに憧れる気持ちは理解しているので、やりたがるのは分かるし、俺とスズたちの関係性から考えても自然な事なのだけれど……。
一応、これは緊急時に小隊の他のメンバーをどう運ぶかを考える訓練なんだが……。
うーん……。
まあ、訓練そのものは真面目にやっていたので、別にいいか。
俺は流すことにした。




